第九十一話「天瑞獣について学ぼう! 第二幕~"深淵に潜む大魔王"と"スパークリング・トリックスター"編~」
更なる天瑞獣が明らかに!
今更だけど本作『追放Vtuber』は主人公がVtuberなだけじゃなく、
実在のVtuber諸氏に関するパロネタも多いぞ!
当然天瑞獣のモデルもVtuberの皆様なので、
誰がモデルになっているのか当ててみよう!(圧力)
読者の皆様、毎度お世話になっております。前回に引き続き、七都巳大竜がお送り致します。
さて、"晴天のクロノコアトル"、"宵闇のディロウン"に次ぐ天瑞獣は……
●第三天瑞獣 『深淵に潜む大魔王 大海のアークリヴァイオス』
「お次は第三の天瑞獣、大海のアークリヴァイオスだね」
「『深淵に潜む大魔王』なる異名の通り、天瑞獣随一の頑強な巨体と剛力の持ち主と名高いそうで」
第三の天瑞獣、大海のアークリヴァイオス。
殆どが特定の地域に定住する傾向にある天瑞獣の中にあって例外的に、その活動領域はエニカヴァーの海洋ほぼ全域……即ちクロノコアトルに次いで広大な範囲を動き回る特徴を持ちます。
種族としては諸説あるものの海竜もしくは海洋巨獣であるとされ、
文献や目撃証言により細部は異なるものの、凡そ海洋動物複数種の特徴を併せ持つ怪物じみた異形の姿をしているのは確かなようで御座いました。
因みに余談で御座いますが、エニカヴァーに生息する海棲の超大型怪物の内、
魚類や海獣など脊椎動物型を"海竜"、甲殻類や頭足類といった無脊椎動物型を"海棲巨獣"と呼びます。
まあ、実際の所は海棲巨獣の体内にもその巨体を支える為の脊椎は確かに存在しているので御座いますが……
「ある説によれば、海洋生態系の頂点に君臨しつつ、海洋環境を根底から支える役割も担ってて、
けど漁師とか船乗りの皆さんは名前を聞いただけでも震え上がるぐらいに恐れてるんだっけ?」
「ええ、目撃証言の大半が時化等で荒れ狂う海でのもののため、明確な学術的根拠はないものの台風や津波等、海での悪天候や海が関わる自然災害の元凶である等と実しやかに信じられているようです」
ともすれば大魔王などという大層な異名を冠するのも納得に御座います。
「古来より、島を触手で絡め取り海中に引きずり込んで沈めた、海沿いの都市を津波で押し流し滅ぼした、船乗りや海兵を船ごと食い殺したなど恐ろしげな逸話にも事欠かず……」
「その辺はもう海のデカいヤツ全般に伝わる逸話だし、実話かどうか真偽の確かめようもないけどね……
ただそうなると仮に所在海域を突き止められても実際に近寄れるかどうかって問題が出てくるんだよなぁ……」
「凡そ殆どの漁業関係者や航海士は信心深い方が多いのもあり、アークリヴァイオスの目撃情報が出ると暫く海へ出るのを控える風潮がありますからなァ。
果てはニュース番組の気象情報にも『アークリヴァイオス予報』のコーナーが設けられておりますし……まして出現しうる海域へ船を出すなど断固拒否なさるのは想像に難くない……」
一方、海上警察や海軍、はたまた海賊といった人種はアークリヴァイオスを"海に於ける圧倒的強者の象徴"として神格化・崇拝する傾向にありますが……
どちら相手にも果たしてたかが民間人の私用如きの為に決して安価でない燃料を消費して迄船を出して頂くよう頼めるかは甚だ疑問である上、
仮に神格化・崇拝しこそすれ必ずしも自ら積極的に近寄ろうとはしないでしょう。
「そもそも当のアークリヴァイオス自身がどこ行くんだかわかんないしなあ……」
「全くです。一応、各地の主要な海中国家と友好的な関係を築いており、各海域へ立ち寄った際は各国領内にある海底遺跡や沈没船等、所謂海底に於けるランドマークめいたものを住処としているとの情報はありますがね。一部の住処は時折観光資源として一般公開もされるようです」
「じゃあその辺りの行政機関とかに問い合わせるだけ問い合わせてみようか。……収穫があるとは思えないけど。最悪は潜水艇乗り回してあちこち探すとかしないとダメかもね」
「……潜水艇をお持ちなので?」
「流石に持ってないよ。買うんだよ……。
