第九十八話「あんまり"私立だから、国公立だから"とか言いたくないけど……」
いざ、大神正臣教授の元へ向かう……ハズだったのだが!?
読者のみんな、御機嫌よう。
毎度毎度本作『つい☆ブイ!』に寄り添ってくれてありがとう。最近は厳しくも信念と愛を感じる感想なんかも貰えて作者も喜んでたよ。
さて、それはそれとして今回も例によってこのあたし、便利屋魔女のパルティータ・ピローペインがお送りするよ~。
「さぁて、と。待たせちゃ悪いし早速大神先生の研究室に向かおうか」
「ええ。先方は我々と違い多忙でしょうし急ぐに越したことはありますまい。して、件の研究室は何処に?」
「ああ、待ってね……今案内図を確認するから」
場面は東方の大国"陽元"西部の大都市"螢都"に建つ名門私大"螢都総合科学大学"の敷地内。
同大学が誇る考古学のスペシャリスト、大神正臣先生に会いに来たあたし達は、彼の研究室を目指して大学構内を進んでいたんだけど……
「確かこの建物の三階が大神先生の研究室なハズなんだけどね――
「ンアアアアァァァァァァ! そこの女アアアアァァァァッ!
アンタ今太神将臣の名を口にしたんかボケゴラアアアアァァァァ!」
「「――――」」
刹那、大学構内に響き渡るのは悲鳴にも似た怒声……声と口ぶりから察するに、二十歳行くか行かないかぐらいの若い女だろうか。
そんな奴に呼び止められたような気がして、ダイちゃん共々ほんの一瞬動きが止まってしまう。
「――いやはや、然しよもや昨日一日の内に教授殿とのアポまで取っていて下さるとは思いも寄りませんでしたなァ。流石はパル殿、仕事がお早い」
「なーに言ってんの、行き当たりばったりな愚策が丁度良くいい感じに当たっただけじゃんね」
けどあたし達はそいつに反応しない。
ネット上とかならともかく(或いは、ネット上であってさえも)生身で向き合ってる屋外であんな大声出すヤツになんて、関わり合わないに越したことはないからね。
そもそも明確にあたしを呼び止めたとも限らないワケだし……
「それ言ったらザイちゃんだって、昨日は螢都中の書店とか図書館を巡り歩いちゃ関連資料集めに奔走してくれてたじゃん?
しかもジョウセツ以外の天瑞獣に関係がありそうな資料まで結構幅広くさぁ。それってあたし、凄いことだと思うけどな~」
「ゴラアアアア! そこのノッポで白髪のお前エエエエエエ!
他人様が声かけとんねやでなんか返事せんかァァァァァァァ!!」
けど無視されても女は諦めていないようで、尚もあたし目掛けて叫んでくる。
このまま放置しても鬱陶しいだけだし、軽く黙らせようかと魔術の構えを取ろうとした、その時……
「ちょっとアンタアアアア――――
「初お姉ちゃんっ何してん!? みっともない真似やめてぇな!」
こちらに駆け寄ろうとする女を必死で止める、別の女……口ぶりからして妹で間違いないだろう。
「なんやスバル!? 妹風情が姉ちゃんに逆らう気か!? てかあんた、学校はどしたんよ!? まさかサボってへんやろね!?」
「今日は創立記念日で休みや、サボってへんわ! そんなことより初お姉ちゃんこそ、
まぁた講義サボって変なことしてんねやろ!? もうやめてよそないこと! 家族みんな心配してんねんで!?」
「なぁにが変なことや! ウチの活動はこの腐りきった世の中を変えるための正義の戦いなんや!
そもそもこの大学は何もかんもおかしいねん! せやからウチらが正義の鉄槌を下したらな世の中がどんどん悪うなってくんや!」
「何がおかしいん!? この大学なんもおかしくないやん! おかしいのは初お姉ちゃんの方やないの!?」
「スバル、あんたまでそないこと言うんか……? なんでみんな気付かへんねん!?
あの大神将臣ちゅう大悪党が平然と職員やっとる時点でこの大学は悪の巣窟なんや!
ほんでからその大神の名を口にしたあの女とその連れの男!
なんや大神に会いに奴の研究室行くとか言うとったんや! ほんならあいつらも大神の同類やろがぁ!」
「おかしい! その理屈はおかしいやんか! 大神先生もあの人らも別に悪党ちゃうやんか!
ほんまやめてよ初お姉ちゃんっ! いつまでもこんなこと続けるようなら、もうお祖父ちゃん仕送りせぇへんし学費も出さへん言うてんで!?」
「なっっ……!?」
瞬間、騒いでいた女が一瞬黙り込む。どうやらあいつ、バカ高い私大の学費や、果ては生活費さえも身内に頼り切りらしい。
「どうせ初お姉ちゃんバイトも何もしてへんのやろ!? 『勉強に専念するからバイトする暇ない』言うて、お爺ちゃん無理矢理説得しとったもんね!?」
「……」
「ほんでお祖父ちゃん、他の皆が止めるのも構わず『孫が真面目に将来考えて本気出しとるんなら支えたらな男が廃る』言うて、学費から家賃から生活費まで何もかんも面倒見てくれとぉやんか!
