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第八十六話「カップル三組、三者三様の自由行動。我々の向かう先は……」

パイユ・レトラ海岸を満喫するカップルたち!

 読者の皆様、毎度大変お世話になっております。

 前回に引き続き今回も、冒険者の財王龍ツァイ・ワンロンこと七都巳大竜が常夏の楽園ルシャンテ共和国の観光名所パイユ・レトラ海岸よりお送り致します。


「さぁ〜て、何しよっかなぁ〜? 色々できるから迷うんだよねぇ……」

「そう、ですなァ。思えば具体的に何をするとかの、計画を立てそびれておりました……っっ」


 前回以後一旦解散となった我々六名は、それぞれカップル事に二人一組で三手に分かれて行動しておりました。



「……撫子さんのそれ、美味しそうですね」

「ええ、実際スゴく美味しいわっ☆ セイくんにもあげよっか?」

「えっ、いいんですか。じゃあお言葉に甘えて……」

「はいっ☆ セイくん、あーん♥」

「……いえ、あの流石に自分で食べられますが――

「あーん♥」

「……ぁー、んっ……むぐっ……ん……♥」


 阿古屋夫妻のお二人は海の家"すぺぇすころにぃー"にて食事を楽しんでおられました。

 元々夫婦というよりは親子……とは行かずとも姉弟の如き見た目のお二方ですが、可憐かつ中性的な少年の世話を焼く妖艶で母性的な御婦人の絵面は、傍目から見る分には少なくとも夫婦には見えないので御座いまして……。



「ぁ……はぁーっ……!」

「……行くかい? 行けるかいフミちゃん?」

「……うん、行くよハヤちゃんっっ……! ――んッッッ!」

「よし、足だ! バタ足バタ足っ! 動かしてっっ! 太腿! 太腿からっ!」

「――ッッッ!」

「そうそう! そうだ太腿から足動かして! 膝曲げずに! 膝曲げずに、そうっ! いいぞいいぞ! 上手く行ってる上手く行ってる!」


 また一方、少々水深のある浅瀬では、柚木ギルド長が恋人の佐藤部隊長付き添いの元泳ぎの訓練に励んでおられます。

 聞けば柚木ギルド長は神格の血を引くご両親の間に産まれた混血児だそうなのですが、ご両親が元来水中活動と縁遠い種族の出身であるが故の遺伝的問題からなのか、泳ぎが大の苦手だそうで……

 この度のギルド長就任を機に"水泳下手カナヅチ"を克服に向けて尽力しておられるとの事でした。



 そして必然、残された我々は暫く何をしたものかと頭を抱えておりましたが……


「……よし、アレだ」


 何やら思い付かれたらしいパル殿は唐突に自分へ向き直り……


「ねぇザイちゃん、軽く泳がない?」


 場面はまるで人気のない海水浴場区画の外れ……広がる海を指し示し乍らの提案は、余りにも王道過ぎるが故に却って新鮮さをも感じさせました。

 とは言え王道なだけに決して悪い話でもなく、なれば断る理由も御座いません。


「ええ、構いませんよ。

 やはり海に来て水着など着た以上、海水へ身を浸さずには終われますまい……」


 思えば入院やら拘束やらで派手に体を動かせておりませんでしたし、広大な海の中で凝り固まった筋肉を解し伸ばすのはシンプル故に魅力的と言えましょう。

 ……然しここで、パル殿より更に思いがけぬ提案が御座いました。


「……ここだけの話なんだけど、実はここから真っ直ぐ一直線に進んでいくと、大体六十キロ沖に小さな無人島があってね」


 パル殿曰く正式な名前もついていないその島は、マルヴァレスの烏山からすやまイサキなる統計学者が自腹で購入し所有していたものの、

 同人物が騒動の果てに消息を絶った為、所有者のないまま放置されているのだそうで…… 


「加えて失踪前の烏山が色々ヤバかったもんだから、『近付くと呪われる』とか『幽霊や化け物が住み着いてる』みたいな噂が出回ったせいで民間人はおろか政府関係者や専門家も近寄らないまま数十年も手付かずのままらしいんだ」

「ホウ、何者をも寄せ付けぬ曰くつきの無人島とは……それはまた、実に興味深う御座いますなァ」

「でしょ~? 実を言うとあたしも昔から仕事で廃墟とか心霊スポット、あとスラムなんかに立ち入ることも多くてさ~。

 プライベートでもそんな感じの場所見つけると、つい立ち寄って"何かしら"したくなっちゃうんだよね~」


 パル殿の仰る"何かしら"とは、例えば心霊スポットと呼ばれる土地に纏わる噂の真相解明であったり、

 あるいは廃墟に潜む怪物・怪異や犯罪者の盗伐、果ては貧民街スラムの抱える問題の合理的かつ合法的な調査・解決など多岐に渡ります。

 便利屋になられて以後そのような依頼をこなす事の多かった彼女は、やがてそれらの活動にやり甲斐や楽しさを見出すに至り、遂には数多ある趣味の一つにまで昇華させたのだそうです。


「というワケで……ザイちゃん、君さえ良ければだけど件の無人島まであたしと泳ぎで競争してみない?

 お互い瞬間移動とか空飛んだりとか明らかな妨害行為なんかは禁止、他は大体何やってもとりあえず水ん中泳いでればオッケー、

 かつ"勝った方が相手に何でも命令できる"、みたいなルールでさぁ……♥ ネ、面白そうじゃない?」


 会話の流れからして何処となく"島まで泳ぎで競争"迄は予想しておりましたが、泳ぐだけならば手段不問かつ、勝てば相手を意のままにできるとは何とも破格……

 当然、話に乗らぬ選択肢など在ろう筈が御座いません。


「それは大変魅力的な……是非とも"乗らせて"頂きとう御座いますが……

 然し、よろしいので? 本当に"泳ぐ為ならば何でも"させて頂きますが……」

[SIN'S DRIVER!!]


 ワザとらしい口ぶりで、見せびらかすようにシンズドライバーを起動……

 『それは流石に悪巫山戯わるふざけが過ぎる』と苦言を呈されるかと思いきや……


「ああ、構わないよ。変身ならあたしもするつもりだからね。幾ら何でも生身で六十キロ泳ぐつもりはないよ」


 全くそのようなことはなく、寧ろご自身も魔術での変身を試みておられるとの事。


「"詠唱破棄ディスカード・キャスト 中位妖術行使リサイト・ミディアムソーサリー"

 "疾く玄き剣トランスフォーメイション豪への憧憬(・ソードフィッシュ)"」

「いざ、顕現……!」

[KEN-GEN!! INCARNATE JEALOUS DRAGON!!]


 パル殿は変身魔術の発動により、魔力塊の姿を経て海中にてカジキに、対する自分はシンズドライバーにより"渦巻く嫉妬スワーリング・エンヴィ"にそれぞれ変身……

 それらの動作は、ほぼ同時の出来事に御座いました。


(この勝負……極力なるべく勝つっっ!)

(勝敗関係なく旨味はあるが、勝っておくに越したことはあるまいっ!)


 一斉にスタートを切った我々は、無人島を目指し弾丸の如く水中を突き進みます。

 果たして、勝負の行方は……


次回、勝負の行方は!?

そして無人島で二人を待つものとは!?

(まぁ、この二人やたらインチキスペックだし大抵何があっても平然としてそうだけど……)

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