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第八十九話「南国の楽園は規格外の巣窟でもあった」

さあ、続いてのデート先は……?

「さぁ! 今日はルシャンテの"陸地"を堪能しようじゃないか! ……ま、海岸は実質的に陸っちゃ陸なんだケドさ……」

「……そう仰らず。凡そのニュアンスは伝わって来ます故」


 読者の皆様、毎度大変お世話になっております。

 前回に引き続き、冒険者の財王龍こと七都巳大竜が、常夏の楽園ルシャンテ共和国の首都レッドカーネルよりお送り致します。


「取り敢えずルシャンテと言うと海とホテルばっかり取り沙汰されがちなんだけど、

 勿論他の観光地も一級品のクオリティだし、何なら観光事業以外にも色んな産業でも世界有数の実績を誇る国だからね、ルシャンテ共和国って。

 何なら実は今回、この国のそういう側面も楽しめるような旅行計画を考えて来てるんだ」

「ほう、それは楽しみに御座いますなァ」


 意気揚々と語られるパル殿の言葉に、我々の内なる期待感は高まります。



( =甘=)<さて、我々を待ち受けるものとは……



「うおっ、とんでもねぇっ……!」

「すごい……まるで海の中にいるみたい……」

「バカな……仮想(V)現実(R)や幻術ならともかくとして、生身の魚の展示でここまでやってしまうだなんてっっ……!」

「半ばぼったくり一歩手前の入館料取るだけあるわね……寧ろこのクオリティならあの入館料でも安いくらいよ」

「宛ら海のひと区画を丸ごと掬い上げて水槽の中へ移したかのようですなァ」

「ホント、スゴイとかとんでもないを通り越していっそエグいよね~。

 あたしも調べた時から必ずここには行こうって決めてたんだけど、こりゃ予想の遥か上、大気圏外を突き進まれた感じだよ」


 最初に我々が訪れましたのは、レッドカーネルに建つ巨大水族館"海宝館かいほうかん"に御座いました。

 技術大国として名高きマルヴァレスより招聘しょうへいせし高名な学者や、海上都市ウィナニス・シティの研究機関等と共同で建造されたこの施設は、

 ルシャンテ共和国周辺海域を始めとする世界各地の様々な生物を飼育・栽培・展示しており、緻密かつ独自の設計がなされた展示設備は本格的の一言……

 来館者はあたかも水中や森の中を進み乍らそこに暮らす動植物(住民)らの生き様を目の当たりにしているかのように錯覚せざるを得ません。

 更に驚異的な点として、この海宝館は研究機関も兼ねており、施設で飼育・栽培・展示されている生物群は何れも施設内にて生まれ育った完全養殖個体であるとの事でした。


「サンゴは株分け養殖だし、動物だって極力野生個体捕まえるんじゃなくてクローンで代用しようとしてるからね~。

 動物の断片から抽出した遺伝子を近縁種の精子や卵に組み込んだりとかフツーにやってるって聞いたときは正気疑ったけどさ……」

「それは……確かに正気を疑わずに居れませんなァ」


 と、こういった具合に最初の行先の段階で既にルシャンテ共和国の底知れなさを思い知った我々でしたが、この後も衝撃の展開は続きます。


「ぅおおおおっ! うめえっ! うめえぞぉぉぉおおおっ! なぁフミちゃん食ってみろよコレ! 滅茶苦茶うめーぞっ!」

「は、ハヤトちゃん、幾ら食べ放題だからってはしたない真似はやめようよ…………でもこのお肉本当に美味しい。不思議と病みつきになっちゃう……!」

「ン……この肉、まさか……いや然し僕の勘違いという可能性もあるか……」

「勘違いなんかじゃないわセイくん。これは間違いなく"ファートンポーク"よ……」


 撫子会長の仰る"ファートンポーク"とは、大国カヴァナスの老舗精肉会社レッドハーツが売り出す超高級豚肉に御座います。

