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第六十四話「待ち受けていたのは、奇跡の出会い……諺じゃこういうのを『渡りに船』って言うらしい」

渓水グループとの激闘を制したパルティータを待つのは、まさに奇跡的な出会い……

 やっほー、読者のみんな。

 何時も似たような挨拶ばっかで恐縮だけど、本作『追放Vtuber』こと『ついブイ』に寄り添ってくれてありがとねー。

 今回も前回に引き続きこのあたし、便利屋魔女パルティータ・ピローペインが回想ってテイでお送りするよ~。



「いやぁ~長かった長かった……ここまで本当に長かったよ」

「ひっ! ひいいいっ! なっ、なんでやっ! なんでこないなっとんねんっ!?」


 場面は東方の大国"陽元"北東部の都市"森翠"某所の高層ビル最上階。

 白昼堂々ズケズケとそこに上がり込んだあたしは、派手なスーツを着込みサングラスをかけたガラの悪い初老のインプを追い詰める。

 如何にも悪辣そうな顔をしたその男こそは……


「初めましてと言っておこうか。あたしはパルティータ・ピローペイン。しがない魔女の便利屋さ。

 あんた、渓水グループ総裁、渓水ケイスイ タカシで間違いないね?」

「い、いかにもワシが渓水やがっ! オドレ一体何やねんっ!? たかが便利屋風情がこのワシになんの用やぁっ!?」


 ここ森翠を好き勝手荒らし回った犯罪組織"渓水グループ"の親玉……つまり此度の案件に於けるあたしの最終標的ってワケ。

 とすると、奴の問いかけに対するあたしの答えは必然、一つしかない。


「何の用って言われてもねぇ~概ね察しはついてるんじゃない?

 まあ単刀直入に言うとだけどさ……隆くんさぁ、あたしの為に死んでくれない?」


 残酷なほどに軽々しく、自分でも引くぐらいさらっと言葉が出た。けどそれも仕方のないことだろう。

 何せこの男、頻繁にあちこちへ逃げ隠れするもんだからとにかく見つかり辛かったんだ。渓水グループに喧嘩を吹っ掛けてからこいつに辿り着くまでに経過した日数は実に十日にもなる。

 しかもその間、入院中のダイちゃんとは会えないどころか電話で言葉を交わす事すらできず……結果として、ストレスが変に拗れた挙句テンションがおかしくなってたって何も不思議じゃないワケだけど、さてお相手からの返答はというと……


「ふざけんなァッ! ウチの事業散々邪魔してくれよってからに、挙句ワシに死ねやとゴラァッ!? ナメ腐っとんちゃうぞボケがぁ!」


 当然、こうなる。まあ仕方ないよね。そりゃそうだ。それが正常な反応ってヤツだろうよ。


「そっかそっか。しょーがないね。そりゃそうだよね。誰だって死ぬのは嫌だもんね。

 てか死にたくないからこそ今迄コソコソ逃げ回ってたんだもんね~」


 最早"気が狂いそう"を通り越して半ば"発狂しかかっていた"あたしは、尚も喚き散らす渓水を尻目に拳銃を抜き、銃口を奴に向けた。


「まあでも、あんたの返答こたえは別に聞いてないんだけどねェ~ッッ!」

「づぁっ! だあっ! クソッ、タレが――」


 負けじと拳銃で応戦を試みる渓水だけど、その動きは余りにも遅すぎて……

 奴の銃口がこっちに向くより先にあたしは引き金を引き終えていて、当然撃ち出された弾丸も奴に命中……


「ごばあっ!?」


 その一撃が致命傷になり、渓水グループの総裁は呆気なく絶命……

 元より構成員の殆どが死に絶えていた組織は絶対的な指導者を失ったことで瓦解が確定し、やがて跡形もなく消滅した。


「……あとは地獄の奴らに任せたよ」


 その後、依頼主の厚意で暫くの森翠観光を勧められたあたしは、愛しのダイちゃんと触れ合えない寂しさと苦しみが少しでも紛れればいいなあと思って、お言葉に甘えさせて貰うことになったんだ。



(州▽∀▽)<というワケで回想終わり。こっからは場面を旅館の浴室に移すよ~。



(……なんだろう、この虚無感というか物足りなさ。どうも釈然としないっていうか、なんだろうなぁ~……)


 やたら長引いた回想を終えて、場面は旅館の浴室内。

 どうにも心にモヤっとしたものを抱えていたあたしは、休憩と水分補給を挟みながら尚も入浴を試みるけれど……


(ダメだ……どうにも気分が晴れない……ここの薬湯は精神にも効くって話だったのに、さては漬かり過ぎて耐性ついた……?)


