第九十二話「天瑞獣について学ぼう! 第三幕~"生ける極限の破壊力"と"変幻自在に煌めくお転婆令嬢"編~」
十大天瑞獣の中でもぶっちぎりで異形過ぎる二体が登場!
読者の皆様方、毎度お世話になっております。
前回に引き続き冒険者の財王龍こと七都巳大竜が、天瑞獣について語らい乍らお送り致します。
●第五天瑞獣 『生ける極限の破壊力 極熱のデトネイション』
「五番目の天瑞獣は……極熱のデトネイション、か。もう名前からしておっかないよね」
「二つ名も『生ける極限の破壊力』と、物騒極まりないですからなあ」
第五の天瑞獣、極熱のデトネイション。
二つ名から見て取れる攻撃性に加え、概ね殆どが脊椎動物の姿である天瑞獣にあって唯一例外的に無脊椎動物めいた姿をしている点に於いても異彩を放つことで知られております。
種族としては主に火山地帯や砂漠といった乾燥した土地に生息する環形動物型の超大型怪物"獄棲長蟲"
――無反動砲や大蛇、はたまた列車ほどの巨体を誇り、口周りから牙や触手を生やしたヒルかヤツメウナギのような怪物――の節足動物的変異体"暴虐兆脚虫"……
つまるところは『全身を黒光りする強固な外骨格で覆われ、トゲにも似た無数の節足が不規則に生えた、ミミズともムカデともつかない化け物』こそデトネイションなので御座います。
「確か単純な長さに限ればクロノコアトルに次いで第二位だっけ?」
「或いは、触手を伸ばしきったアークリヴァイオスを天瑞獣最長とすれば第三位であるとか……反面体重はそこまで重くもなく、四位か五位程度に落ち着くようですが」
「うん、それ落ち着いたって言わないからね? てか他がどうあれデトネイションが大概デカいのは紛れもない事実だしさ。
まずそもそも、仮にいい感じに手ごろなサイズだとしてもぶっちゃけ近寄りがたいでしょこのビジュアルは……」
「それは確かに。パッと見はムカデに憧れた毛虫か、ウニの仮装をしたナマコといったような風貌ですからなァ。
自分は別段虫嫌いというわけではないのですが、或いは重度の虫好きであってもこの異形に対し臆さずにはおれますまいて」
「あたしも虫とか結構得意な方なんだけどね。
まずこのビジュアルの何が一番ヤバイって、顔がどこにあるんだか今一判り辛いっていうか、表情ってもんがないから何考えてんのか本当にわかんないんだよね」
「一応デトネイション自身もそこは気にしているようで、平素から陽気に振る舞うようにしているとのことですが……」
「そう言う問題じゃないんだよなあ……せめて前後と上下がはた目からでもわかるような恰好するとかさー……」
住処は南半球にある"世界最大の島"の別名でお馴染み"アクティベイト大陸"南東部の都市国家"サイズエン・クエイ"の象徴たるハリヅ火山であり、
凶暴で破天荒乍らも正義感と責任感が強く陽気な性格から国民ともある程度友好的な関係を築いているらしく、
国内で放送されるテレビ番組に出演することも珍しくはない……との事ですが、外野からするとどうしてもあの風貌の所為で近寄り難い怪物のようにしか見えないのが実情に御座いました。
「まあ、見た目に反して性格は概ね接しやすいっぽいし、アクティベイト大陸って基本的に平和で治安いいし……他の所がダメだった時用に温存しとく?」
「ええ。或いは一番最初に向かう可能性も出て来ましたが……」
「うーん、それはちょっと心の準備が……」
●第六天瑞獣 『変幻自在に煌めくお転婆令嬢 循環のテンセイ』
「次は循環のテンセイだね」
「異名は『変幻自在に煌めくお転婆令嬢』……天瑞獣の中でも珍しい類人生物型の個体に御座いますなァ」
第六の天瑞獣、循環のテンセイ。異名が示す通り名家の令嬢であり
――とは言えど、天瑞獣はそれそのものが一種の神に近しい存在であるため総じて高貴な存在といえばそうなのですが――
その姿は『身長一.五メートル程度で全身透き通った緑色をした女人』の姿をしているので御座います。
加えて身体に特殊な鉱石を纏い発光させ特殊な魔力を放出、生と死のサイクルによる生命の循環を管理・調整する役割を担っておられるとの事。
故にその種族としましてもしばしば草本亜人や樹木人、或いは精霊などではと言われがちなのですが、実際彼女の種族は人型滴粘体……
即ち不定形な液状生命体の類がヒト型になった存在なので御座います。
「立場と種族的な特性により滅多なことでは住処を離れることも叶わず、然しその不自由さを補うべく昨今はネットでの活動に積極的であると聞きますなァ」
「あー、なんか調べたら出てきたね……なるほど配信者か。つまりある意味ではダイちゃんの同業者?」
「とも、言えるやもしれませんなァ。といって彼女と自分では比べるのも烏滸がましく思えて来ますし、そもそも自分はどちらかというと元配信者なワケですが……」
そんなテンセイの住処は熱帯の王国キャッソスタの領内に広がるテンギャック湿地帯、その最奥部に建つ”姫居屋敷”に御座います。
聞くところに拠れば深く澄んだ沼の底へ建つこの豪邸は、外装から家財道具に至るまでその8割以上が湿地帯に暮らす動植物で構成されており、非日常を味わえる幻想的な雰囲気も相俟って多くの観光客や写真家・テレビクルー等が訪れる国内有数の観光名所でもあるとのことでした。
「キャッソスタ王国かー。
治安そのものはいいんだけど、熱帯地域だから病気とか怖いし結構準備にも手間がかかるんだよねー」
「確かに、熱帯地域というと一筋縄ではいかぬ連中が犇めいておりますからなァ……」
「ま、これも他に行くとこがない場合の妥協案ってコトで……次行ってみよう」
次回、次なる天瑞獣とは!?