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第七十五話「ほんともうゾンビでも怪獣でも隕石でもいいからこいつらをどうにかして欲しい」

二日ほどお休み頂いてましたが今日からまた頑張って行こうと思います。

「ふん、思いの外早かったなァ。

 ……だがその恰好ナリは何だ貴様ら!?

 まるで戦場の兵士か殺し屋のような装備なんぞ纏いおって!

 恥を知れ恥をっ!」

(……怪物討伐に来たなら戦闘用に装備整えるのが普通じゃない?

 てかあんたらのその恰好……観光する気満々じゃんね?)



 読者のみんな、御機嫌よう。

 前回に引き続き今回もこのあたし、便利屋魔女のパルティータ・ピローペインが、

 常夏の国ルシャンテ共和国の観光名所パイユ・レトラ海岸から、

 なんか理不尽に怒鳴られ乍らお送りするよ~。


「全く貴様らは空気が読めんのか!?

 下層とは言え曲がりなりにも冒険者ギルドの幹部たる者が、

 どうして風情や情緒に配慮できんのだ! この恥知らずどもめ!」


 場面はパイユ・レトラ海岸に立つ年中無休の商業施設"海の家 すぺぇすころにぃー"の店先。

 怪物討伐を想定した装備で集合場所へ向かったあたし達三人は、

 老舗冒険者ギルド"フルムーンナイツ"のエルガミセラ・ルナサイドから理不尽な叱責を受けていた。

 その発言と身なり――明らかに観光する気満々の際どい水着姿――を考慮するに、

 どうやら『如何なる目的であっても服装は周囲に合わせるべき』ってのが奴の言い分らしい。


 まあ理屈そのものは強ち間違ってもないけれど……

 何分相手は海洋生態系の上位に君臨する怪物クラーケン、

 それもどんな能力を持ってるかわからないミュータント化個体だ。

 加えて別に正体を隠さなきゃいけない立場でもないし、

 戦闘用の装備を整えるのは適切ですらある。

 よってあたし達も、ただエルガミセラに言われっ放しじゃ終わらない。


「んん~お言葉ですけれどもねッ竜女神姫ドラゴメイデン様ぁ?

 アタシ達の目的は職務であって観光ではないのですし、

 討伐対象の情報も不足しているのであれば、

 準備をしておくに越したことはないんではありませんこと~?」


 先陣を切るのはバーゲストさん。

 彼の装備はあたし達三人の中でも特に本格的で、

 最新式の軍用パワードスーツを着込んだ姿は等身大のヒト型ロボット兵器みたいでやけにカッコイイ。


「そうですよぉ~!

 そもそも姫様みたいな希少種族出身で超一流の最強エリート戦士ならともかく、

 私達みたいな下層庶民の凡俗冒険者はこのくらいの準備もしておかないと

 満足に戦えないんですからぁ~!」


 すかさずエヴァンスさんが便乗する。

 彼女の装備は一見するとコスプレ衣装っぽいビキニアーマーだけど、

 実態はマガタマ・プロジェクト傘下の武具メーカー"トゥルエノ・ゾロ"謹製の"戦闘用ビキニアーマー"。

 頼り無さそうな見た目乍らに隙なく高機能なもんだから、

 女性の軍人や冒険者の間では憧れの装備と名高い。

 ……とは言えかなり高額だから気安く手を出せるような代物じゃないんだけどね。

 そこはやっぱり流石高給取りだけあるよね~。


「ましてあたしなんて冒険者ギルドの幹部でも何でもない、

 ただの民間の便利屋ですんでハイ。

 このくらいの装備はさせて頂くのが寧ろマナーかなって。

 寧ろほら、海水浴客の皆さんもクラーケンは怖いワケですし、

 装備を整えた"ザ・討伐隊"みたいな感じのが居た方が

 わりと安心して遊べたりするんじゃないかなぁ、と」


 といった感じにあたしも便乗しておく。

 装備は薬品や術式で改造したウェットスーツに、

 汎用性の高い武器や小道具を併せたもの。

 一応水着ではあるけど『海水浴場に相応しいか』と言ったら微妙だろう。


「くっ、貴様らっっ……! 好き放題言いおってぇ~っ!

 かくなる上はその性根、戦闘前に叩き直して――

「まーまー、落ち着きなさいよお姫さん」


 怒り狂うエルガミセラを宥めたのは、

 シンプルな白ビキニにやたらシルバーアクセサリを身に着けたエルフの女。

 察するにこいつが件の"応援部隊"の一人なんだろうけど、

 あたしはその顔に見覚えがあった。


(こいつ……"闇猫堂"の一之宮?)


「この人たちの言い分も一理あるっていうか、

 まあ弱いんだから準備を固めざるを得ないのはしょうがないんじゃない?

 『弱者は道具にこだわり言い訳を並べる』っても言うし~、

 どうせ後々大恥かこうがこの人たちの自業自得……

 態々お姫さんが気に掛けてやることなんてないんじゃないの~?」

「ふむ、確かに……」


 一限一句が所々癪に障るこのエルフの名前は一之宮リージェン。

 陽元に拠点のある冒険者ギルド"闇猫堂"の顔役で、

 能力自体は高いものの"アタマ"が残念な所為で大した実績を残せてない

 "窓際ギルドの三流冒険者"として界隈では若干有名な女だ。


(金も実績も信用もない一之宮が、

 なんでフルムーンナイツの脳筋バカ姫と対等に喋ってんの……?)


 しかも店内をよく見れば、

 他の闇猫堂の奴らもフルムーンナイツの幹部連中と対等に接している……

 てか何なら『闇猫堂の奴らがフルムーンナイツの幹部を従えてる』ようにすら見えた。

 ……普通なら到底有り得ない、驚くべき光景だ。


 間違いなく何かしらの"裏"がある……

 そう直感したあたしだったけど、

 続けてエルガミセラの口から出た言葉は更に驚くべきものだった。


「よかろう……一之宮様のご厚意に免じて、服装の件は不問とする」

(一之宮"様"ぁ!?)


 なんとあのエルガミセラが、圧倒的に格下なハズの一之宮を"様"付けで呼んだんだ。

 その時点であたし達にとっては信じ難い話だったけど、

 奴の耳を疑うような発言はまだ終わりじゃなかった。


「では作戦内容を指示する!

 丸致場亜主幹部二名並びに財王龍ツァイ・ワンロンの身内たる便利屋よ、

 貴様らはギルド"丸致場亜主"及び冒険者"財王龍"の公益性の証明として、

 此方の闇猫堂の皆様方に今日一日、誠心誠意真心を込めてお仕えするのだっ!」


 トドメに投下された特大の爆弾は、あたし達をシンプルに困惑させた。

次回、遂にクラーケン出現!

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