第九十五話「さて、最初の渡航先に選ばれたのは……」
オメガの儀に向けて天瑞獣の住処を巡る旅に出た狂人カップル!
二人が最初に向かったのは……
読者のみんな、御機嫌よう。
あたしは便利屋で魔女のパルティータ・ピローペイン。
色々あって今回からまた暫くの間、本作『追放Vtuber』はあたしの視点で進行することになるから宜しくね~。
「ムウオワアアアアアアアア!!! ウチハナンモマチゴオテナイイイイ!!!
ウチコソガセイギナンヤアアアアアアアア!!!」
「嫌やあああ! お姉ちゃんっっ! お姉ちゃあああああん!」
「んー、こりゃまたどうにもヤバいことになっちゃったなぁ……」
「原理がどうにも理解できん……」
「一先ずお嬢ちゃん、あんたは逃げな」
「貴女様のお姉様は我々がどうにか致します故……」
「ぁ、はひっ! 宜しく頼んますぅっ!」
「グウオアアアアアアアアア!!! ナンヤオドレラァァァァ!!!
ウチノイモウトニナニサラシテクレトンネエエエエン!!!」
「そりゃこっちの台詞だよこの親不孝もんがぁ~」
「無駄になった学費一ココスキにつき十回殴ってやろう……」
「ヌアンヤトゴラアアアアアア!!!!! ナメクサリヨッテガボケガアアアアア!!!!!!」
さて場面は東方の国"陽元"西方の大都市"螢都"にある私大の敷地内。
さる用件で大学を訪れていたあたしとダイちゃんは、色々あってキレ散らかした挙句何故か化け物と化したアホな女子大生と対峙していた。
「ほんともう、どうしてこうなっちゃったんだか……」
「全く同感に御座います。一体陽元はどうなっているのだ……」
目標は当然、アホ女子大生の鎮圧。
(元がカタギだし、後のこととか考えるとあんま殺したくないんだけど……イザって時は腹括んなきゃだよねぇ……)
あたしは内心頭を抱える。さて、何でこんな事態に陥ったのかというと……
――数日前――
長い長い話し合いの末、最初の行き先を陽元――正確には第八天瑞獣の暮らす"主懇山"――に決めたあたしとダイちゃんは、空路で東方の島国"陽元"西部の大都市"螢都"へ飛んだ。
と言っても、螢都は盆地で空港がないから近くにある虎王の国際空港を経由しなきゃいけなかったんだけどね……。
「いやはや、よもや最上級の座席を取って頂けるとは……自分めの為に有難うございますパル殿」
「いやいや、ダイちゃんが色々クエストこなして稼いでくれたお陰だって。
ただでさえ天瑞獣の住処っていう秘境に行くんだし、金かけられる所にはしっかり金かけて楽しとかないと」
エニカヴァーの空路を往く公共交通機関は、主に地球でもお馴染みの航空機とエニカヴァー独自に発達した飛行船舶の二つがあって、今回あたし達が選んだのは航空機の方。
航空機は飛行船舶に比べて安くて早い分乗り心地や設備面で劣るのが難点だけど、ダイちゃんの稼ぎがいいお陰だろう、いい感じに高級な座席を取れたから概ね道中に不満はなかった。
「さー、来たよっ。螢都……に、最寄りの西冠国際空港!」
「言わばここが陽元西部の玄関口といった所ですかね。
大まかな構造や外観は兎も角として、地球のそれとは比べ物にならん規模のようで……」
だだっ広い空港内は各地から飛んできた、或いはこれから各地へ飛んでいくであろう、色んな種族の旅行者や職員たちでごった返してた。
幾ら治安が悪いとは言え虎王は螢都共々陽元西部を代表する主要都市で、特に西部の経済活動の中心とさえ言われてるから、そりゃ当たり前っちゃ当たり前なんだけどね。
「さーて、ここから一気に主懇山のある螢都まで直行……したいんだけど、なんか予想外に疲労感が半端ないし少し休んでっていいかな……?」
「奇遇に御座いますなァ、自分めもその提案をさせて頂こうかと思っていた所に御座います。何でしたら適当なホテルで一泊して行きませんか」
「うん、それがいいね。期日があるわけじゃなし、情報収集と観光も兼ねてゆっくりしようか」
てな訳で一日か二日ほど虎王でくつろぐことにしたあたし達は、早速近場のホテルにチェックイン。
疲れを取りつつ溜まってたモノを色々発散してから街へ繰り出せば、そこにはヴェーノ市に勝るとも劣らない華やかな光景が広がっていた。
「おっと予想外……こりゃ予想外に長居することになっちゃうかもだねぇ」
「構いますまい。幸いにも我々は予算も時間も比較的余裕がありますし、滞在がほんの何日か伸びる程度は誤差の範囲に御座いましょう」
「そりゃそうだねぇ」
結局予定より少しばかり長めに虎王へ滞在したあたし達は、その後陸路で螢都へ向かった。
――螢都中心部――
さて、そんなわけで螢都へ到着。暫くその辺で観光してみたんだけども……
「ねぇ、ダイちゃん」
「何ですパル殿」
「気のせいかな? なんっかこの辺の人、大体あたしらに対して普通にフレンドリーで優しく丁寧に接してくれるんだけど……」
「それはまぁ……皆様接客業者なのですから当たり前なのでは……」
「別に客商売とかじゃなさそうなその辺の通行人とかもわりと親切だったんだけど。道迷ったら案内してくれたりとか」
「……治安のよい先進国ですし、ごく普通のことと愚考しますが」
螢都の人たち、イメージに反して目茶苦茶優しいんだよね……。
いやまあ、逆のパターンよりはずっといいんだけど、身構えてたもんだから肩透かしっていうか……。
「……よもやパル殿、螢都民は総じて排他的で余所者には厳しいものとお考えで?」
「うん、正直来る前はそんな感じのイメージしかなかったよね」
「パル殿……余所者であり若輩の自分が言うのもどうかと思いますが、それは流石に偏見が過ぎるのではありませんか」
「……そうかな」
「ええ、自分はそのように愚考致します。……確かに螢都の民族性は保守的かつ排他的な傾向にあり、
また古代陽元の中枢を担った歴史ある古都たるが故に誇り高く、それが拗れた結果としてある種の傲慢さを併せ持つのもまた事実かもしれません。
然して民族性はあくまで民族性、所詮傾向に過ぎぬのならば民全員が例外なく"そう"であるとも言い切れますまい」
「……確かに、言われてみればそうかもね」
「"そうかも"ではなく、凡そ殆ど"そう"で御座いましょう。
或いは寧ろ、現在の螢都民としては、そういった外部からの風評に気を病み、悪印象からの脱却を試みる動きすらあるとさえ考えられるのでは?」
「……そうかな?」
「……自分も螢都に関する知識は殆ど持ち合わせておりませんし、所詮私的見解・個人的感想なのは億も承知に御座いますが……
少なくとも今迄我々が遭遇した螢都民の方々が総じて友好的で心優しいならば、せめてその方々だけは信じるのが筋かと愚考致しますが……」
「……うん、そうだよね。ごめん。なんか、旅に出るってことで不安になり過ぎてその辺おかしくなってたのかもしれないわ」
呑気に振る舞うのも良くないけど、緊張し過ぎってのも考えモンだね。
全く、無駄に長く生きてる癖に何やってんだあたしは……。
さて、そんなやり取りがありつつも気を取り直したあたし達は、螢都観光と並行して主懇山やジョウセツに関する情報収集も勧めていったんだ。
次回、天瑞獣ジョウセツと螢都民との関係性とは?