第九十四話「天瑞獣について学ぼう! 第五幕~"迷い子を護る道標"と"重量級賢者"編~」
天瑞獣について学ぶ回もいよいよ大詰め!
読者の皆様方、毎度お世話になっております。
前回に引き続き冒険者の財王龍こと七都巳大竜が天瑞獣について語らい乍らお送り致します。
●第九天瑞獣 『迷い子を護る道標 滋養のレンムゥ』
「九番目は『滋養のレンムゥ』かぁ」
「異名は『迷い子を護る道標』と」
第九の天瑞獣、滋養のレンムゥ。
遺伝子上の種族としては豪雪地帯に生息する食肉類型の大型怪物"雪原刃豹"ですが、より厳密には非知覚種族の一個体が何かしらの要因により自身の縄張りを管理・統治しうる知性や異能、また防衛に必要な高い戦闘能力をも獲得するに至った"領域主"なる変異個体であるそうです。
「領域主……高度な知能と異能、圧倒的戦闘能力でもって縄張りを統治する変異個体、か……」
「一説には存命する陸棲型の領域主としては最古の個体であるそうで」
「滋養ってのは変異で獲得した異能とか魔術とか由来なんだろうなって大体想像がつくけど、異名の『迷い子を護る道標』ってのはこれどういう意味なんだろ。道に迷った遭難者を救助してるとかそっち系?」
「いえ、それがどうやらこのレンムゥ、縄張り圏内やその近辺で家族を失った様々な種族の孤児たちを保護しているそうで」
「なるほどそれ系か」
「元来面倒見がよく忍耐強い性格なため孤児たちから慕われており、昨今は政府公認の野生動物保護・児童養護施設として法人格を与える動きもあるとか」
「シンプルに凄いじゃん……」
住処は島国"陽元"と隣り合う東方最大の大陸"セロメラト大陸"の約半分以上を國土として持つ大国"大真瑞帝国"北部の豪雪地帯"紫忍省"は"真逆理"地区に聳える名峰"瑠璃山"であり、彼女の運営する施設"シャグマユリ"はその麓に建っているので御座います。
「住処が瑞国ってのがかなり怖いけど、当人は人格者っぽいし行ってみるのはアリかもね。本当、瑞国は怖いしマジでロクな思い出ないんだけど」
「パル殿、瑞国で一体何があったのですか……? 確かに瑞国といえば深刻な環境汚染、政府による暴政や独裁体制、日々頻発する企業犯罪など、善からぬ逸話には事欠きませんが……」
「うん、まあなんていうかね、色々とあったんだよ。色々とね……」
●第十天瑞獣 『重量級賢者 湿潤のケイラク』
「ラストは湿潤のケイラク、っと……」
「『重量級賢者』の異名の通り、陸生天瑞獣としてはトップクラス、天瑞獣全体で見てもアークリヴァイオスに次ぐ重量を誇るそうで」
第十の天瑞獣、叡智のケイラク。
先程述べた通りアークリヴァイオスに次ぐ重量級の個体であり、また『賢者』の異名に恥じぬ高い知能と知識の持ち主としても知られております。
種族は恐竜等の古代爬虫類とそれ以外の動物の特徴を併せ持つ非知覚種族”恐混成獣"。
水牛と装盾類の特徴を併せ持つ重厚な風貌に違わず、凝縮された筋肉と武器も兼ねる強固な装甲も相俟って直接的な戦闘能力も高いのだとか。
「天瑞獣でトップクラスの頭脳派で知識人でもあるんだっけ、ケイラクって」
「ええ、その筈です。知識欲や知的好奇心も強く、新たな知識や経験を求める余り様々な事業を手掛けておられるそうで」
「……今調べてみたけど本当に色々やってんだね。
教育機関に芸能事務所、証券会社、保険会社、ローカルだけどテレビ局に出版社、映画配給会社、環境保護団体……」
「その他、レジャー施設や配信者ユニットの運営にも携わっておられるそうで……本当に多芸な方のようです」
住処は熱帯地方に広がる常夏の密林"サイタ・マーティス熱帯多雨林"の最奥へ広がるガイノデオ大湿原並びにレントノイド湖……
原始的な自然環境を色濃く残し、独自の生態系が形成される一方、ネットを通じて世界各地と情報をやり取りするケイラクの住処を擁す関係上電波状況や通信環境には恵まれており、
研究者や探検家、またケイラクとの面会のために現地を訪れた各種事業の関係者などからは重宝されているとの事でした。
「サイタ・マーティス熱帯多雨林か。最近は観光ツアーも増えてきたし、原住民出身のガイドなんかも安めに雇えるしで比較的行きやすい土地だよね。
何より政治的な問題とかそういうのとは殆ど無縁っていうのが嬉しい」
「その分、現地には厄介な動植物や風土病が多いですがね」
「いやぁ、でもほらそこはキャッソスタ王国も同じなわけだし」
「それが、どうにも猛獣毒虫毒草の類に関してはキャッソスタ王国とは比べ物にならぬ程危険であるそうで……」
「うお……っ、でもほら、あたし達そこそこ戦闘能力高いし何とかなるんじゃ……」
「自分も最初はそう思ったのですが、学術的或いは生態系保護の観点から希少価値が高いとされる種も多いのがサイタ・マーティス熱帯多雨林なので……。
しかもどうやら、希少価値の高い種には危険なものが少なからずいるようで……」
「……よし。行き先考えるのはまた明日以後にして今日はもう寝よう、色々疲れたし」
「ええ、そうする他在りますまいなァ……」
さて、そうなると行き先はどうなるやら……
次回、大竜とパルティータが最初に選んだ渡航先は……