第九十話「天瑞獣について学ぼう! 第一幕~"蒼穹抱く麗しの慈母"と"夢守りし灰銀の狩人"編~」
いざ、天瑞獣探しの旅……の前に、具体的にどういう奴らなのかおさらいしていくぞ!
読者の皆様、毎度お世話になっております。
前回に引き続き七都巳大竜がお送り致します。
事の起こりは"常夏の楽園"ルシャンテ共和国でのデートを終え、再び冒険者として様々な案件をこなす日々を過ごしていたある日の午前中……
「ダイちゃん、今日ちょっといいかな」
「はい。構いませんが、如何為さいましたか」
その日、さして用事もないので鍛錬か武具の調整、或いは調べものでもして過ごそうかと思っていた所へ、パル殿から思わせぶりに話を振られたので御座います。
「まあそんな大した要件でもないんだけどさ、例の天瑞獣の住処巡りについて話を纏めておきたくてね」
「……そういえば、諸費を稼がねばと躍起になる余り、具体的な渡航計画を練るのをすっかり失念してしまっておりましたな」
「でしょ? あたしも似たようなもんでさ、ふと思い出して昨日から大まかに調べてたんだよね」
言うが早いか、パル殿はコンピュータとプロジェクター、スクリーンを立ち上げ説明して下さいました。
「まず前提として、天瑞獣はエニカヴァー各地にある十箇所の秘境に棲息する高次存在の怪物で、
それぞれが自然現象やなんかを司ってるって逸話があったり、地域によっては神格化されてたりもする……。
その生息地を地図上にまとめると、大体こんな感じ」
スクリーンに映し出されましたのはエニカヴァーの世界地図であり、各所に赤い目印と注釈が書き込まれておりました。
「……天瑞獣の内訳と彼等が身を置く聖所に関しては、
神議会の備統天解士神様や哥要奏鳴華命様から説明して頂いておりましたが、
具体的に聖所の所在を地図上に照らし合わせた図を見るのはどうにも新鮮な気分に御座いますなァ……」
「あたしもこの画像作ってて似たような気分だったよ。で、神様方から天瑞獣について聞いてるってことは……彼らに関してはダイちゃんのが詳しいかもだね」
パル殿の言い分も確かに的確ではありましたが、とは言え二柱の神々よりお話を聞かせて頂いたのはかなり前な上、教わった内容もほんの概要程度に御座いますからして……
「いえ、思い返せばうろ覚えな箇所も御座います故、改めて説明して頂きたく」
「ん、そかそか。じゃあ解説させて頂こうっ」
斯くして彼女は妙に芝居がかった仕草で胸を張り――無論しっかり《揺れて》おりました――パル殿による天瑞獣解説が始まるので御座います。
●第一天瑞獣 『蒼穹抱く麗しの慈母 晴天のクロノコアトル』
「最初の天瑞獣は、晴天のクロノコアトル……」
「異名は『蒼穹抱く麗しの慈母』でしたなァ。
晴天の象徴、果てしなく広がる空を泳ぐように飛び回り、地上を見守り続けておられるとか……」
第一の天瑞獣、晴天のクロノコアトル。
その姿は鳥の如き大翼と黄金の角を持つ空色の大蛇であり、異名通りの慈悲深く心優しき性格であらせられ、多くの人々に慕われていると聞きます。
また美しい姿と卓越した歌声から人々の間では彼女を一種のアイドルとして認識する動きもあるようでした。
「活動領域はエニカヴァー上空のほぼ全域……だけど、主に空中都市ゼログラフィアの周辺空域を根城にしてるみたいだから、会いに行くなら先ずはそこだね」
「ゼログラフィアの始祖四閥はクロノコアトルの絡む事業を取り仕切る等彼女とは切っても切れぬ縁があると聞きますし、必然そうなりましょうなァ」
空中都市ゼログラフィアとは、神話に於いてエニカヴァー文明の黎明期を担った主要国が一つと伝えられ、天瑞獣クロノコアトルの故郷をも擁する由緒正しき大国"カヴァナス"の有志らの手で建国に至った都市国家に御座います。
最大の特徴として、その名の通り国土そのものが空中に浮かんでいる点を挙げずに居られますまい。
原理としては巨大な飛行艦艇或いは空中要塞と呼ぶべき代物であり、また社会構造としては政府及び公的機関が存在せず、国土の"建造"や維持に携わりし四つの大組織"始祖四閥"とそれらの傘下組織により統治される点が挙げられます。
「始祖四閥……っていうと確か、
軍隊兼警察で研究機関でもある"彗星軍閥"、
司法や教育、医療福祉を担当する宗教団体の"桜花教会"、
食糧生産とか天然資源の確保を担当してる"亜月開拓団"、
インフラや経済活動を管理しつつ工業担当の側面もある"荒野商工会"の四つだっけ?
聞くところによるとここ最近はどうも不穏な感じで情勢不安定だっていうし、暫く様子見た方がいいかもだね」
「ええ。現在位置もビットランスからは遠いですし、そこまで焦らずともよいでしょうなァ」
●第二天瑞獣 『夢守りし灰銀の狩人 宵闇のディロウン』
「次は宵闇のディロウン……異名は『夢守りし灰銀の狩人』」
「生物の夢に干渉する能力を持つ絶滅危惧種"夢渡獣"の生き残りにして、その優れた能力から同種族随一の傑物と名高いとか……」
第二の天瑞獣、宵闇のディロウン。
その姿は灰銀の長毛に覆われた、カラカルやサーバルキャットといった"平原暮らしのネコ科肉食獣"に似るのですが……
その実、身に纏う闇の魔力の作用によりその輪郭は大抵ぼやけて映り、目を凝らすなどして注視しようとも目に映るその姿は見る者によって変化するため、
ディロウン自身に許可を得るか、或いは特殊な仕様の機器を用いての撮影でなければその正確な姿を目視する事は叶わないので御座います。
「確か天瑞獣だと例外的に短命で、代々襲名制なんだっけ」
「ええ。なので繁殖可能な年齢に達すると、自身に適合する配偶者候補を探し出し予知夢を見せ住処であるリンカ・エミト低地帯へ導き、伴侶とすべく自ら交渉を試みるそうで。
交渉が成功次第伴侶との間に子を儲け、以後は天寿を全うする迄の間育児に励むのだとか」
「やけに紳士的だね……」
因みにリンカ・エミト低地帯は現状エニジ・サンディ共和国の領土となっております。
同国はカヴァナスと並び称される大国として名高く、それ故多くの国民はその信心深さの故にディロウンを畏れ敬い慕っておられるのだそうです。
「エニサン共和国か……あそこも大概ビットランスからは遠いし、何より近頃はテロ警戒して厳戒態勢だからめんどくさいんだよね……」
「国外追放された悪女"ヴィーレー・グードーン"率いるテロ組織"ライ・ジンドウ教団"から名指しで大々的に予告されておりましたからなァ……。
国外からの渡航者は勿論、国民であっても少しでも疑わしい点があれば平均一週間ほど政府からの取り調べを受け続けるそうですし……」
「うーん……他にルートがあるかもしれないけど、まぁ後回しでいいかな……」
さて、次に控えし天瑞獣は……
次回、次なる天瑞獣は……最大と最小、正反対の組み合わせ!?