第七十二話「冒頭で掃除してた汚物の正体? 別に大したもんじゃないよ」
今回は水着美女軍団と海洋クリーチャーの対決と言ったな……アレは嘘だ。
というか、予想外に話が長引き過ぎて次回に回さざるを得なかった。
場面はエニジ・サンディ共和国の都市ズハークの地下駐車場。
「ぐぎぃぃぃっ! ぐぎゅぎいいいっ! こ、こンのぉ、たかが雌ブタ風情が――」
「しェァッ!」
かなりの骨を折られて尚立ち上がる醜い土巨人の顎へ、テニスラケットかゴルフクラブの容量で鉄パイプの一撃を叩き込む。
「――ごぼぶえっ!?」
「ゥおっりヤアッ!」
血を吹きながら仰け反るトロールを、今度こそ確実に仕留めなくては……決意したあたしは、がら空きになった奴目掛けて鉄パイプを投げつける。
「ぐびゃらああああっ!?」
投槍が如く投げられたそれは喉元へ突き刺さり、遂に奴は血反吐を撒き散らしながら絶命する……けど、これで終わりじゃない。
「……おっと、楽には殺さないよ? 罪状としては死刑が妥当でも、お前には色々と吐いて貰わなきゃなんないからね……。
"詠唱破棄"
"大妖術行使 国賊の逃避許すまじ"」
「グブッ……ゥグ……ァァァアアアア……』
手短に済ませるべく呪文を唱えれば、奴の肉体から奴自身を象った半透明のエネルギー……つまり奴自身の魂魄が吸い出され、掲げたメモリスティックに吸い込まれていく。
"国賊の逃避許すまじ"……死にかけ肉体から魂魄を引き剝がし何かしらの記録媒体に封じ込めるこの魔術は、発動タイミングがシビアで用途が限定される分消耗が少なく安定性も高いので、普通に詠唱するより消費が増える上に術の安定性も落ちる"詠唱破棄"とは相性がいいんだ。
「さて、あとはこれを依頼主に提出すれば依頼完了、か……。
もう面倒だし魔術で直接転送しちゃうか~。 ――――"住所指定郵送"」
依頼主の住所を書いた封筒にメモリスティックを入れて、魔術で転送……これにてこのあたしこと、パルティータ・ピローペインの仕事は一先ず完了と相成った。
(州=Д=)<おっといけない。そういえば定番の挨拶を忘れてた。
読者のみんな、御機嫌よう。
いつも本作『追放Vtuber』こと『ついブイ』を読んでくれてありがとう。
なんか作者も結構思い詰めててヤバい状況だし、そろそろ感想とか書いてくれないと真面目にヤバそうな気がしないでもないけど……
それはそれとして今回もまたこのあたし、便利屋魔女のパルティータ・ピローペインが主人公兼ナレーターを務めさせて頂くよ~。
(そろそろマジでヤバいかも……)
いやはや、挨拶が遅くなって申し訳ないね。
ついさっきまでエニジ・サンディ共和国で"汚物掃除"の仕事をしてたんだけど、これがまあ広範囲に飛び散ってるわ死ぬほど臭いわで大変でね……読者のみんなに挨拶してる余裕も無かったんだよ。
「さ~て、予定通りならもうそろそろ"あの日"なんだけどな~」
ところ変わってズハークの国際空港。
ビットランス行きの航空券を買ったあたしは、適当にその辺をフラつきながら日時を確認する。
時刻は深夜22時48分……程なく日付が変わる頃。
そして日付が変わって明日になれば、あたしの陽元行きが決まって丁度二十日……予定通りなら、ダイちゃんが退院してシャバに出て来る日のハズなんだ。
(長かった……ほんともう長かった……ほぼほぼ一ヶ月弱、声も聞けなかったもんなぁ)
事の起こりは今月の頭……案件で北西部のモリニャメシに向かってたダイちゃんは、現地での仕事中深手を負い最寄りの病院に担ぎ込まれてしまう。
ほぼ即死レベルの重傷なのに何故か余裕で生き延びてたもんだからそのまま入院が決定、退院は凡そ二週間から二十日後との事だったんだけど……問題はここからだった。
(……まさか見舞いどころか電話やメールもダメだなんてなぁ)
愛しの彼氏が入院となったら見舞いに行くのが彼女の努めってことで、あたしは何としてでも面会のスケジュールを確保しようと決意した。
けどそれに先手を打つように病院――より厳密には病院からの連絡を受け取ったギルド――から『国外から院内へのアクセスは原則全面禁止とする』なんて言われちゃったんだ。
なんでも新興感染症とかテロなんかを警戒した為だとかで、政府から特別な許可を得た要人……それこそ他国の官僚とか専門機関の重役なんかの例外でないと、
モリニャメシへの入国はおろか国内への電話やメールすら許可されないって話だった(ギルド"丸致場亜主"は一応そういう"例外"の内に入ってるんだけど、それでも直接のアクセスが許可されてるのは源元ギルド長だけらしい)。
(面会どころか電話もメールも無理ってのは流石にキツいよなー。ま、それももう終わりだからいいんだけども)
報告によるとダイちゃんの回復は異様なほどに早く、しっかり予定通りの退院が可能との事だった。
(大事を取って退院後も数日くらいは安静にしなきゃいけないみたいだし、その間はあたしも仕事請けずに二人で在宅デートと洒落込みたいもんだねぇ)
とすると今度は何をしようかな……なんて考えを巡らせながら、あたしはビットランス行きの飛行機へ乗り込む。
そしてそのまま空を移動すること約半日……
「到着、ったぁぁぁぁェィ!」
何やかんやありつつも、久方ぶりに地元ビットランスへ降り立った。
さぁ、あとは一旦家に帰って準備を整えてからダイちゃんを迎えに行くだけだ。
「確か待ち合わせ時刻は、っと……うんうん。いい感じに余裕あるね。これなら退院祝いパーティの準備とか出来ちゃったりして?」
その時あたしは、間違いなく浮かれきっていた。
予想外の出来事に頭を抱えまくった日々から開放され、愛しの彼氏と久々に会えるんだからね。
そりゃ浮かれもするだろうさ。けど……
「――――あっ、電話だ。ギルド長か大良さん辺りからかなー?」
ふと通信端末にかかってきた一本の電話により、あたしはまたしても厄介事の渦に巻き込まれてしまうんだ。
(州;−_−)<当然だけど、電話の相手はギルド長でも大良さんでもなかった……。
そして、翌々日。
「ヴルルルルルルルルォボエァァァァァァッ!」
「いや結局あたし一人で突撃することになるんかーいっ!」
場面は常夏の国"ルシャンテ共和国"が世界に誇る観光名所"パイユ・レトラ海岸"。
ウェットスーツを着込み水中銃と銛を手にしたあたしは、海面から顔を出した化け物と対峙する。
「どいつもこいつも口ばっか達者な無能ばっかり……あのザマでよくもまああたし相手にマウント取れたもんだよねぇ全くさぁ!?」
思わず憎々し気に愚痴ってしまったけど、とは言えこの場を放置するわけにもいかず……
「ええい、しょーがないっ! ならもうあたし一人で何とでもしてやろうじゃないっ!」
「ヴォロラアアアアアアアッ!」
半ば自棄を起こしながら、奴目掛けて突撃する。
「この海産物がぁ! ツミレにしてやらぁぁぁぁっ!」
「ヴァアアアアアアアアアアアッ!」
一体何がどうしてこうなったのか……経緯含めた詳しい説明は、また次回にでも……。
次回、便利屋魔女パルティータを襲った悲劇とは!?