第六十六話「絶品ご当地伝統グルメの逸話とか、規格外すぎるアウトドアショップとか」
前回に引き続き今回もそんなエロくないわ。
スマンの。
次回こそはなんとか読者サービス回にしようと計画中なので勘弁してくれ。
読者のみんな、御機嫌よう。いつも『追放Vtuber』もとい『ついブイ』を読んでくれてありがとね~。
できれば感想とかも貰えると作者が落ち着くのでこっちとしては有り難いゾ☆
ってなもんで、今回も前回に引き続きこのあたし、便利屋魔女のパルティータ・ピローペインが、東方の大国"陽元"北東部の主要都市"森翠"の温泉街に建つ揚げ物屋"丸々跋扈"店内からお贈りするよ~。
さて、森翠名物のグルメ"イソメンチ"に隠された面白い逸話の実態とは……
「実はこのイソメンチ、ピンチに陥った漁村で開発された料理なんだけど――」
撫子さんが言うには、古くから漁業が盛んだった森翠沿岸部では、時折"皮残し"ってのが猛威を振るっては漁民たちを悩ませていたそうな。
"皮残し"こと学術名"ヨウゲンヤドリイソメ"は魚に寄生する多毛類の一種で、プランクトンに紛れて魚の体内に入り込んで寄生後、宿主を程度に生かしつつ内側からその身を貪るっていう変わった生態の持ち主だ。
とは言え原則、こいつは少食なので宿主の命を脅かすようなことはそれほどなくて、成長しきって体外に出て行くと宿主の食い荒らされた部位は大体数日ほどで完全に回復する。
加えて魚側もヨウゲンヤドリイソメに食われてばっかりじゃなく、むしろヨウゲンヤドリイソメは寄生する前の卵や幼体の段階で他の動物のエサになることも多いらしい。
要するに自然界によくある微妙なバランスの上に成り立つ関係……なんだけど、水温や水質がおかしくなったりするとこのバランスが一気に崩れてしまうんだそうな。
「バランスが崩れるっていうと……」
「"ヨウゲンヤドリイソメ"が"皮残し"になるってコトよ。つまり彼らは"自然の一部"としての自覚を失念して"遠慮を忘れちゃう"の」
生き物ってのは、程度の差こそあれ環境の影響を受けるもの。それは当然ヨウゲンヤドリイソメだって例外じゃない。
普段は魚とうまい具合に共存している奴らだけど、悪天候なんかで海の中の環境が変わると"暴走"する。
暴走して"皮残し"と化したヨウゲンヤドリイソメは、一度寄生した宿主の体内に一生涯居座り、しかもそのまま宿主の体内で繁殖までしてしまう。
加えて質の悪いことに寿命も延びて食欲も増して……結果、宿主になってしまった魚は全身の肉という肉を食い尽くされ、遂には骨と皮だけにされてしまう。
それはもう魚というより"魚の形をしたイソメ袋"って有り様だそうで、この様子に因んで"皮残し"と呼ばれ、漁師たちからは忌み嫌われるようになったんだそうだ。
「当時から漁業は森翠の主要産業で、特に漁師さんや魚屋さん、魚料理を扱うお店なんかにしてみれば生命線……。
元々鮮魚なんて目に見える傷を負っただけでも売り物にならなくなっちゃうこともあるのに、まして網にかかった魚を軒並み内側からボロボロにされるなんて、絶望以外の何物でもないわ」
「想像するだけで悪夢だねぇ……」
「そうなのよ。加えて昔は海の生き物の知識も今ほど広まってなかったから『魚を食べたらイソメに寄生される』なんて根も葉もない噂が飛び交ったりしちゃってね……
陽元全域で水産物そのものの消費が落ち込む事態にもなったし、当時は散々だったそうよ」
このまま陽元の漁業は衰退の一途を辿ると、当時は誰もがそう信じて疑わなかった。
けどそんな絶望的状況に、ある女が待ったをかけた。
彼女の名は鷹峰ルリ。森翠都心部出身の猛禽類型バードフォークで、カヴァナスの大手芸能事務所の社長を務める傍らタレントとしても様々な分野で華々しく活躍する多芸な人物だった。
幼いころから地元の魚介を食べて育った鷹峰女史は、故郷が直面している悲惨な状況に心を痛め、事務所創業当時からの仲間たち四人と結託し、森翠の漁業を救うべく奔走。
試行錯誤の末、漁民を悩ませる"皮残し"を逆に食材として名物にしてしまえばいいとの考えから、研究に研究を重ねて"イソメンチ"の開発に漕ぎ付けたんだそう。
「――それが今や森翠を代表するご当地伝統グルメになってる、と」
「そそ♪ そゆこと~☆ まあでも歴史が長い割に陽元北部でもそこまで知名度が高いわけじゃないんだけどネ。
あと近頃はイソメに限らず海産物のミンチを卵や小麦粉で練って揚げたのを"何々のイソメンチ"とかそんな名称で売ってることもあるみたい☆」
といった感じに森翠の長い歴史の一ページを学んだあたしは食事を済ませ、撫子さんの案内で次なる観光地へ向かったんだ。
(州▽∀▽)<さてさて、次の観光地はどこかな~?