 あたしの気分が完璧に晴れることはなかった。かくなる上は他の娯楽を試すべきか? なんて思っていると……


「今晩は~☆ お隣よろしいかしら?」

「ん? ああ、どうぞ」


 ふと、声をかけられた。声からして比較的若年かな?

 人もまばらな広い浴室で態々初対面の他人の隣へ来るってのも珍しいなと思ったけれど、別段邪険に扱う理由もない。


「それじゃ、失礼するわね~」


 あたしの隣に座って来たその女は、鮮やかな桃色の髪をしたスタイル抜群の別嬪だった。

 同性の、かつ異性愛者ヘテロでナルシスト気味なあたしでさえ素直に美人だって認めざるを得ないんだから、男性諸君や同性愛者からしたらそりゃもう大層魅力的なんだろうさ。


(てか、乳でっか。肩凝りエグそう……)


 大まかな外見は一見東方系の人間かエルフのように見えたけど、よく見ると側頭部にある筈の耳がなくて、代わりに頭頂部から三角形の、毛皮に覆われた肉食獣の耳が生えていて……


「……亜獣人デミスロープ?」


 思わず声に出てしまう。

 亜獣人デミスロープっていうのは、例えばウェアウルフやバードフォーク、リザードマンみたいな、所謂ヒト型の動物って感じの"獣人セリアンスロープ"より人間寄りの風貌をした種族のことで、獣人系と他の種族との間に生まれた子供のことを指す場合もある。


「せいか~いっ♪ ま、厳密な種族名は妖狐アプリション・フォックスなんだけどもね☆」


 妖狐アプリション・フォックスってのは、陽元をはじめ東方地域に起源を持つ神獣メタビースト系の種族で、魔術や異能に秀でていて長寿なことで有名だ。


「へぇ、妖狐かぁ。どうりでお姉さん、なんか只者じゃないようなオーラを感じると思ったよ」

「お褒めに与り光栄だわ♪ けど、凄いオーラがあるのはお互い様でしょ☆ 察するに……貴女も並みの人間ってワケじゃないと思うんだけど、どうかしらぁ?」

「御名答。後天性アンデッド、被呪不可殺者カースド・アンキラブルだよ」

「被呪不可殺者? すっご~い、初めて会ったわぁ♪ アンデッドなら知り合いにも結構居るんだけど、不可殺者アンキラブルなんて初めてよぉ~♪」


 明るくて喋りが上手いのもあって、その妖狐のご婦人とはすぐに打ち解けてしまった。


「そういえば名乗って無かったね。初めまして。あたしはパルティータ……パルティータ・ピローペイン。ビットランスで便利屋をやってるモンさ」

「此方こそ初めまして~☆ 阿古屋アコヤ 撫子ナデシコよ♪ 友達と一緒に総合広告代理店を経営してるのっ☆」


 なんてこった、経営者か。

 しかもネット全盛のこの時代に総合広告代理店とは恐れ入る……ま、経営者ってだけであたしからすると雲上の存在なんだけど。


「撫子かぁ。綺麗な名前だねぇ……綺麗なお姉さんにピッタリだ」

「うふふ、ありがとぉ~♪ 貴女の名前も素敵よっ☆ パルちゃんって呼んでもいいかしら? 私のことも、撫子って呼んでくれていいからっ☆」

「ああ、構わないよ。周りからもよくそう呼ばれてるからね」


 温泉旅館の浴室で出会った、妖狐の撫子……不思議な魅力を持つ彼女と瞬く間に意気投合したあたしは、ふと思ったのさ。

 『もしかしたらこのお姉さんは、あたしの心のモヤを晴らしてくれる存在かもしれない』ってね。


次回、美女二人の観光旅行開幕!

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