第五十八話「びっくりするほど味が薄い。水道水より味がしない」
というわけで遂に"センテニアル・スターズ"の本拠地へ乗り込み幹部と対面……
なんですけど、単純にネタ思いつかないし面倒だしで対面までが長い割にさほど目立った展開もありません。
すみません。
やっほー、読者のみんな。毎回毎回飽きずに本作『追放Vtuber』こと通称『ついブイ』を読んでくれてありがとね~。
例によって今回もこのあたし、便利屋魔女パルティータ・ピローペインの視点で進行させて貰うよ~。
「やれやれ、やっと着いた……」
場面は魔導国に面する"コンシ海"に浮かぶ"ワレベ島"。
そこは島っていうより"海に聳える山"みたいな見た目なんだけど……より厳密に言うとあたしは、その"山頂"にある石造りの巨大な廃虚の前に立っていた。
「組織の奴らに吐かせた情報が確かなら、奴らはここに集まってるハズ……」
その理由は明白。
ここが件の麻薬組織"センテニアル・スターズ"の総本山で、人員や資源を大幅に失って追い詰められた組織の幹部連中が隠れ潜んでいる場所だから。
「しっかしこの建物、なんか見覚えあるなぁと思ったらザーロース学園大学の旧学舎かぁ。
初代理事長が追い出されてから目に見えて経営が悪化して、最終的には関係者軒並み失踪してなし崩し的に廃校に追い込まれたって聞いてたから、学舎も取り壊されたもんだとばかり思ってたけど……」
ザーロース学園大学は、その昔ここワレベ島の中心……つまりこの島で最も海抜の高い場所に学舎の建てられた私立大学だ。
創立者は初代理事長のクリスティアーノ・福山・マグニフィセント氏。
元々戦災孤児で移民だった氏は縋るもののない絶望的状況にも敢然と立ち向かい成り上がった逸話で知られる優れた魔術師で、
独学で身に着けた魔術をはじめとする様々な知識や技能を活用し、魔導国の窮地を幾度となく救った実績のある国民的な英雄として今も語り継がれている。
そんな氏が生涯最後の大仕事として着手したのが教育事業による後進の育成で、ザーロース学園大学を氏は『自身の生涯の集大成であり生涯の象徴そのもの』と言っていた。
「とは言えそんなザーロース学園大学も今や廃校になって久しく、歴史系番組でネタにされる程度には過去の遺産なワケだけど……」
廃校になった原因は明らかになってないけど、その筋では経営面のみならず教育面をも仕切っていたマグニフィセント氏が大学を追い出され、適切な後釜が見付からなかったのが原因だろうと言われている。
確か当時の報道によると、マグニフィセント氏は何かしらの不祥事に手を染めていたとかで、それを職員に告発されたのを切っ掛けに大学を追い出され、長年連れ添った妻で当時大学の学長でもあったアンジェリカ夫人とも離婚して以後は消息不明……。
もうかれこれ百年近くも前のことだし、長命な種族でもなければ持病を抱えていたなんて話もあるので法的には死人として扱われているけれど、都市伝説マニアや陰謀論者の界隈じゃ氏の生存説は定番ネタとして定着しているらしい。
「……まぁ~そんなん今どうでもいい話だけどね。
あくまで重要なのは、ここが麻薬組織センスタの総本山で、"願い星"の製造も配布もできなくなって万策尽きた組織の幹部連中が隠れてるって事実だけ……」
実働部隊"夜空の虹"と麻薬製造担当の"歌う林檎"、加えて麻薬工場までも失い身動きが取れないとは言え、それでもどこかで悪事を繰り返す危険性がある以上、センスタの幹部連中を野放しになんて絶対にできない。
「ジブリール大臣は『麻薬汚染の根源を断てたならそれで充分だ』って仰有られたけど、正直失礼乍らそれは希望的観測、状況の楽観視が過ぎるってもんでさ……。
メルクリウス大臣は『あとは政府でどうにかするから彼氏の所に帰ってやれ』って仰有られたけど、ここで幹部連中っていう不安の種を残したままじゃデートもセックスも楽しめないっての……。
何よりダイちゃんが仮にあたしの立場だったなら、是が非でも奴らを自分の手で壊滅させる所までやるだろうし……」
ここでイモ引いて逃げようもんなら、それこそ年長者としての面子が立たないじゃんね。
「……然しとは言え、どこから入るか迷うデザインだなぁ」
廃校になって久しいからだろう、あちこち経年劣化しているとは言え、それでも石造りの学舎は概ねその気品と風格に溢れる佇まいを保ち続けている。
それこそまるで、遺跡やダンジョンみたいにね。
