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第七十七話「見せて貰おうか。世界最強と名高き一流冒険者の戦いというものを……って、アレ?」

さて、こっからはぽっと出ゲストキャラの無双シーンになり……え?

なってない? そんなバカな……!

何かの間違いだろう!?



「ヴォォォッロラボオオオオオアアアアアアッ!」



「ぎゃああああああああ!? キバガニダコだあああああああ!」

「食い殺されるぅぅぅぅぅぅ!」

「腹が膨れたから暫く出て来ないって話じゃなかったのかよぉぉぉぉぉ!?」

「てか実在したのアレぇぇぇぇぇ!?」

「ウワアアアアアアアアアアアアアア!」

「ちょっとタチバナ先輩っ! 腰抜かしてないで早く逃げますよ!?」

「ダメよ新人クン! そいつ一度恐怖心に囚われると動けなくなっちゃうの! 担いでくしかないわ!」


 観光客で賑わっていた快晴の海水浴場は、魚ともカニともタコともつかないミュータント化クラーケンの出現で阿鼻叫喚の地獄と化した。


「ヴォアアアアアアッ! ヴラガアアアアアアッ!」


 面構え(風貌)に違わぬ不気味な咆哮を轟かせ、触手と拙速で浜辺目掛けて直進するクラーケン……


「助けてくれぇぇぇぇ!」

「死にたくないいいいいいいいっ!」

「いやあああああああ!」


 恐怖に悲鳴を上げ乍ら逃げ惑う海水浴客たち……


「皆さん! 落ち着いて行動して下さい!」

「慌てないで! 係員の指示に従って避難して下さい!」


 そんな海水浴客たちを救おうと奔走する、緊急対処員ライフガードの皆さん。



(……典型的な"怪物災害モンスターパニック"ってヤツだねぇ。専門的な言い方をすると"生体災害バイオロジカル・ハザード"か……)


 混沌とした状況下でも至って冷静なあたしは、取り敢えず柚木ちゃんとはぐれないよう彼女を守りつつ、押し寄せるヒトの津波をどうにかやり過ごす。

 幸いにもいい感じの物陰へ潜り込めたのでそこまで面倒な事態にも陥らなかった。


「ピローペインさんっ、あれってもしかして……」

「ええ。特徴からして間違いなく今回の討伐対象ターゲット、パイユ・レトラ海岸近海で漁業や観光業に被害を出してるミュータントクラーケン……通称"キバガニダコ"で間違いないでしょう」


 キバガニダコとは、主にネット上で定着した件のミュータントクラーケンに対する俗称だ。

 由来はそのままズバリ、『牙だらけの大口があってカニのような節足を持つタコみたいな姿だから』とかそんなトコだろうか。

 自治体の担当者は『あくまでネット上での俗称で正式なものではないからミュータントクラーケンと呼称する』と言ってたけど、多分本音じゃ『ダサいから呼びたくない』とか思ってるのかもしれない。


「……どうしましょう、ピローペインさん。お恥ずかし乍ら私、冒険者ギルド所属とは言え普段はデスクワークとかの裏方仕事ばっかりで、現場で仕事した経験なんて滅多にないんですよ……。

 現場に出たとしても、調査とか事後処理、あとは他のみんなの後方支援とかばっかりで……」

「大丈夫ですよ。何かあってもあたしが守らせて貰いますから。

 そもそも今回の案件クエスト、確かにキバガニダコは厄介な標的ですけど、世界最強クラスのフルムーンナイツの幹部様が五人もいるんです。

 主立った戦闘行為はあの方々に一任しておいて、あたし達はあくまで雰囲気作りとかに専念しておけばなんとかなると思いますよ」

「そ、そうなんでしょうか? ならいいんですけど……」


 何せ用意周到なあたし達を『怪物討伐案件だからと武装するなど愚の骨頂』とバッサリ切り捨てたんだ。さぞ圧倒的な、一流冒険者ギルドらしい見事な戦いを見せてくれることだろうさ。



(州▽∀▽)<それでは行ってみよう



「全く、折角優雅に過ごしてたってのに邪魔立てとはいい度胸してんじゃないのさ……」

「ンモー、折角イイ感じの子捕まえられそうだったのにぃ〜! こうなったら腹いせよ! あんな奴なんかとっととタコ焼きにしてやるわっ★」


 キバガニダコの接近に伴い無人と化した浜辺に堂々と現れたのは、アークデーモンのデモゴルゴンと火炎精霊のズィルコーニウム。

 フルムーンナイツの幹部連中でも特に攻撃力に秀でた二人だそうだけど、パッと見の印象は際どく派手な水着を纏ったグラビアアイドルか観光客にしか見えやしない。


「ヴァボァァァァッ! ブガバラァァァッ!」


 対するキバガニダコは大型重機みたいな巨体を震わせ派手に咆哮する。

 無人だと思った浜辺で手頃な獲物を見付け喜んでるのか、はたまた奴らのただならぬ雰囲気を気取り

 強敵と見做して威嚇してるのか……

 その真意は定かじゃないけど、敢えて動きの鈍る空気中へ身体を出したまま微塵も退く素振りを見せない辺り、どうやら相当"やる気"らしい。


「ふん、回転寿司の売れ残り風情が生意気な……るよエレノア。こんなゲス如き、姫様の前に立つ資格もありゃしない」

「はぁ~い☆ 了解ですわ、ジェルソミーナお姉様っ♪ 礼儀知らずの生ゴミちゃんは、しっかり"処理"してあげなきゃですよねぇ〜★」


 大物特有の余裕な態度でキメて見せた二人は、眼前の化け物を駆除しようと渾身の大技を発動しにかかる。


「グカルラァァァァァァァッ!」

「"詠唱破棄ディスカード・キャスト 中位呪術行使リサイト・ミディアムエンチャント"