「どうかしらパルちゃん、ここなら彼氏クンへのお土産選びに最適なんじゃない?」
「いや~ありがとう撫子さん。温泉街のアウトドアショップって聞いて正直ナメてたけど、この規模と品揃えはいっそエゲツないわ」
丸々跋扈を後にしたあたし達が次にやって来たのは、温泉街に建つアウトドアショップ『TxC-QUEST』。
森翠を拠点に活動するキャンパーや登山家に猟師、果ては学者に冒険者といった人種が常日頃からお世話になる店らしく、野外活動に必要なもので手に入らないものはない程の豊富な品揃えが特徴なんだそう。
実際建物の規模に反して取り扱ってる商品は幅広く、簡易テントや飯盒、ライトや寝袋、虫除けといったキャンプ用品は勿論、不慮の事故に対応する為の医薬品からサバイバルナイフや猟銃なんかの本格的な武器に至る迄、まさに規格外と言うべき潤沢な品揃えだった。
「ほほー、暗器がこんなに沢山……仕込み傘だけでコーナー一つ作ってる店なんて中々無いよ?
このバネ仕掛けで矢を撃つヤツとかザイちゃん気に入りそうだな~。
こっちのバックル銃もデザインがお洒落だし普段使いできるってのがポイント高いよね~。
あとこのソードオフショットガンは自分用に買っときたいかもしれない……」
「気になる商品があったら店員さんに言えば裏で試し撃ちもさせて貰えるわよ♪
それと、商品についてわからないことがあった時も店員さんに聞くと丁寧に教えてくれるの☆」
「へぇ~、そこまでサービス充実してるんだ。リピーターになろっかな~」
話し込みながら買い物を続けること暫し、話題は二転三転し、互いのパートナーについて語り合う流れに行きついた。
「そういえばパルちゃん、財クンの戦闘形式はアサシンだって聞くんだけど」
「うん、そうだねー。厳密に言うと準ソルジャー型のアサシンだし、隠密行動特化じゃなくて結構真正面からの殴り合いも得意だよ。
マジックアイテムで変身すれば結構色んな状況にも対応できるし~」
戦闘形式っていうのは、能力や性格から個々の戦い方を大まかに分類したもので、読者のみんなにはRPGの"職業"みたいなもの、っていう説明で伝わるんじゃないかと思う。
我らが財王龍こと七都巳大竜は"準ソルジャー型アサシン"……つまるところ、隠密行動や搦め手が得意な"アサシン"を基礎としつつ、力技や武器の扱いにもバランスよく秀でた"ソルジャー"の傾向もある、ぐらいの感じ。
勿論、|変身系マジックアイテム《シンズドライバー》を使うと先方が大幅に変わるのはみんなも知っての通り。
「なるほどね~。けどよく考えたら、彼くらいの逸材が長年表に出ず燻ってたのもよくわからない話よね。冒険者になる前の財クンって一体どこで何をしてたの?」
成る程、結構踏み込んだ質問が来たもんだ。
正直な話、この撫子さんになら『実は財王龍ってのは偽名で~』って感じで真実を話してもいいんじゃないだろうか、と思わなくもない。
けどそれでもやっぱり知り合って日が浅いし、機密情報は秘匿しておくに越したことはない。
「そこ聞くか~……それはちょっと秘密にしておかなきゃいけないことが多いもんでさぁ」
「あらぁ~、やっぱりそうなのね? つい彼のこと知りたくなっちゃって……無理に話してくれなくても大丈夫よ?」
「いやいや、ここまで良くしてくれた撫子さん相手だし、改変とか脚色とか織り交ぜまくりながらでいいなら話してもいいよ~」
「そう? 本当にいいの? ありがとぉ~流石にこういうのは聞いちゃ駄目だろうなって思ったんだけど、それでもどうしても聞かずにはいられなくて……彼の趣味とか性癖とかの私生活周りとどっち聞くかで迷ってたのよね~」
「あー、何ならその辺も話そうか? ま、結構センシティブで過激な内容になっちゃうからこんな往来でってワケにはいかないけども……」
「あら、いいの? 是非お願いしたいわっ!」
てな感じで会計を済ませたあたし達は、二人きりで落ち着いて話せる場所へ向かうべくTxC-QUESTを後にした。
次回、次なる観光地は一体どこなのか。