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第六十五話「森翠が世界に誇る(?)伝統ご当地グルメ。その材料は驚きの……」

魔女と人妻、いざ観光の旅へ!

 読者のみんな、御機嫌よう。

 何だかんだ本作を見捨てずに居てくれてありがとねー。

 今回も前回から引き続きこのあたし、便利屋魔女のパルティータ・ピローペインが東方の大国"陽元ヨウゲン"北東部の都市"森翠シンスイ"からお送りするよ。



「――それでもうその時のセイくんが可愛くってぇ~♥

 即座に決意したわっ、

 『そうだ、この子と結婚しよう。意地でも私がこの子を幸せにしなきゃ。

  誰が何と言おうとこの子を愛さなきゃ。何があろうとこの子を守らなきゃ』ってね♪」

「いやー、わかるわその気持ち。

 あたしなんてこの百六十年間、彼氏作っては別れての繰り返しだったから、もう普段から『この子逃したら一生独身!』って覚悟で接してるもん」


 場面は色んな宿泊施設や商店を擁する温泉街のメインストリート。

 私服に着替えたあたしの側を歩くのは、前回浴場で知り合って意気投合、あっという間に十数年来の友達かってぐらい良くしてくれてる妖狐の阿古屋アコヤ 撫子ナデシコさん――見た目や雰囲気は若々しいけど、実はあたしよりわりかし年上だったりする。


「あらカッコイイ☆ パルちゃんみたいな素敵な子にそこまで愛されてるなんて、彼氏クンも幸せ者ねっ♪」

「いやいや、あたしの方があの子に幸せにして貰ってるみたいなトコあるからさ~」

「そういう謙虚で相手を立てる所も素敵よパルちゃんっ♪ けど驚いたわ……まさかパルちゃんの彼氏クンが、あの丸致場亜主マルチバアス財王龍ツァイ・ワンロンクンだなんてっ☆」


 今はナナシークで総合広告代理店を経営してる撫子さんは昔からかなりの旅好きで、ここ森翠にも何度か訪れたことがあり、観光名所を楽しむコツも熟知してるそう。

 序でに察しのいい読者のみんなはもうとっくに気付いただろうけど実は彼女は既婚者で、正命セイメイさんって名前のかなり歳の離れた旦那さんがいるらしい。


「いや~、あたしもあの子がまさかここまで大成するとは想像できなかったよね。

 確かに男前で有能だからいい感じに出世するんじゃないかなー、ってぐらいには思ってたんだけどさ~。

 まさか冒険者にした途端ここまで化けるとは思わなかったなぁ~」

「私の知り合いにも財くんのファンだって子、結構居るのよね~。

 かく言う私自身、彼の私生活とか気になってるんだけど……もし良かったら差し支えのない範囲内で教えてくれない?」

「んん~……どうしようかねぇ。

 あたしもあの子の何もかも全て知り尽くしてるかってーとそうでもないし、親しき仲にも礼儀あり、お互い色々ヤバい部分まで曝け出し合える仲とは言え個人情報保護とか尊厳の尊重とかそういうトコも蔑ろにはしたかないんだよねぇ~」

「そこを何とかお願いできないかしら~。取引先の担当者が一々マウント取って来てウザいから黙らせたいのよ~」

「勿論何も教えないなんて言ってないよ。ただあたしでも答えられない質問はあるって話さ。

 ……さて。立ち話も何だし、どっかでゆっくりしない? あたしも陽元に住んでた時期はあるんだけど北東部はノータッチでさ。どこの店の何が美味しいとかほんと詳しくないんだよね」


 これはマジな話。

 正直渓水の奴らを追い回すのに夢中で、この辺り一帯の飲食店については本当に何も知らないんだ。

 だからこそ、そういうのに詳しい撫子さんの知恵を借りようと考えたのさ。


「あら、そうなの? じゃあいいお店を知ってるわ。

 森翠に来た時は必ず行くようにしてる、知る人ぞ知る揚げ物の名店があるのよ~♪」

「ほーぅ、揚げ物か。いいねぇ、大好物だよっ。

 ……呪いの所為でそういうの食べ過ぎると地獄見るから、あんまバカ食いもできないんだけどさ」

「あらぁ~、じゃあ気を付けなきゃいけないわねっ!

