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第七十八話「助太刀すれば『手柄を横取りしようと妨害して来た』と言われそうだし、さりとて撤退しようにも『命惜しさに戦闘を放棄した』と言われそうなので隠れるしかない」

いやあっさり食われてんじゃねーかどういうことだよ!?

……まあ、気を取り直して行こう。

次は幹部で一番頭のいい天摩ハクトと戦闘の天才と名高い税牙神の二人が相手だ!

天才的頭脳と強靭な肉体、まさにお互いを補い合うベストマッチな二人にかかれば

キバガニダコ程度どうってことはないさ!


「ヴォボロガアアアアアアッ!」



「フンっ、情けないですね……

 あの程度の攻撃も想定・回避できず、あまつさえロクに傷付けさえしないままあっさり丸呑みにされるとは……

 フルムーンナイツ幹部が聞いて呆れる醜態ですよ……」


 場面は前回から引き続き白昼快晴のパイユ・レトラ海岸。

 一流冒険者二人をあっさり始末(?)し浜辺を進むキバガニダコを上空から見下ろすのは、フルムーンナイツ幹部にして月兎霊ムーンラビットの現代表でもある天摩テンマハクト。

 幹部の中では一番華奢で小柄な……それこそ小中学生と見間違いそうになる見た目だけど、今年で二十七歳になるれっきとした成人女性だ。


 他の幹部たちと同じく世界最高峰の戦闘能力を誇る彼女は優れた呪術師で、特に同じ神獣メタビースト系種族出身の同僚、吼神族ウォセ・カムイ現族長の"税牙神シュウイ・ヤーシェン"との連携は抜群の一言に尽きる。

 何なら二人は同じ釜の飯を食ったライバルにして親友でもあり、私生活でも行動を共にすることが多いんだそうな。


「……そもそもワッチは前々からあの二人が気に食わなかったのですよ。

 デモゴルゴンのババアは常日頃から偉そうにしている癖に面倒事は他人に押し付けがちですし、ズィルコーニウムの陥没乳首は隙あらばサボったり横領したりとやりたい放題……

 そのシワ寄せが纏めてワッチに振り掛かってくる癖に、奴らと来たら労いの言葉もないのですから……」


 術で浮遊しながら淡々と愚痴をこぼす天摩。

 奴の口にした言葉から察するに、フルムーンナイツって組織は中々闇深いモンを抱えているらしい。

 この様子だと『一部幹部がルナサイド親子に弓引いた』って話も事実なんだろうね。


「ギルド長や姫様は大いなる存在過ぎて近寄るのも烏滸がましく、辛うじてまともだった"バ片倉カタクラ"も"ア本多ホンダラ"を庇ってストライキ……

 結局、ワッチが信用に値する同僚なんてただ一人しか居ないのですよ」


 ふわりと地上に降り立った天摩は、如何にもクールな大物っぽくカッコつけて

  ――と言って、服装が平仮名ゼッケン入りの旧型スクール水着だから大物感やカッコ良さの欠片もないんだけど――

 訥々と語り続ける。


「そう、我が無二の親友にして永遠の好敵手ライバル"税牙神シュウイ・ヤーシェン"!

 異常者やロクデナシばかりの我がギルドにあって、貴女だけが唯一信用に値する幹部なのですよ。

 他の奴らは貴女をアホだバカだと扱き下ろしていますが、ワッチに言わせれば奴らこそ貴女の本質を理解していないアホ、貴女の魅力を知ろうともしないバカなのです……!

 然し今、天はワッチ達に千載一遇の好機を与えて下さいました……

 今や変革の時、時代は上辺だけの大物ではなく、真に優れた強者をこそ必要としているのです!

 行きますよ牙神ヤーシェン! あの怪物を討伐し、ワッチ達こそがフルムーンナイツ最強であると証明してやるのです!」


 側らの親友へ朗々と饒舌に語りかける天摩。だけど、普段ならあるはずの親友からの返答はない。


「……どうしたのです、牙神? 何時もなら元気に返事をしてくるではありませんか。

 無視なんて貴女らしくないですよ牙神。何とか言ったらどうなんです、牙神?

 ……牙神?」


 天摩が何度名を呼ぼうとも、シュウイからの返答はない。けどそれもそのハズ。何故ならその場に奴は居なかったんだからね。


「おや、牙神? どこへ行ったのですか? ……おかしいですね。牙神には事前に連絡を入れておいたハズ……

 彼女がワッチの呼び出しに応じないなんてこと、今迄只の一度だってありはしなかったのですが……」


 異変に気付いた天摩は早速牙神に連絡を入れる。

 スピーカーフォンだからどっちの声もハッキリ聞こえたんだけど、問題はその内容だった。


『ぅっ、ぐぅぅ……もしもしっ、天摩チャンかよぉ……?』

「牙神! 何をやってるですか!? 数分前にスタンバイを頼みますと連卵を入れておいたではないですか! 一体今どこで何をしているので――

『ぐうおわああああああああああああっ!?』

「ひっっ!?」


 刹那、電話口から響いたのは税の絶叫。

 併せて液体と固体が入り混じって噴き出したような、汚らしい雰囲気の不快な音が海水浴場の空気を振動させる。


(まさかあの犬っころ……)


 物陰に隠れながら様子を伺っていたあたしは、税が置かれてる状況を察知した。叫び声のトーンと反響具合、あとやけに不快な例の音からして間違いないだろう。


「なっ、なあっ、何があったのですっ!? 一体どうしたというのですか、牙神っ!?」

『ふぐぅぅぅぅ……! す、まねえ、天摩チャンっ……オレぁもう、ダメだっ……! 動けねえ……!』

「何ですって!? 動けないとはどういうことです!? 一体何が起こったというので――

『っぅぐ、ぅごあっがああああああああっ! ああっ、ぐうああっっ……! は、はっら、ぁぁ……』

「な、何? ハラ?」

『ぁあ、ぅぉぁぁ……ハラァ、壊しちまって……! 下痢でクソが止まらねえんだッあ ッ ああ あぁ ああ゛あ゛あ゛ あ゛あ゛あ゛ッッッ!?』

「……げ、下痢ぃ~?」


 そう。税が浜辺に来られなかった原因は、なんと下痢。

 食べ過ぎで腹を下した税は、絶え間なく襲い来る腹痛と強烈な便意のせいでトイレから離れられなくなっていたんだ。


「はぁ、全く……仕方ないですね。此方はワッチ一人で何とかするです。貴女はとりあえず療養に務めるですよ」

『うっぐぅぅう……す、すまねえ、天摩チャンっっ……』


 といった感じに通話を終えた天摩はそのままキバガニダコへ向かって行くけれど……


「この程度の怪物如き、ワッチ一人であろうと造作もないのです!

 "詠唱破棄ディスカード・キャスト 上位呪術行リサイト・ハイ・エンチャ――

「ヴォルルルルルラァァァアアアアッ!」

「ぐわあああああっ!? あぼぁあぁっ!?」


 死角から伸びてきた触手に捕まり、そのままぶん投げられ海に転落。


「ぐっ!? がば、ごぼぼっ! おぼっ! 溺れっ! ぼごごろろぼっ!」


 そのまま溺れてしまい、あっさり再起不能に陥ってしまったんだ(後で知った話だけど、どうやら天摩は末期のカナヅチだそうで……)。

……ダメだったか。

こうなったらもうフルムーンナイツ最強の切り札を出すしかないようだな……!

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