第八十二話「仮にも主人公乍ら28話も出番が無かった奴は何処の誰だ……? まあ、自分なのだが……」
パルティータと大竜、感動の再会!
「ダイちゃぁ~ん……無事でよかったよぉ……」
「パル殿……ご心配おかけして申し訳御座いませんでした。
自分はこの通り無事に御座います……
パル殿こそ、よくぞご無事で……」
読者の皆様、大変お久し振りで御座います。
本作『追放Vtuber』の主人公を務めさせて頂いております、冒険者の"財王龍"こと元Vtuberの七都巳大竜で御座います。
「や~ほんと大変だったよ……まあでもダイちゃんのがよっぽど苦労しただろうことは想像に難くないけどさ……」
「何の、単に災害現場で爆発に巻き込まれ意識不明のまま担ぎ込まれた長期入院を余儀なくされた上に、不正アクセスの冤罪で政府に拘束された程度ですのでね。
パル殿の苦労に比べればどうとういうことはありません」
場面は大国ビットランスが大都市ヴェーノにある高級マンションの一室。
凡そ一ヶ月もの長きに渡り離れ離れであった我々は、ソファの上で密着しながら互いの無事を喜び合っておりました。
「何言ってんの、大概とんでもない目に遭ってんじゃん……。っていうかその台詞を言うべきは間違いなく君じゃなくてあたしだよ……。
そりゃ陽元で渓水グループ追い回してた時はキツかったし、カヴァナスの愚連隊とかルシャンテの怪物とか変なのの相手もさせられたけどさ、君みたいに病み上がりで冤罪吹っ掛けられて政府に拘束とかはされてないからね?」
「それはそうですがね」
「……ともかく何にしても良かったよ、ダイちゃんが変な目に遭わされてなくて」
「まあ、政府関係者の方々は心優しい方ばかりでしたので……」
冤罪により拘束されたというと如何にも不当な扱いを受けそうなものですが、此度の場合、その実政府は外部からの圧力により拘束を強いられていたが為でしょう、一応立場上は罪人である筈の自分めをも丁重に扱って下さいました。
「何でしたら首相直々に五体投地で謝罪されてしまいましたからな。
『冤罪であることは疑う余地のない事実だ。此方としても貴方がたを拘束することは不本意この上ない』とね……」
「へぇ、あの首相がねぇ。如何にもプライド高そうな感じなのになんか意外だなぁ~」
「自分もそう思わずに居れませんでしたよ。案件の為にお会いした時とは全く印象が違いましたものでな……」
ともあれ斯くして、我々はどうにか苦難を脱し平和な日常を取り戻すに至ったので御座います。
(=甘=;)<暫く平穏に過ごしたいものです……
さて、それから幾日か経ったある朝のこと……
《――ということなんですけれども、向坂さんこの件についてどう思われますか?》
《……やー、もうねホントふざけんなよって話ですよ! いやもう朝っぱらから不適切かもですけど、あンのバカがよぉ~!
マジで魔王の頃から何も変わってねぇどころか、何なら年々酷くなってんじゃねーかっつーかね》
《うわ、その世代の方が言うと説得力違いますね……》
テレビのバラエティ番組では、吸血鬼のコメンテーター、向坂蛮氏が声を荒げておりました。
彼がそこまで怒りを露わにしていた話題とは、我々にとっても他人事ではない"あの件"であり……
「……はぁ~、呆れた。何もかもがしょうも無さ過ぎて呆れるのも嫌になるくらい呆れたわ……」
「同感ですなァ。仮にも希少種族の元魔王ともあろう者が……こんな、権力者にあるまじき体たらく……」
より詳細に述べさせて頂くならば、自分が冤罪によりモリニャメシ政府に拘束され、パル殿が南海にて怪物退治を強いられた一連の出来事……
その裏に秘められた真相が、余りにもくだらなさ過ぎたので御座います。
「まず冤罪吹っ掛けた理由が"|丸致場亜主への嫌がらせ《いつもの》"なのは一億歩譲って分かるけどさ、怪物退治にあたし達三人同行させたのが『強力な怪物を目の前で瞬殺し、実力の差を見せつけて心を折るため』ってもう理解できないんだけど……」
「要するにそれも嫌がらせの内なのでは。ともあれ、そもそも丸致場亜主への嫌がらせの動機が余りにもくだらないワケですが……」