 ここの揚げ物、陽元北部でも特に安くて美味しいって評判だから! あたしもついつい食べ過ぎて口内炎になっちゃうのよね~」

「あー、口内炎はどこにできても辛いよねぇ……」


 てなワケで撫子さんに案内されるまま辿り着いたのは、繁華街に建つ素朴な雰囲気の"丸々跋扈マルマルバッコ"って店だった。


「御免下さいまし~♪」

「ィらっしゃいませェ ――っと、阿古屋社長! お久しぶりです!」

「あ~ら、向坂さきさかくんじゃないの! 本当に久しぶりね~。妹さんは大丈夫? そろそろ退院された頃だと思うのだけど……」

「はい! 元々頑丈なヤツなんで今はもうピンピンしてますよ!」

「そう、それは良かったわ~☆」

「お医者の先生も奇跡だって言ってましてね~。ささ、立ち話も何ですしお席の方へどうぞどうぞ!」


 出迎えてくれた店員さんとのやり取りを見るに、どうやら撫子さんはかなりの常連客らしい。


「今回は旦那様居られない感じスか?」

「ええ。元々は夫婦で来たかったのだけれど、すんでの所でセイくんに急用が入っちゃってね~」

「あいや、そうでしたか~。残念だなぁ。して、そちらのお連れ様の方は……」

「ああ、紹介が遅れたわね。こちらパルちゃん、昨晩知り合ったら意気投合しちゃってね~。

 セイくんの代わりってワケじゃないけど、森翠は初めてらしいから一緒に観光しましょって誘わせて貰ったのよ~☆」

「初めまして向坂さん、パルティータ・ピローペインです。ビットランスで便利屋をやらせて貰ってます。

 陽元には昔住んでたこともあるんですけど、森翠とかの北東部界隈は初めてなんですよね~」

「ほほー、ビットランスからお越しでしたかい! いやあ~遠路遥々ようこそお出で下さいましてどうも有難う御座います!

 ようこそ森翠へ! ようこそ当店"丸々跋扈"へ! イチ店員なりに歓迎させて頂きます、ピローペイン様っ!」


 リザードマンの店員、向坂さんはここ丸々跋扈に勤務して十四年目のベテランで、料理の腕が立つのは勿論、巧みなトークスキルを活かした接客にも定評があるらしい。


「さて、それではご注文の方伺わせて頂きますがよろしいですかい?」

「そうね~。パルちゃん、一先ず私が貴女の分まで頼ませて貰うけどいいかしら?」

「そうだね。あたしはここ初めてだし、撫子さんにお任せするよ」


 森翠の観光名所を知り尽くした撫子さんがお勧めする絶品の揚げ物。その正体というのが……


「お待たせ致しましたァ! "揚げイソメンチ定食"二人前で御座いッ! ごゆっくりどうぞ!」


 キツネ色をした小判型の揚げ物、その名も"イソメンチ"。一見するとコロッケかメンチカツのようにしか見えないけれど……


「イソって名前についてるし、海産物?」

「そうね~。ま、"料理の本質は味わってこそわかる"って言うし、とりあえず食べてみてよっ♥」


 なんて促されるもんだから一切れ食べてみると……


(これは……味は海産物で美味しいけど、この食感は一体……?)


 正直、少しばかり困惑せざるを得なかったよね。

 挽肉ミンチ状の海産物に細切れの野菜を混ぜたのを小麦粉か卵で練り上げた感じなのは間違いなかったんだけど、食感が絶妙で果たして何の肉なのか今一わからないんだ。

 とは言え一人で悩んでてもしょうがないし、撫子さんに聞いてみると……


「驚かずに聞いてね? 実はそれ、イソメのミンチなの♪」

「イソメ? イソメってあの、釣り餌とかに使うアレ?」

「そうそう、そのイソメ。私も初めて聞いた時はビックリしたわ~。しかもこのイソメンチ、結構面白い経緯でできた料理なの☆」

「ほほーぅ、面白い経緯? そりゃまた気になるねぇ~」

次回、ご当地グルメ"イソメンチ"に隠された驚くべき逸話とは!?

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