第七十一話「これぞ"人道的な裁き"ってヤツよ」
調べに対しピローペイン容疑者は
「誰一人として身体的暴力行為で傷付けてないんだから人道的」などと供述しており、
警察側は「それは確かにそう」と納得し、釈放する予定とのこと。
「――そして《逆流させる虫下し》を発動。
あんたのデッキに潜り込んだ《寄生ラスプラガス》をデッキトップへ移動させる……!
そしてあたしはターン終了だ。さあ、あんたのターンだよバーニィ・ギャック?」
読者のみんな、御機嫌よう。
なんか作者が自棄起こして内容がおかしくなって尚、本作『追放Vtuber』を見捨てずに楽しんでくれてありがとう。
今回も前回から引き続きこのあたし、便利屋魔女のパルティータ・ピローペインが主人公兼ナレーターを務めさせて頂くよ~。
「あ……あああっ……来て、しまうっ……!
次の、ターンがっっ……! 来てしまうっっ……!
あのカードを、ドローしたら、ライフが、ゼロにっっ……!
負けが、決まってしまううぅっ……!」
舞台は大国カヴァナス領内、隣接する大都市"ゾディアス"と"ファンタジア"の丁度境目にある"ペッコスーヴァ・コロセウム"……。
女だらけの愚連隊"衣露児化気"に占拠され悪事の温床と化していたそこは今、奴らの墓場になろうとしていた。
「さあ、早くターンの開始を宣言しな。
『勝負からは決して下りられない』『種目のルールを逸脱した行為は許されない』
それこそあんたらが大規模呪術まで使って設定した、この世の何者も決して逆らい得ない絶対の規則だろう?
さあ、カードを引くんだよバーニィ・ギャック……!」
試合状況は当初から一転、あたしが優勢となり勝利は目前だった。
回復に回復を重ね初期値8000を上回る12000まで増大していたバーニィ・ギャックのライフは、あたしの仕込んだ《ラスプラガス》と《虫下し》を使ったドローロック式ループコンボで今や僅かに残り1000。
奴がこのターンのドローをしてしまえば、その時点で《ラスプラガス》の効果が発動。ライフは尽きて奴の敗北が確定する。
「さあ、早くドローするんだよ。
今迄、大勢の男たちの前でしてきたように、その乳を揺らしながら、
谷間でも尻でも見せつけながら、ドローすればいいじゃないか。
簡単なことだろう? ねえ?」
「うっ、ぐうぅ……うううっ……!」
あたしが煽ってやると、奴は震える指先をゆっくりとデッキに添えて……静止する。
多分、どうすることもできず動くのをやめてしまったんだろうけど、それで許されるほど"衣露児化気"の勝負は甘くない。
何せこの場所のルールは"守るもの"じゃなく、呪術によって"強いられるもの"なんだ。
つまり……
「ぅ、ぁぁ……ダメっ……嫌っ……カードを、引いたらっ……
あの虫が、手元に来たらっっ……ダメ、なのにぃぃぃっ……!」
ルールに抗おうとしても、呪術がそれを許さないんだ。
「ぅ、ああ……私の、タぁー、ンっ……ドロ、ぉぉぉぉぉっ!」
それは幹部格のバーニィ・ギャックだって例外じゃない。
ルールに縛られた奴は呪術に肉体を操られ、強制的にターンの開始を宣言させられてしまう。
「ぅ、ぁぁ……手札に、加わったのは、《寄生原虫 ラスプラガス》……!」
「手札に加わった瞬間、《ラスプラガス》の効果発動!
自身の効果で相手のデッキに潜り込んだこいつは、その持ち主の場に強制召喚される!」
[ギュイイイギャギギギギュゲエエエエアアッ!]
「そして強制召喚時の効果発動!コントローラーに1000のダメージを与えるっ!
やっちまいな《ラスプラガス》! アシッドエンザイム・第十二撃!」
[ギュギギギギギャエアアァァッ!]
「いぎゃああああああっ!?」
[[[[[イヤアアアアァァァァッ!?]]]]]
《ラスプラガス》の吐き出した溶解液はバーニィ・ギャックに直撃。
効果ダメージでライフをゼロにされた奴は敗北し、主の敗北と共に奴の場に居たバニーガールたちも軒並み死に絶えた。
(似合いの最後だねぇ★)
察するにあのバニーガール達も、ゲームキャラとは言えバーニィ・ギャックの手駒として衣露児化気の悪事に加担して来たんだろう。
なら同情してやる理由なんてこれっぽっちもありゃしない。
「さて、これであたしの勝ちが決まったワケだけど……」
「ひっ、ひいいいいいいああああっ!? お、お願いですっ! どんな命令でも聞き入れますから、どうか命だけはお助け下さいましいいいいいっ!」
勝利が決まった途端、バーニィ・ギャックは唐突に命乞いを始めた。
しかもその内容が結構酷かったんだ。
「そもそもワテクシはっ! こんな悪事望んでやってたワケではないのですわっ!
脅されて仕方無く……そう、脅されて仕方無くですのっ!
脅されて仕方無く、あの悪党たちに従わされていたのですわっ! だからワテクシ、何も悪く御座いませんことよぉぉっ!?」
何ら言い返す気にもなれなかったよね。
言い訳にしても無理が過ぎるっていうか……助かりたいなら少なからず自分の非を認めるのが定石だ。
積極的に悪事を働いておいて『自分は脅されていたから悪くない』の一点張りは正直、悪手なんてもんじゃない。
(……くだらない)
全く持ってくだらない。
今迄の勝負もそりゃくだらなかったけど、最後の最後で相手取ったのがこんな奴だなんて……
余りにもくだらなさ過ぎて、自ら手を下す気にもなれやしない。
「……殺さないさ。あんたも、この場の奴らも、誰一人として殺さないよ」
「ひっ! あっ! かっ、感謝しますっ!
貴女様の、慈悲深き御英断に、多大なる感謝をっ――
「但しっ!」
すっかり安堵しきった様子にイラついたから、脅かし序でに追い打ちをかけておく。
「但し、命令は下させて貰うよ? それがここのルールだからねぇ……」
「ぁ……はひっ! 何なりとご命令をっ! 如何なるご命令でも、遂行させて頂きますっっ!」
「いい返事だ……その誓い、反故にするんじゃないよ?」
魔術で拡声器を召喚したあたしは、その場に居合わせる衣露児化気の全構成員に聞こえるよう声を張り上げる。
「衣露児化気の全構成員に命じよう!
あんた達はこれより永劫、何にも逆らわず、何にも抗わず、
全てに従い、全てに平伏し、ありとあらゆるものに怯える生を過ごすんだっ!
逃げることは許されず、背くことも許されず、俗世の最下層として未来永劫、死して尚存在し続けるのさ!
終わりなき苦悩と悲哀、絶望を以て、犯した罪を償うがいいっ!
――――以上っ★」
無言で崩れる悪女どもを尻目に、あたしはその場を後にした。
勿論去り際に依頼主への連絡を欠かさない。
奴らがどうなろうと知ったこっちゃないけど、未だ奴らに敗北し下された"命令"に苦しめられている被害者がいる以上、恐らく奴ら自身もこれから末永く地獄を見てくれるといいなぁ、なんて風に思わないでもない。
(もし万一奴らが復活したなら、そん時は鏖にするだけさ……)
次回、水着美女軍団VS海洋巨大クリーチャー!