 エニカヴァーにて一般流通する中でも五指に入る程のブランド食肉とされ、料理を選ばぬ汎用性の高さと特上の品質と味に加え、

 通常の豚肉では非加食である骨や内臓に至る迄全身余さず食用可能である等、あらゆる点に於いて豚肉の常識に囚われぬ規格外の商品として名高いので御座います。


「そんな……! あれはカヴァナス国内でも選ばれたお店しか取り扱いを許されず、まして国外で出回るなんてことは原則有り得ないハズじゃ……」

「ええそうよ。私も最初は勘違いなんじゃないかと思ったわ。

 私の知識や経験……内なるあらゆるものが"ただの勘違いだ。これはファートンポークではない"と否定的な意見を述べた……

 けど私の、神獣メタビーストの味覚は、このお肉をファートンポークに違いないと主張し続けてるの……

 パルちゃん、これは一体どういうこと……?」

「おっ、鋭いねぇ撫子さん。その通り、この肉は正真正銘ファートンポークさ。

 ……ここだけの話な上、あまり大声では言えないんだけど、実はこの店の店長とレッドハーツのチャマート社長には浅からぬ繋がりがあってね……

 そのコネでファートンポークを特別に無償で仕入れることができてるんだけど、店長の方針で表向きにはその辺の安い輸入豚肉を使ってるってコトにうなってるんだよ」

「そんな……!」

「驚いたろうね。けどこんなの序の口、ルシャンテ共和国の個人経営店じゃよくあることだよ。

 みんなスゴい裏の顔を持ってるけど、過大評価や騒ぎを嫌ってそれをひた隠しにしてるんだ……」


 昼食の為に訪れた飲食店では、店主の方が抱える驚愕の秘密について聞かされ……その後も行く先々でルシャンテ共和国の持つ"そこの知れぬ規格外ぶり"を、身を以て体験させられたので御座います。


(=甘=;)<全て書くと概ね五話や十話では収まり切りませんのでご了承下さいませ……



「……なんともはや、予想外の連続に御座いましたなァ」


 時刻は夜。

 ホテル"グリーンアイド・ブロンドビューティ"のレストランにて、夕食をつつき乍ら思わず呟かずに居れませんでした。

 それほどまでに、今日という一日は濃厚だったので御座います。


「あたしも、事前に調べてるからそんな驚かないだろうって高括ってたけど、やっぱ自分で実際に見て体験した時の衝撃ってのは桁が違うんだなって思わされたよね」


 事前に調査を進め、計画を練られたパル殿がそこまで仰ると説得力が違ってきます。


「まさに『体験は千人の口伝に優り、考察は千度の体験に優る。行動を起こすなら成果は更に千倍になる』……」

「あー、それって確かマルヴァレス初代大統領のウィステリア・ホーリーホックさんの口癖だっけ?」


 柚木ギルド長の引用した格言には同意しかありません。

 序でに言うと自分めは件の格言が誰のお言葉であったか思い出せませんでしたので、図らずも補足して下さった佐藤部隊長には感謝せざるを得ません。


「あら、良く知ってるわねハヤトくんっ☆」

「より厳密に言うと、彼女の大親友で嘗て魔王軍に在籍しておられた日輪菊之丞博士の言葉ですね」

「そうそう☆ それでそこから『結果を出し、よい影響を及ぼせばこそ、行動には意味と価値があると心得よ』って締めくくられるのよね~♪」


 正命法務部長・撫子代表取締役会長の補足に、自分は思わず感動せずに居られませんでした。


(本当に……ただのデートとは思えぬ程に、という言い方はどうかと思うが、それにしてもここまで価値ある経験ができるとは思えなかったな……。

 まだまだこの旅も始まったばかりなら、今後も有意義な時を過ごしたいものだ……)


 かくしてルシャンテ共和国での"トリプルデート"は、実に有意義かつ濃厚に過ぎて行ったので御座います。

次回、いよいよ天瑞獣探しの冒険に出発!

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