調べによればフルムーンナイツのギルド長アンジェリカ・ルナサイドは生来極めて幅広い性癖を持つ末期の色狂いであり、性別・年齢・種族・地位を問わずあらゆる相手を誘惑しては手籠めにして食い散らかす最低の外道にして、
かつ『この世で最も美しい自分に口説き落とせぬ相手など居ない』と信じて疑わぬ身の程知らずでもありました。
その慢心故、奴は魔王就任前の源元ギルド長をも誘惑しようと試みますが、元々同性愛者であり肉体関係を持つ相手を徹底的に厳選する主義であった源元ギルド長はその誘いを呆気なく突っ撥ね、結果アンジェリカは玉砕……。
その後も魔術で男に化けたりと様々に手を尽くしますが、源元ギルド長は頑なにアンジェリカを拒み続けました。
「で、そん時の件を逆恨みして丸致場亜主、ひいては源元ギルド長への嫌がらせを定期的に続けてた……と」
「全く馬鹿げた話に御座いますなァ。更に言えば、ルシャンテ共和国の怪物退治案件に闇猫堂メンバーを同伴させた理由は、闇猫堂のギルド長にアンジェリカの弱みを握られ脅されていたからであった、などと……」
「あー、あれは滑稽だったよねぇ。実態は案件に見せかけた観光旅行だった、と……。一国の政府にも圧力かける奴が、格下の同業者に脅されて言いなりになるなんて全くお笑いだよ」
闇猫堂のギルド長が握ったアンジェリカの弱みとは、隠された奴の裏の顔……より厳密には余りにも荒み爛れた性的な堕落ぶりに御座いました。
というのも、魔王就任以前こそ奔放な色狂いであったアンジェリカでしたが、在任中に出会った神性血統の男性と結ばれて以後は身を固め、その愛と性欲を夫のみに対し向けるようになり、第一子エルガミセラの妊娠を機に退位……
以後は育児に精を出しながら冒険者ギルド"フルムーンナイツ"を創設、夫と二人三脚での経営に乗り出したので御座います。
然しその後アンジェリカは夫と死別……魔術による蘇生を試みたものの希少種族であるが故に上手く行かず、深い悲しみに囚われました。
その後、奴の後夫にならんと世界各所より数多の者が求婚を試みましたが、アンジェリカはその何れもを拒絶……
『自分の夫は彼以外有り得ない。彼亡き今、自分は生涯操を立てねばならぬ』と全世界に生中継で発信……
加えて意思表示として魔術で幼子に姿を変え、以後は『絶世の美貌を自ら封じてまで亡き夫に操を立てた高潔なるギルド指導者』として認知されるに至ったので御座いますが……
「いやー、まあなんだろう。案の定っていうか、正直バレた所で『やっぱりか』って感じだったよね」
「ええ。自分も『それはそうであろうな』と思わずには居れませんでしたよ」
アンジェリカはその実亡き夫に操を立ててなどおらず、その後も裏では部下やギルドが案件で身柄を拘束した犯罪者、果ては適当に見繕った民間人等を"食い漁って"いたので御座います。
己が気に入ったならば相手が何者であろうと容赦なく玩び、飽きたらば口止め料を掴ませた上で圧力をかけ雑に捨てる……といった行為を、短く見積もっても三千年以上続けていたようでした。
「短く見積もっても三千年ってんだから、多分実際は一万年ぐらい続けてたんじゃない?」
「有り得ますなァ。当人は会見で『結婚まではしていないので誓いは破っていない』などと言っていますが……」
「正直苦しい言い訳だよね~。あいつ自身自分の行いに後ろめたさを感じてたからこそ闇猫堂側の脅しに屈しちゃったんだろうしさ?
オマケにキバガニダコはじめルシャンテ共和国周辺に現れた怪物も、観光旅行を案件にして正当化しようと傘下の研究機関脅して作らせたのを嗾けてたってバレちゃって、幹部たちの醜態もネットに拡散されちゃったし……あそこも今結構大変なんじゃない?」
「想像に難くありませんな。まぁ、離反しておられた片倉女史と本多氏、並びに彼らが身を寄せていた政府傘下組織が頑張ってくれると信じる他ありますまい」
そしてまた、本件の関係者はその他にも色々とあったので御座いますが……
長引いても何ですし、今回はこの辺りで失礼致します。
次回、天瑞獣探しの旅……の前にデートだろうがオラァッ!