第八十三話「登場人物、取り分け主役勢として作品や読者と誠実に向き合う為には"第四の壁"の向こう側を観測せねばならない」
「メタ発言は悪手」とか言われますけど、
ある脚本家上がり(?)の方曰く「物語に誠実に向き合う上でのメタ的表現は肯定されるべき」だそうなので
読者の皆様、平素より大変お世話になっております。
前回より引き続きまして今回も、冒険者"財王龍"こと元Vtuberの七都巳大竜がお送り致します。
「さて、時にダイちゃん。ちょっといいかな?」
「失礼乍ら正気に御座いますかパル殿」
場面は大国ビットランスの大都市ヴェーノに立つマンションの一室。
愛しのパル殿に声をかけられた自分は、咄嗟に何やら不穏なものを気取り先手を打ちます。
「……まだ何も言ってないよ」
「言われずとも突拍子もない発言であろうとは凡そ察しが付きますでな……。
衝動や思い付きに基づく行動は思い掛けない損害を招きかねず危険です。今一度冷静にお考え頂くのが懸命かと」
「別に衝動的な思い付きじゃないし、冷静に考えた結果君に提案を持ち掛けてるんだけどなぁ……。
とりあえず具体的に話聞いてからでも遅くないんじゃない?」
「……確かに、早合点が過ぎましたな。申し訳御座いません、パル殿」
「いやぁ、いいよそこまでガッツリ謝らなくても。寧ろ判断が早いのはいいことだからね」
……判断が早いにしても限度があるでしょうに。
「してその"提案"とは?」
「うん。色々考えたんだけどさ……ダイちゃん、観光旅行行かない?
ここ一ヶ月くらいお互い言葉も交わせない日々が続いてたし、なんていうか損失補填? みたいな感じでまた一週間くらい派手に遊びまくるの。
お互い案件こなしたりとか、フルムーンナイツからの賠償金とかで結構お金も浮いてるし、源元ギルド長も休みくれたし、悪い話じゃないと思うんだけどね〜?」
その提案は確かに素晴らしい名案に御座いました。
我が最愛のパル殿との観光旅行……自分としても大変魅力的と言わざるを得ません。
然し……
「……大変失礼乍ら、正気に御座いますかパル殿」
「なんで!?」
結局、自分の返答が変わることはありませんでした。と言いますのも……
「冷静にお考え下さいませ、パル殿。本作は今回にして遂に八十三話……字数にして既に二十万字を超えております。
平均的な異世界系ライトノベル、取り分け主役勢が何かしらの目的に向けて動く類の作品であれば、主役は目的に向かってある程度行動を起こしていて当然の時期に御座います。
我々の場合その目的とは、天瑞獣との接触ひいては魂絆証の獲得に他なりますまい」
「まあ、そりゃそうだけども」
「だというのにあの作者ときたら、横道に逸れたような話をダラダラと書き続けるばかり……。
この期に及んで尚も我らが横道に逸れ続けるとあっては、如何に忍耐力があり辛抱強い読者の皆様とて流石に本作を見限ってしまわれるやもしれません。
ひいては本作に感想やレビューが殆ど書かれない根本的な原因もまた縦軸を軽んじるようなストーリー展開であるならば、ここはいち早く天瑞獣探しの旅に出るのが妥当な判断ではなかろうかと愚考せずにおれず……」
断じてパル殿との観光旅行を拒むつもりはありませんが、とは言え作品の今後を考えるとそろそろ本腰を入れて動き出さねば拙いのではと思えてなりません。
さて、対するパル殿のお答えは如何に……
「確かにそうだねぇ。君の主張内容は正しいよ、ダイちゃん。
あたし自身、いい加減作者の野郎がヘラって読者や文科省への逆恨みを垂れ流すのはどうにかしたいと思ってるし、作品の今後を考えるなら天瑞獣探しの冒険に出るのが最適解だろうなぁとは思うよ」
「でしたら……!」
「けどねダイちゃん、あたしはこうも思うんだ。
本作がぼちぼちいい感じにウケてるのって、そういう"縦軸軽視"っていうか、
"横軸重視"な展開の展開が案外ウケてるからなんじゃないか、ってね」
「……と、仰いますのは」
「読んで字の如くそのままの意味さ。
今までこの作品は、あたし達主役勢の目標を明確に提示しつつも、本筋とは無関係な、所謂番外編みたいな話が続いてた。
けどそういう展開こそが昨今のWeb小説界隈で主流になってる読者層の嗜好にマッチしてて、結果的にウケが良くなった……なんて仮説も立てられるんじゃないかと思うんだよね」
「……成程、一理ありますなァ」
パル殿の主張に、自分は思わず頷かずに居られませんでした。
事実、昨今のWeb小説界隈での主流読者層は総じて重苦しい雰囲気や緊張感、刺激を伴うような内容の作品を忌避し、平和や平穏、安定を求める傾向にあるとされています。
ともすると、果たしてこれまでの本作に主流読者層が求めるような要素が含まれているかは兎も角として、
『番外編を寄せ集めたような、ある種の短編集に似た展開であった為に幾らか安定的なヒットを記録したのでは』との仮説を、所詮単なる憶測に過ぎないと断じるのは早計と言えましょう。
「勿論、縦軸を軽んじようってワケじゃない。異世界での生活を堪能しつつ、目的達成に向けた冒険もしっかりやる……。
どっちも疎かにしない絶妙なバランス感覚ってのかな、そういうのを重視していくのが、
読者の期待に応えるってコトなんじゃないかと、あたしはそう思うワケよ」
「……恐れ入りました。思えば自分は、少々焦り過ぎていたやも知れませぬ」
「そうだね……まあ、入院に加えて冤罪喰らって拘束されてたし、焦るのも無理ないよ。
ただ、闇雲に焦ってもしくじるだけだろうし、冒険に向けて英気を養う意味でも、今一度派手に羽根伸ばしとくのはアリなんじゃないかな」
「全く以て同意見に御座います。さて、ともすれば問題は行き先ですが……」
何せエニカヴァーは総面積からして地球を遥かに凌駕するだけに、観光名所も数多く存在します。
或いは在宅であっても、"明晰夢制御装置クダギツネ"を始め選択肢は豊富そのもの。
ある程度の条件付けがなければ、選定の段階からして苦戦は必至に御座いますが……
「それに関しちゃ大丈夫っ。もう旅行計画は完成てっからねぇ~♪」
「ほう、それは頼もしゅう御座いますなァ」
当然、そこで出遅れるパル殿ではありませんでした。
次回、デートの行き先はやっぱりあの国でした!