せやのに初お姉ちゃん、ろくに勉強せんと変なサークルに入り浸って、先生や無関係の人悪者にしてっ!
なんが正義や、しょうもない! 腐りきっとんのは世の中やのうて初お姉ちゃ――
「ゥウアアアアァァァァァァッ! ふざけんなゴラァァァァァ!」
「ぎゃっっ!?」
刹那、姉は妹を殴り飛ばしていた。
最早いつ衝動的に人を殺しても不思議じゃない目付き……こうなるともう見過ごしちゃいられない。
「興味本位で観察してたらなんか真面目にヤバいことに……ザイちゃんっ」
「ええ、乗り掛かった船です。最悪の事態に発展する前に奴めを止めねばっ」
てわけであたし達は早速その場への介入を試みるけれど、なんだか姉の様子がおかしいんだ。
「グ、ぅウ……なん、デヤ……ナんでヤ昴ぅ……なンデお姉ちゃンノ言い分がわカレへんのや……?
なアンでオ姉ちゃンの正義をりカいしテクレへんのやァァ……!?」
「お、お姉、ちゃんっ……!?」
明らかに正気を欠いたとしか思えない表情を浮かべた姉は、どうにも有害極まりなく、明らかに不吉そうなオーラを纏っていた。
「フザけんなァ……! だレモ彼モなんやカンやゴチャゴチャトノタマイオッテエエエエ!」
女が叫ぶのと同時、奴は大柄でいかつく全身真っ黒な大鬼に姿を変えていた。
元の種族は多分エルフっぽかったけど、当然そんな要素なんて微塵も残っちゃいない。
「お、姉ちゃん……? なんで……そんな……
嘘や……嘘や……! 嘘や嘘やっ! 嘘やああああああっ!」
パニックに陥る大学構内、響く妹の慟哭……かくしてあたし達は、化け物と化したアホな大学生と戦うハメになってしまったってワケさ。
「ムウオワアアアアアアアア!!! ウチハナンモマチゴオテナイイイイ!!!
ウチコソガセイギナンヤアアアアアアアア!!!」
「嫌やあああ! お姉ちゃんっっ! お姉ちゃあああああん!」
大鬼と化して暴れ回る姉と、泣きじゃくる妹……
図らずも事件現場に居合わせることになってしまったあたし達は、大鬼の猛攻を掻い潜りながら妹を助け出す。
「んー、こりゃまたどうにもヤバいことになっちゃったなぁ……」
「原理がどうにも理解できん……」
ほんとだよ。
確かにレビューで東映っぽさがあるとは指摘されてたけど、こんな所で東映らしい展開してくるのは流石に反則なんじゃないの?
「一先ずお嬢ちゃん、あんたは逃げな」
「貴女様のお姉様は我々がどうにか致します故……」
「え? ぁ、はひっ! どなたか知りまへんけどっ、宜しく頼んますぅっ!」
まぁ愚痴ってたってしょうがない。
警察か消防か軍隊か、もしくはヤクザや自警団かもしれないけど、とにかく然るべき組織が到着する迄はあたし達で食い止める他ないだろう。
(しっかし本当に誰も居ないなあ……)
瞬く間に蛻の殻と化した大学構内は、あたし達にとって好都合な事実と不都合な事実の双方を明示してくる。
前者は『逃げ遅れた学生や職員がいない』、後者は『この場にあたし達以外大鬼と戦える程の奴が居ない』ってことだ。
「グウオアアアアアアアアア!!! ナンヤオドレラァァァァ!!!
ウチノイモウトニナニサラシテクレトンネエエエエン!!!」
本当はここで颯爽と、鬼退治の専門家? みたいなのが来てくれたら楽かなぁ~とか思うんだけど……
とは言えあたしも戦闘能力はわりと高めな方だし。ダイちゃんなんて雑な言い方すれば大鬼の上位互換だからそうそう苦戦はしないだろう。
「そりゃこっちの台詞だよこの親不孝もんがぁ~」
「無駄になった学費一ココスキにつき十回殴ってやろう……」
「ヌアンヤトゴラアアアアアア!!!!! ナメクサリヨッテガボケガアアアアア!!!!!!」
てな感じでまぁ、交戦開始となるわけで……
「ヤレヤレ、まぁ〜た面倒なことになっちゃったなぁ……」
「教授殿との面会に失敗したらば、その責任は貴様に取らせるぞ……!」
あんま時間もないし、手加減無しでサクっと終わらせるとしようかねぇ。
次回、変異したアホ女子大生を止めろ!