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第六十話「"その時点での完璧"を志す分にはいいけど、"ただの完璧"を自称する奴は『自分には未来がない』と言ってるようなもんだから……」

バレンタインデーだけど

バレンタインデーらしさのない回になってしまって

なんかすみません。

Misskeyと相方のXに投稿される告知の方には

ちゃんとバレンタインデー要素反映させますんで……

 やっほー、読者のみんな。毎回本作『つい☆ブイ!』を読んでくれてありがとね~。

 例によって今回もこのあたし、便利屋魔女のパルティータ・ピローペインが主役兼ナレーションを務めさせて頂くよっ。


「来なよ、"聖なる小山羊"。

 倫理も道徳も捨ててかかって来なぁ……

 あんたたちの女王様とやらを全否定するこんなクズ、

 正々堂々成敗する程度じゃつまんないでしょ~?」


 場面は麻薬組織センテニアル・スターズの拠点、コンシ海はワレベ島に立つザーロース学園大学学舎跡の大広間……。

 組織を率いるエルフのアリアナ・チャペックに仕える七人組"聖なる小山羊"目掛けて、あたしは古典的な挑発の言葉を投げかけるけど……


「抜かせ! 我ら"聖なる小山羊"は常に公正! 逆賊相手とは言え卑怯な真似など断じてせぬわ!」


 奴らの代表格曰く、挑発に乗ってはくれないらしい。あくまで礼儀作法や公平性に拘るつもりのようで……麻薬組織の癖に高潔ぶってるとかいっそ滑稽にすら思えて来るよねぇ。

 因みにそんな"聖なる小山羊"のメンバーなんだけど、チャペック同様どうにも記憶に残るような残らないような、微妙なラインのメンバーばっかりだった。

 具体的には……


「なんて奴なの……そんな安っぽい挑発に誰が乗るもんですかっ」


 眼鏡をかけた義足のワーシープに、


「そうだァッッ! オレらはあくまで正々堂々、テメーと戦って勝ァつ!」


 小柄で短気なノーム。


「――ェぶしッッ!? そうでありまフェブしッッ! 袋叩きなんてェブシッ! 弱い者いじめみたいな真似ェブシッ! するわけがないでェブシッ! フェ~アックショォンッ!?」


 アレルギー持ちなのかくしゃみばっかりのサハギンに、


「そうよそうよ! 大人しく負けを認めなさい!」


 やたらテンションの高い樹木人トレント


「お前なんかに~負けるわけ~ない~だろ~」

「……ゥンゥン!」


 腹立つぐらいゆるい態度のクビキリギス型バグフォークと、その背後に背後に隠れながら無言で力強く頷くフェアリー。

 そして……


「という訳で先陣を切るのは我だぁ……!

 極悪人ピローペイン! アリアナ様を長きに渡り苦しめた外道よ!

 貴様には地獄すら生温い!

 この"聖なる小山羊"随一の武闘派、"眠れる巨神"グーフシー・ラクゴー様が相手になってやるぁ!」


 奴らの代表格でもあるスウェット姿のオーガ、自称"眠れる巨神"グーフシー・ラクゴー。

 ……なんだろう。

 間違いなく個性はあるハズなのに今一パッとしないっていうか、ミョ~に印象に残り辛いんだよね……。


「ああ、こりゃどうも。まあそっちがそうしたいってんなら合わせるよ」

「ふんぁ! 舐め腐りおってぁ! 高潔にして純粋なる願いの力は如何なる相手にも無敵であると思い知らせてくれようぞぁ!」


 啖呵を切ったラクゴーが取り出したのは、星型をした黄金色の錠剤……。


「……"願い星"?」

「否ぁ!これなるは"願い星"を進歩させし完成形"完璧なる星(パーフェクトスター)"であるぁ!

 その力たるやまさに完璧ぁ! "願い星"を凌ぐ絶対の力を、思い知るがいいぁ!

 んがあああああああああっ! はんがっもんごっぅごっぐっごおぅぅごっ!」


 無数の"完璧なる星"を豪快に口の中へ流し込み、その全てを嚙み砕いて飲み込んだラクゴー。

 奴の身体は瞬く間に光に包まれ、ただでさえデカかった図体は元の1.5倍程に肥大化……

 続けて全身の皮膚は板金鎧プレートメイル風の外骨格に変異し、宛ら"鎧を纏うオーガの騎士"っていうよりは、"オーガを模して造られた鎧が変化した怪物"とでも呼ぶべき姿になっていた。


「恐れおののけぁ! これぞ"完璧なる星"が完璧たる所以ぁ!

 服用者の願いを叶えつつ、その者を生物として完璧な形へ進化させる力ぁ!

