第五十九話「ダメだこのエルフ。早く何とか……いや、もうどうにもならんわ……」
麻薬組織"センテニアル・スターズ"の長、エルフ系混血児のアリアナ・チャペック。
果たして彼女に隠された知られざる過去とは……?
やっほー、読者のみんな。毎回毎回辛抱強く本作『追放Vtuber』こと通称『ついブイ』を読んでくれてありがとね~。
前回同様に今回もこのあたし、便利屋魔女こと本作ヒロインのパルティータ・ピローペインが主役兼ナレーションを務めさせて頂こうっ。
「まさか貴女、私を覚えてないの……?」
「覚えてないってーか、そもそも知らないねぇ。
幾ら地味で記憶に残り辛い相手だって、因縁らしい因縁があったら何かしら僅かにでも憶えてるタチなんだけど……あんたに関してはマジで記憶にないんだワ」
場面は麻薬組織センテニアル・スターズの拠点。
その中にある大広間で、あたしは組織を率いるアリアナ・チャペックと対面……したまでは良かったんだけど、そいつと来たら開口一番、まるで面識のないあたしに対して如何にも因縁の相手っぽいノリで語りかけて来たんだよね~。
当然あたしは今に至るまであいつと面識無かったからあくまで初対面として接したんだけど……さて、奴はどう出るかな?
「……そう。やはり貴女にとって私なんて、ちっぽけで取るに足らない存在だったのね……」
「いやー、別にそこまでは言ってないけどね。てかそもそも知らないって言ってんじゃん!?」
「さて、それはどうかしらね」
……さてはこいつメンヘラか? そう考えたあたしは、敢えて奴に歩み寄ることにした。
本音としちゃこんな奴さっさと殺したいけど、一方で謎や疑問は可能な限り解決しておきたいタチだからね。
あとこれは後に判明することだけどこのチャペック、実は国立魔術学院に通ってたあたしの同級生だったらしい。
「……ああ、ゴメンゴメン。ちょっと言い方が悪かったかな……本当にあんんたのことは、組織の奴らから聞く迄知らなかったんだよ。
ただこれだけは言わせて欲しい。少なくとも今のあたしにとって、あんたはちっぽけで取るに足らない存在なんかじゃないよ」
「……その態度、本当に私のことを覚えていないようね。いいわ。なら説明してあげましょう……貴女のせいで私がどれだけ苦しんできたのかを……!」
「なるべく手短にね?」
「……あれは今から百六十年前の年明け頃。私は当時魔導国でも他の追随を許さぬ名家として名を馳せしチャペック家の一人娘として生を受けた……」
「いやなんで誕生からやんの!? 絶対長くなる奴じゃん!」
もしかしなくてもこいつ、あたしの話聞く気ないな……? かくなる上は強引にでも……!
(州▽Д▽)<カァット!
「――どう、わかったかしら? 貴女は常に私を傷付け、夢を奪って来たのよ……!
その所為で私は苦しみながら不幸な人生を歩まされてきた……!」
「あーうん、ソウダネー。その件は大変申し訳なかったと反省させて頂きますハイー」
な、長かった……! 読者のみんなを巻き込まない為に演出でカットしたけど、直接聞かされたあたしはたまったもんじゃないよ……。
ただでさえ長いのにちょくちょく脱線するし、なんかツッコミ入れたり相槌とか共感以外の言葉を発しただけでヒスるしさぁ……。
(さてはこいつ、自分に不都合な話には聞く耳持たないとかそういうアレなんでは……?)
序でに言うとこいつの言っていた"あたしの罪"とやらも、こいつ自身が勝手に自滅しただけか、或いは勝手な言い掛かりに過ぎないような主張ばっかり。
不幸続きの人生ってのも単に被害者面で騒いでるだけというか、常人からしたら逆に結構恵まれていて幸福ですらあるワケで……言ってしまえばこいつの不幸や災難なんてものは、ほぼ全てこいつ自身の自業自得でしかなかったんだ。
(因みにクリスティアーノ氏を大学から追い出した職員ってのもこいつらしい。つまりザーロース学園大学を廃校に追いやった下手人もほぼこいつで間違いない……ま、その辺は本筋から逸れるから割愛するけども……)
さて、そうなってくるとこいつが麻薬組織のトップになった経緯と理由も気になるワケだけど……
「あれはそう、失踪したアンジェリカ夫人の自殺が明らかになった翌日だったわ……」
(ああ、また長くなるヤツだこれ……)
という、ワケで……
(州▽Д▽)<カァァァァァット!