 "強者を苛むは己のヘヴィ・タクセス・オン・ザ・リッ――」

「"焔よ焔。我が愛の如く熱く激しく、麗しく燃える電離気体プラズマよ"

 "どうか私の期待に応えて、眼前敵を悉く――


 デモゴルゴンの拘束系中位呪術"強者を蝕むは己の力ヘヴィ・タクセス・オン・ザ・リッチ"と、ズィルコーニウムの攻撃系大妖術"義炎薄命なれど彼の遺(ザ・グレイテスト)志確かに受け継がれん・デーモン・スレイヤー"。

 揃いも揃って強力無比な魔術で、発動できさえすれば確実にキバガニダコを始末できていたハズだった。

 けど二人の術の発動は、思わぬ形で妨害されることになる。



「ゴェヴェヘヴァッ!」


「――ぐぅっ!?」

「――ひぎゃあ!?」



 キバガニダコは奴ら目掛けて、口から粘液を吐きかけたんだ。オレンジ色に透き通っていて洗剤程度の粘り気があるそれは奴らの身体に纏わりつく。


「ぬぅああっ!? なんだいこりゃあ!? くっ、あの生ゴミめ舐め腐った真似をぉっ!」

「ホントもう最悪っ……! エレノアちゃんの美貌に何てコトすんのよ――

 って、イヤぁぁぁぁぁあああああ!?」


 刹那、ズィルコーニウムが悲鳴を上げ、胸元と股を隠し乍ら地面にへたり込む。

 その反応はどういうワケか"痴漢や露出狂に遭遇した気弱な女"のようで……


「ちょいとエレノア、何やってんだい!? 早くあのクズをブチ殺すんだよ! 格下の雑魚相手にやられっ放しじゃ、フルムーンナイツの名が泣くよ!?」


 その様子が気に食わないんだろう、デモゴルゴンは同僚を怒鳴り付ける。

 ……頭に血が上っているからか、自分の身に何が起こったんだかまだ気付いてないらしい。


「そ、それは分かってますっ! わかってますケドっ……」

「わかってんなら早く立って戦いな! 私とお前、二人一組の連携であの生ゴミを焼却処分し、フルムーンナイツの力をレッドカーネルの自治体にアピールしろってのが、姫様からの指示だったろう!?」

「そ、それはそうですけどッ! む、無理ですっ! そんなの無理っ……! だって、だってぇ……

 水着無くなっちゃって、アテクシ達今全裸(すっぽんぽん)なんですよぉ~っ!?」

「アンタ何言って……って、はあっ!? な、なんじゃあこりゃあああああああっ!?」



 ズィルコーニウムに指摘され、緑色の魔人は漸く自分の身に起こった惨劇を認知したらしい。


「な、ああっ……あたしのビキニがぁぁ……! この時の為にとオーダーメイドで新調したのにぃぃぃ……!」


 着ていた筈の水着が跡形もなく消え去り、粘液に塗れたデモゴルゴンは全裸になっていた。

 どうやら粘液には衣類を溶かす作用があるんだろう。

 エニカヴァーの生物は古来から知覚種族をエサにしがちで、衣類や装飾品は食うのに邪魔な異物だから除去する為の能力を発達させた種も多い。

 "衣類を溶かす物質"はその中でも比較的ポピュラーな代物で、怪物を相手取ることの多い冒険者や軍人、狩人なんかの間では"溶かされない衣類"の着用が推奨されている。

 かくいうあたしのウェットスーツも薬剤や術式で耐溶加工が施されているんだけど、どうやらフルムーンナイツの面々が着てたのは普通の水着だったようで……


「ふざけんじゃないよ、この生ゴミがぁ! もういい! こうなったら私一人でもお前をブチ殺してやる!

 所詮たかがクラーケン如き、元魔王軍魔術提督の私にかかれば――」


 全裸にされても戦意を捨てず、尚も立ち向かおうとするデモゴルゴン。

 流石腐っても(別に腐っちゃいないけど)元魔王軍の高官なだけあるなぁ~……なんて思っていたら、唐突に奴の動きが止まったんだ。


「――――」


 凍り付いたように動きを止めたデモゴルゴン。

 奴の視線の先にあったのは、キバガニダコが粘液と一緒に吐き出した動物の残骸……

 多分、奴が今までに食い荒らして来た犠牲者エサの内の一匹なんだろうけど、何故かそれを見た途端、奴は一切の動きを止めてしまって……


「ヴエエアッルラァァァァアアアアアッ!」

「きゃっ!?」

「ぐぁっ!?」


 その隙に奴は触手を伸ばし、デモゴルゴンとズィルコーニウムを捕縛……


「ヴアアアアアアアアア!」

「ぅっ、ぐあ、ああっ!? なっ、んだいっ、こりゃあっ!? 何が、どうなって――」

「嫌ああっ! 離して! 離してよぉっ!? 離しなさいったら――」

「ァグウッ!」


 そのまま二人を大口の中へ放り込み、あっさり丸呑みにしてしまたんだ。

大丈夫、フルムーンナイツの幹部はまだ三人残ってる!

奴らなら! 奴らならやってくれるハズだ!

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