 愚かな罪人よ、完璧なる生物として進化した我の力の前に、平伏し滅びるがよいぁぁぁぁあああっ!」


 ラクゴー渾身の張り手が、あたし目掛けて迫る。

 直撃すれば即死――あたしの場合、暫くの再起不能――に追い込まれかねない強烈な一撃だった。

 けど当然、そんなもん喰らってやるほどあたしも空気を読むタイプじゃない。


「よっと」

「ぬあっ!?」


 余裕を持たせた跳躍で回避……序でに薙ぎ払われた右腕へ着地してみる。

 ここで『この程度の攻撃しかできないの?"完璧なる生物"が聞いて呆れるねぇ』なんて具合に煽ってやっても良かったんだけど……あたしはもっと面白い作戦を思いついていた。


「"夏の盛り、ある日の夜更け"

 "滾る劣情を持て余す彼は、昂る槍を慰めん"

 "されど刹那、彼は異変に見舞われり"

 "闇の森林。逃げる野鳥。爆ぜる光"

 "即ち『存在しない記憶』の奔流"」


 その"面白い作戦"を実行すべく、あたしは呪文を詠唱する。


「ぬうああっ! 貴様っ、小癪なぁっ!」

「"彼は悶える。彼は苦しむ"

 "劣情、内なる穢れは激しく彼を苛み――」

「くぉんのぉ、握り潰してくれるぁっ!」

「――ほいっ、と」


 迫る巨大な左手。

 安直かつ殺気だらけのそれを回避するぐらい、ある程度の経験と身体能力さえあれば誰にだってできるだろう。


「"遂に彼は変貌せん。その風貌は醜悪にして凶悪"

 "そこに最早、素朴で端正な色男の面影は微塵も無し"

 上位呪術行使リサイト・ハイ・エンチャントメント

 "荒ぶる肉欲が人(ラストゥ・サモン・)を怪物に変える(コズミック・ホラー)"」

「ぬうぁっ!? なんだこの光はぁ!? 貴様ピローペインぁ!? 一体何をしたぁ!?」


 共に放たれた閃光はラクゴーの視界を奪い、奴は顔を覆って悶絶する。


「……"溺色欲ドラウン・ラスト"」


 隙だらけなラクゴー目掛けてメモ用紙を翳し魔術を放つ。その術こそあたしの思いついた"面白い作戦"の仕上げであり……


「ぬっ、くぅっ! どうしたぁ!? ただの目眩まし程度でこの我に勝ったつもりかぁ!?

 舐めるなよ罪人がぁ!

 "完璧なる星"の力を手にした我が、その程度で止まると思っ――ぐうぉおおおっ!?」


 刹那、それまでイキり散らかしてたラクゴーが唐突に取り乱す。


「なんだぁこれはぁ!? どうなっているぁ!? ええいやめろ貴様らぁ! 我に近寄るでないぁ!」


 誰も居ない筈の虚空に向かって喚き散らすラクゴー。その様子からして、どうやらあたしの魔術が効き始めたらしい。


(よし、準備完了……!)


 その名は"溺色欲ドラウン・ラスト"……効果としては単に『淫らな幻覚で標的の性欲を昂らせる』だけ。

 一応標的の思考や記憶を読み取って、性癖に準拠した最適解の幻覚を見せられるって長所はあるけど、それでも正直そんなに汎用性が高いとかってこともなく……まあぶっちゃけると、単体じゃそこまで強力でもない微妙な代物だ。

 恐らくラクゴーも――術者あたしはじめ外野は窺い知れないけれど――奴自身の性癖に準拠した"好みの相手"に迫られて焦ってるってトコだろう。


「ぬぅぁっ! 止せぁっ! 我は高潔な騎士であるぞぁっ! 貴様らどうせ美人局か詐欺師であろうがぁっ!? 我を色仕掛けで騙し破滅させるつもりであろうがそうはいかぬぞぁっ!」

(……あらら、思いの外効果抜群だねぇ。やっぱあいつ、性欲持て余す癖に性への免疫とかがないタイプだったかぁ~)


 とまあ、このようにあたしは奴の身に起こった異変を理解できていたけど、センスタ側の奴らは誰一人として真相に到達できていないようで……


「ラクゴー! しっかりっ! 貴男の正義に対する力で乗り越えるのよ!」

「気張れよラクゴー! 何があったんだか知らねーがとにかくやっちまえ!」

「ぇぶしっ!? フェブシッッ!? ぶェックしょいぁぁぁぁぁっ!?」

「フレーッ! フレーッ! ラ・ク・ゴォォォォォ!」

「頑張れ頑張れラクゴぉ~」

「ウンウンウンウンウンウン!」

「諦めては駄目よ、グーフシー・ラクゴー……! あなたならできる……! 自分を信じるのよ……!」


 チャペック含め、他の奴らは応援するばかり。

 せめて何かしら手助けなり助言なりしてやればいいのにと思うけど、余計な邪魔が入らないのは正直好都合だ。

 何故って、そりゃあ……


(さて、そろそろだと思うんだけどなぁ……どんな風に"変わる"のかなぁ~♪)


 "面白い作戦"はここからが本番だからだよ。

次回、パルティータの考える"面白い作戦"とは?

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