「――つまり、"願い星"は世界に救いを齎す奇跡の薬なの。或いは寧ろ"願い星"によってしかこの世界は救われないのよっ!」
(……うーむ、これは重症だわ。待合室行きも止む無し)
アリアナ・チャペックが麻薬組織"センテニアル・スターズ"を設立し"願い星"の開発と製造に踏み切ったのは、余りにも身勝手かつ救いようのないゴミ以下の理由からだった。
奴自身の言葉を借りるなら『全世界の人々を平等に救う為』だそうだけど、やり方が『薬で安楽死させる』ってんだから余りにも安直かつ極端で……ハッキリ言って頭が悪い。
元々ザーロース学園大学の職員だったチャペックは、初代理事長のクリスティアーノ氏を追い出した後、氏の後を継いで理事長に就任。
大学の経営を一手に引き受けることになったけど当然上手く行くハズもなく、加えてアンジェリカ学長がただのお飾りでまるで役に立たなかったのもあり見事に失敗。
職員にも学生にも見放され学長も失踪、それまで目立ちまくってた所為で各方面からの報復を恐れた奴は国外に逃亡し各地を放浪。
その過程で『世の中は不平等で、大多数の人々は願いを叶えられないまま死ぬ』と知り、やがて『この歪んだ世界に平等な救いを齎すのが自分の使命だ』と考えるようになる。
そしてあれこれ試行錯誤した結果"煌めく星"に着想を得て、乱用者の命を糧に発動する術式を仕込んだ麻薬"願い星"を着想。
開発・製造と配布の為に"センテニアル・スターズ"を設立し今に至る……って感じらしい。
正直、あたしの同級生……つまりあたしと同じく推定実年齢が百数十歳を超えてる癖にコレだってんだから、それだけでもマジでどうしようもないワケだけど……
「ピローペイン。如何に邪悪であっても頭だけはいい貴女なら理解できるでしょう?
世の中は不平等で、矯正の余地もないほどに歪んでいる……! そんな世の中に生かされている人々を救う方法は"願い星"しかないことを!」
事も在ろうにこのエルフ、完全に敵対してるあたしに対して尚も共感を求めて来たんだ。
全くバカげてるよねぇ。ここまでの話を聞いて誰がこいつを肯定すると思う?
多分、病気の恋人を救おうと八百長試合に手を出して地位も恋人も失っちゃうバカな格闘家だって力の限り否定するだろうさ。
「気色悪い台詞だなぁ。誰が共感するんだよ、あんたみたいな腐れ外道にさぁ」
「何ですって……!?」
「てかあんた、あたしの同級生だったっけ。じゃあ"煌めく星"がどんだけの被害を出したかも当然知ってるよね?
それで尚、麻薬で世界を救おうって発想に至るのがまず意味不明……外貨獲得と他国の弱体化を目論んだレッソー書記長の方がまだ辛うじてマトモじゃんね」
「~~~~ッッッ!」
言い返されたチャペックはそりゃあもう烈火の如く怒り狂った。
けど流石、腐っても一組織の長だけあってすぐに落ち着きを取り戻した奴は、そのまま号令をかける。
「"聖なる小山羊"よ! この罪人に罰を下しなさい!」
「「「「「「「仰せの儘に、女王陛下!」」」」」」」
奴の号令に呼応して姿を現したのは、様々な種族の男女七人組。雰囲気からしてどうやらこいつらがチャペックに次ぐ組織の幹部格と見て間違いない。
「いいねェ~漸く面白くなってきたじゃんっ!?」
一丁、派手に暴れてやりますか!
次回、いよいよバトル回突入!