いや、買うのは流石に高いし自家用潜水艇有償貸渡業者頼らなきゃかも。
あと免許も取らないと……なんか専用のヤツ取らなきゃダメなんだっけ?」
「いえ、資格そのものはエニカヴァーのほぼ全域に於いて小型船舶操縦士免許の一級で大丈夫であったかと思いますが。ただ、船舶とは操縦の勝手が違うようで……」
「うーん、となると今から免許取って潜水艇買うのは悪手かなあ……まあいいや。とりあえず保留で」
●第四天瑞獣 『スパークリング・トリックスター 雷電のシゾーノ』
「なんか空気澱んできたけど次行こう次。第四の天瑞獣、名前は雷電のシゾーノ」
「異名は『スパークリング・トリックスター』……先のアークリヴァイオスとは対照的に、天瑞獣としては最も小柄な個体でしたなァ」
第四の天瑞獣、雷電のシゾーノ。
先程述べた通りその体躯は全十体の天瑞獣の中でも最小。
然してそれ故に天瑞獣随一の機動力を誇りつつ、また頭の回転が速い頭脳派の策士としても知られ、
嘗て魂絆証を求め住処を訪れた箱根鶺鴒女史も取り分け苦戦を強いられたとの逸話が残されております。
種族としては東方地域に起源を持ち現地では"雷獣"の名で古くから認知されていた"雷電鼬"であり、当然乍ら同種族の中でも最上位の個体であるとされています。
「このシゾーノに関しては下調べがかなり大変だったよね……」
「大変、とは……電脳表層域にて閲覧可能な情報が極端に少ない、といったことでもあったので?」
「いんやぁ~逆だね逆っ。ネットで調べるととにかく情報が多すぎる上に書いてある内容もバラバラで、どれ信じればいいのかわかんなくてさ……。
ま、信用に値する出典さえ見付けられればあとはどうってことなかったんだけど、デマ情報載っけてるサイトもその辺巧妙に誤魔化して来たりするからさー……」
「それはまたなんとも妙な話ですなァ。
シゾーノとて他の天瑞獣と同じような存在であり、誤情報をばら撒いて隠蔽するほどのことはない筈なのですが」
因みに住処はエニジ・サンディ共和国北西部の都市セレージョ圏内に聳えるチグニ山……
その山中に湧き出る秘湯"デルピヌス温泉"でのみ、シゾーノとの対面が可能であるそうなのですが……
「セレージョかあ……エニサン随一の豪雪地帯じゃん。
しかもチグニ山近辺の雪はよく降る・結構積もる・かなり解けにくい、の三拍子揃ってて特にヤバいんだよ……
ヤバ過ぎてコマス・ワールド・レコーズが『世界で最も危険な冬山』認定するレベルでさ……」
コマス・ワールド・レコーズとは、即ち地球のギネス世界記録に相当する組織とお考え下さい。
「というわけだから、シゾーノへの接触もちょっと現状は様子見かな……
共和国の内情が落ち着いてきて、かつ雪の降らないあったかい季節を狙って行くしか」
「……その件に関してなのですがねパル殿。
たった今調べてみた所によりますと、よい報せと悪い報せが同時に入って来ましてな。
どちらからお話ししましょうか」
「うーん……いい報せから聞いていいかな」
「はい。速報によると、
共和国政府はライ・ジンドウ教団を殲滅すべく江夏才蔵率いる勇者一団を戦力として投入する決定を下した、との速報が入って参りました。
教団が如何程の存在かは知り得ませんが、現状世界最高峰の殺傷能力を誇るとされる江夏らを嗾ければ或いは、事態の収束も時間の問題かと思われます」
「ホホーゥ、それは確かにグッドなニュウスだねぇ~。
教団が壊滅してエニサンが平和になれば、つまりはディロウンやシゾーノへの接触も楽になるってことだしぃ~?
……で、悪い報せってのは?」
「はい。大変申し上げ難いのですが……シゾーノの住処である秘湯デルピヌスの湯は、ほぼ真冬にしか到達し得ない秘境であるとか」
「……マジ?」
「ええ、マジもマジの大マジに御座います。仔細は省きますが、諸事情によりほぼ真冬に積雪を掻き分けながら進む他ないようで」
「……ダイちゃん」
「はい」
「……次行こう、次」
「畏まりました」
五番目以後の天瑞獣は、せめて辿り着き易い場所に居てくれればいいのですが……
次回、天瑞獣の中でも特に異形のビジュアルを持つ二体が登場!