「柵を飛び越えて正面突破がわかりやすそうだけど、あんな如何にもがら空きだと逆に罠っぽいし、他の出入り口探すのも手間だし、地面が硬いから穴掘るのも現実的じゃないし……」
ああでもないこうでもないと悩んでいると……難く閉ざされていた正門が鈍い音を立ててゆっくりと、まるで示し合わせたようなタイミングで開く。
察するに幹部の奴ら、あたしを歓迎するつもりらしい。
「……これこそ如何にも罠クサいけど、いいでしょう。その挑発、ノってやろうじゃない」
例え何が待ち受けていようとそん時はそん時。持てる限りの全力で乗り越えてやればいい。
"成し遂げて無事に帰還る"んだと、そう心で誓ったならあとは実行するだけだ。
(州▽∀▽)<何度も言うけどあたしは不老不死かつ不妊で不改変だからね。攻撃とか罠とかへの耐久力にはそこそこ自信があるのさ。
「……驚く程何も無いねぇ」
門を潜り、校庭を通り抜けて正面玄関から学舎へ入ったあたしを出迎えたのは、ひたすらに続く簡素で面白みのない……言い表すならまさに"虚無"って感じの通路だった。
「金のかかってる学校なら通路は派手なものと相場が決まってるけど……」
廃校が決まった際に取り除かれたか、はたまた組織の奴らの仕業かは知らないけど、とにかく嘗て存在したであろう掲示物とか装飾品、家具の類いがない。
何なら仮にも私大の学舎なんだから、通路が分岐してたり教室への出入り口があったりとかそういう"複雑な構造"をしてなきゃおかしいのに、実の所はただ一直線に通路が続いてるだけなんだ。
「改装したにしても極端すぎるっていうか、普段何考えてたらこんな発想に至るんだか……ああ、何も考えてないのか」
(州;=_=)<本当もうさぁ、何もないただの一本道だからひたすら退屈なんだよ……
「――よっ、とぉ~。お、漸く終点かな? いやー、長かったなーここまで」
退屈を紛らわす為、『通路を20メートルごとにルーレットで移動方法を決める遊び』をしながら道を進むこと約数時間。
長々続いた簡素で退屈な一本道の終点に、あたしは立っていた。
目の前にあるのはこれまた何とも簡素でつまらないデザインの分厚そうな鉄扉……
「イライラしてきたしいっそ爆破してやろうかな」
ぼやきながら近付いてみると、門の時と同じく扉はひとりでに開いた。
動きからして魔術機構を仕込んだ自動開閉システムが搭載されてるんだろうけど、そういう所にかける手間があるなら学舎内の内装だってもっと頑張れたんじゃないのかねぇ……。
(ま、素手で開けろとか無茶振りされないだけマシだけどさ~)
扉の向こうはこれまた何もない、ただ微妙に薄暗いだけの広大な部屋だった。
恐らく体育館か講堂、でなきゃ講義室を再利用したんだろうけど、なんでこう何もなくてつまらないデザインなんだかわからない。
どうしたらいいんだか今一わからないのでそのまま暫く進んでみると……
「その顔、その眼、その髪……薄々感付いてはいたけど、やはり貴女だったのね……!」
ふと声がした方に目をやると、一人の女が居た。
肌は小麦色、長い黒髪をドレッドヘアにしていて瞳は緑……耳が若干尖ってるし、種族は熱帯系のエルフと他の何かの混血だろうか。
薄紫色の、ワンピースだかドレスだかわからないけどシンプルな服を着てるけど……なんだろう、やっぱり全体的に印象が薄くて印象に残り辛いんだよね。
「またしても私の邪魔をして……貴女は何時もそうなのね。
そうやって私の行く手を妨げてばかり……全く腹立たしいわ……!」
しかもその上、如何にも"因縁の相手"っぽく話し掛けて来てるけど、残念ながらあたしはこの混血エルフを全く知らない。
……いや、全く知らないってワケじゃない。この女がなんて名前で、どういう立場なのかは一応見当がつくんだ。
だから、言ってやることにした。
「やあどうも、初めましてぇ~。もしかしなくても"センテニアル・スターズ"のトップ、アリアナ・チャペック様ですかァ?」
「……!?」
予想外の反応だったんだろう、チャペックは目を見開いて驚いている。けどあたしは尚も容赦なく、奴に告げてやるんだ。
「失礼、申し遅れました~。あたしはパルティータ・ピローペイン。
後天性のアンデッドこと"被呪不可殺者"で、便利屋をやってるしがない魔女で~っす。
いきなりで申し訳ないんですけど~、こっちも事情がありまして~名前だけでも憶えて……死んで下さいっ★」
さあ、ケリを付けようか。
次回、"センテニアル・スターズ"の首領チャペックが"願い星"をばら撒いた目的とは!?