第六十三話「デート、したかったなぁ……」
魔導国での戦いを終えたパルティータは紆余曲折を経て温泉で一休み……
果たして彼女に何があったというのか!?
やっほー、読者のみんな。
毎度毎度本作『追放Vtuber』こと『ついブイ』の読者で居てくれてありがとね~。
今回も前回に引き続きこのあたし、便利屋魔女のパルティータ・ピローペインが主人公兼ナレーターを務めさせて頂くよ~。
「ふえぁはあぁぁ~~生き返るぅぅぅ~~♪
やっぱ重労働の後の温泉ってなァ最高だぁねぇ~~☆」
夜空には星が煌めき、濁った薬湯にはあたしのおっぱいが浮き、立ち上る湯気は幻想的な雰囲気を醸し出す、そんな光景……
場面は東方の大国"陽元"北東部の都市"森翠"にある老舗温泉旅館の露天風呂。
今まさに案件を一つ終えたあたしは、依頼主の許可を得て"お零れ"に与らせて貰っていた。
この露天風呂での至福のひと時もまた、そんな"お零れ"の一部であって……なんて説明じゃよく理解できないだろうし、ここは最初から回想形式で説明した方がいいだろうね。
(州;=_=)<ほんとはダイちゃんと一緒に来たかったんだけどねー……致命的にスケジュールが合わなくてどうにもならなかったよ……
まずは前回ラスト以後の話から。
変異したラクゴーを始末したあたしはすぐに魔導国政府へ連絡を入れ、駆け付けた特殊部隊にチャペックの身柄を引き渡し、奴の発言を余さず録音した高音質の音声データも提供した。
裁判の判決が出るまで相当時間はかかるだろうけど、魔導国の司法は優秀だし"煌めく星"の件で麻薬には厳しいだろうから、相当な厳罰に処されるんじゃないかなーと期待したい。
(あっさり死刑になるのもつまんないけど、あいつの為に税金無駄にするのもどうかと思うしいっそ殺した方がマシかもね~)
さて、魔導国での仕事を終えたあたしは当初、政府の皆さんへの挨拶もそこそこにビットランスへ帰国するつもりでいたんだけど……ふとその中の一人、新米の岩刈法務長官の様子がおかしいのに気が付いた。
繰り返し言ってるように、あたしにとって魔導国政府の関係者は軒並み家族みたいな存在だ。悩み事や困りごとがあるってんなら相談に乗らない選択肢はない。
「どうしたんですか、岩刈法務長官? 如何にも何か思い詰めてるような表情でしたけど……」
「あっ、ピローペインさん……すみません。どうしても気がかりなことがあって……でも魔導国の外の出来事ですし、貴女に無理をさせるわけには……」
「まあそう仰らず。困った時には助け合いってコトで、とりあえずお話だけでも聞かせて頂けませんか」
「……よろしいんですか? では、お言葉に甘えさせて頂きます。実は近頃、地元の同級生から相談事を受けていまして……」
話を聞いてみると、長官の故郷一帯じゃ何やら妙な事件が相次いでて、そのせいで近隣住民も結構な被害を被ってるんだそう。
繰り返すけど魔導国はあたしにとって特別な国で、特に政府関係者の方は家族同然に思ってる。
例え当時お世話になってない新米の方だろうと、魔導国政府の官僚が何かしら悩んでるってんなら相談に乗らせて頂くのが筋ってモンだろう……というワケであたしは早速長官の故郷、東方は陽元北東部の都市"森翠"へ飛んだ。
森緑は陽元屈指の豪雪地帯な分夏は涼しく過ごしやすいのが特徴で、農業や漁業が盛んな他、世界的にも希少とされる大自然を巡る観光や、様々な薬効を秘めた天然温泉でも世界的に有名だ。
(よぉぉぉっし、ダイちゃんも呼ぼうっ!
確かあの子も今日ぐらいに大きな案件が終わって暫く予定は無かったハズだし、戦略的にも優秀な人員が増えるに越したことはないからね!)
岩刈長官の紹介で知り合った依頼主からも『仕事が終わったら森翠での観光を楽しんでいい』と言われてるし、例えどんな奴が相手だろうとさっさと始末して愛しのダイちゃんと二人でデートと洒落込もうじゃないかと、あたしはそう考えた。
当時のあたしにしてみればそれはもう確定事項で、何なら仕事なんて眼中にないぐらいの勢いだったんだ。
けど……
「……え? 入院?」
『そうなんですよぉ~!
財くんに行って貰っていた現場の村で火災が発生したんですけどねぇ!
彼、生存者の方を助ける為に炎の中へ飛び込んだ挙句、運悪くバックドラフトの爆発に巻き込まれてしまいましてぇ~!
流石の生命力でどうにか一命は取り留め程なく意識も回復したようなんですが、それでも傷が深く概ね二週間から二十日ほどは入院しなければならないそうで……』
冒険者ギルド"丸致場亜主"の大良さんからかかって来た一本の電話で、あたしの森翠デート計画は音を立てながら崩れ去ったんだ……。
(……まあ、ダイちゃんらしいっちゃらしい話だけどさ。退院の目途も立ってるって言うし……デートはまた延期、かなぁ~)
とりあえず無事との事なので、取り敢えず頃合い見て見舞いに行こうと誓ったあたしは、森翠の民を苦しめるヤバい連中とやらを始末すべく急ぎ陽元へ向かった(ま、ダイちゃんへの見舞いもその後色々あった挙句中止になっちゃったんだけどね……)。
「――なるほど。確かにそれは結構危うい状況ですね」
「はい。既に軽視できない数の被害者が出ていますし、地元警察の対応もなんだか怪しい気がしましてねぇ。
藁にも縋る思いで岩刈さんとこのお嬢さんに相談しましたらば、貴女様をご紹介頂いた次第でしてぇ……」
依頼主に曰く、ある時を堺にこの一帯へ『渓水グループ』とかいう連中がやって来ては各種ビジネスで幅を利かせ始めているとの事だった。
強欲な礼儀知らずな渓水グループの狼藉は目に余るものがあり、奴らは地域の伝統や自然環境、近隣住民の意向なんかを蔑ろにしたような、やたら雑なやり方で暴れ回ってるもんで自治体としては頭を抱えているんだそう。
加えてそいつらの出現と時を同じくして子供や若者、観光客なんかの失踪や不審死等が相次いでいて、しかもその被害者たちは決まって渓水グループと深く関わっていたっていう共通点があったんだ。
つまり渓水グループが何かしらの形で事件に関与してると見るのはほぼ必然……にも関わらず警察の対応はハッキリ言って雑だし、勇敢な探偵を雇って調べさせたらそいつも変死体で発見されたとかで……。
「わかりました。あたしもあくまで民間人ですけど修羅場はそこそこ乗り越えてますし、可能な限りの抵抗は試みてみましょう」
「お願いします……!」
というワケで調査を始めてみたんだけど……件の渓水グループって連中が有罪なのはすぐに分かった。
纏めると、奴らは子供や若者、観光客を攫っては売春をさせたり労働力や生体実験の材料として裏で売り飛ばしていたんだ。
しかもその客の中には警察の幹部なんかもいるらしく、地元警察の対応が雑だったのも頷ける。
(……『我欲の為に他者を利用し蹂躙する者は悪である』って格言があるけど、その定義に基づくなら渓水グループは紛れもない悪だろうさ)
てなワケであたしは早速奴らの殲滅を開始した。
あたし自ら、または魔導国で手駒にした元センスタの構成員達に命じて奴らの居場所を突き止め、次々襲撃していったんだ。
「どもどもー! 魔女っ娘パルちゃんでーす! 火星に代わって粛清でーす!」
「ぎゃああああ!? いい歳こいた大の女が微妙に魔法少女っぽいコスプレでカチコミして来たああああ!?」
「キッツウウウウウウ!?」
「美人なんだから歳考えろよ無理すんなって!」
……そんなに似合わないってこともないと思うんだけどなぁ。
「失礼な奴らだねぇ。確かに若干無茶かなとは自分でも思うけどさぁ」
ぼやきつつも取り出したのは近所のリサイクルショップ『Noja☆Odin』で買ってきた中古の回転式機関砲。
中型竜種を想定した製品で、軽量かつ反動もそんなにないので扱いやすい優れものだ。
「とりあえず喰らっときな、必殺 マジカル★ガトリ〜ングっ♪」
「ぎゃああああ!? 撃ってきたああああ!?」
「マジカルってか"本気狩る"だこれぇぇぇ!?」
「助けてぇぇぇぇ! 狩られるってか吹っ飛ばされるぅぅぅぅ!」
「何にでもマジカルってつけときゃ魔法少女の必殺技っぽくなると思ってんじゃねぇぇぇっ!」
銃爪を引いたまま撃ちまくってやれば、渓水グループの奴らは面白いように吹き飛んでいく。
因みに弾丸は火炎系の術式を仕込んだタイプの焼夷弾なので、マジカルって名前でも何らおかしくはない……と、思う。
その後、用意してた弾薬の三分の二ほどを使い切った辺りで奴らは概ね死に絶えたらしかった。
「さぁて、この調子でどんどんぶっ潰してやろうねぇ……!」
悪党風情が法の番人を味方につけるなら、こっちは脱法行為で抵抗するまでさ。
次回、渓水グループとの激闘は尚も続く!