第五十六話「元々カンスト気味だった奴らへの憎悪は、程なくインフレの領域に到達する」
実質祖国に等しい魔導国を救うべく奔走するも思うように成果が出ないパルティータ。
痺れを切らした彼女が考えた作戦とは……?
やっほー。読者のみんな、毎度本作を読んでくれてありがとね~。
今回も引き続きこのあたし、便利屋魔女のパルティータ・ピローペインがお送りするよ。
「――ナルホドね。"願いを叶える薬"の正式名称は"願い星"、か……。
如何にも"煌めく星"を意識したのが伝わって来るネーミングで……」
フィルミアーナ魔導国政直々の依頼で、同国を蝕む麻薬"願いを叶える薬"こと正式名称"願い星"をばら撒く傍迷惑な連中を追い始めて早二日。
その昔、麻薬で地獄を見た歴史がある国だから……っていうのが関係しているかはともかく調査は案外順調に進み、
"願い星"やそれをばら撒く組織の実態に至る迄、色んな情報があたしの元に集まりつつあった。
「……で、"夜空の虹"ってのは麻薬組織そのものの名前じゃなく"願い星"を無料でばら撒く実行部隊の名称、か」
名前に虹ってつくだけに、奴らは七つの部隊に分かれているらしい。
全体の指揮を執り巧みな話術で標的を洗脳する"賢者"。
攻撃的な振る舞いで標的を精神的に追い詰める"否定者"。
温和な態度で標的の心につけ入る"肯定者"。
無気力な振る舞いで標的を苛立たせ判断を鈍らせる"惰眠者"。
純真無垢を装って標的を油断させる"赤面者"。
事故に見せかけて標的を害し絶望に追い込む"媒介者"。
他部隊を護衛や裏工作で補助する"沈黙者"。
以上の七隊が互いに連携し合いながら動くのが"夜空の虹"。そして"夜空の虹"はじめ"願い星"を製造しばら撒く組織の名前が――
「――"センテニアル・スターズ"。意味は"百周年の星々"……」
名前から想像しうる可能性としちゃ、奴らはア連の起こした"煌めく星"事件に影響を受けた模倣犯で、同じように世界を滅茶苦茶にしたいが為に"願い星"の開発に取り掛かったってトコだろうか。
「で、今年になって漸く準備完了、いよいよ本格的に動き始めようとなった時、
丁度百年目だったから"百周年の星々"を名乗った……とか?」
我乍ら粗だらけでガバガバな考察だけど、動機や経緯が何であれ組織を壊滅させなきゃいけないのに変わりはない。
「とりあえず、なんとしてでも奴らを駆除しなきゃイカンのであって……然し乍ら実際、奴らの尻尾すら掴めてないのが現状ってんだからねェ~……」
こういう時は相手を入念かつ徹底的に調べ上げ、確実に居場所を突き止めた上で始末するのが定石だと思う。
けど連中は非営利の麻薬組織……下手に放置すれば被害はどんどん増えていく。
どうやら本件に関して動けるのは諸事情あってあたしだけのようだし、被害者を増やさない為には"何が合理的か"なんて考えてる余裕はそれほどない。
(警官、軍人、冒険者に魔術学院の学生や政府関係者……
魔導国の戦闘人員ってのはすこぶる優秀だし、支援は受けておきたかったけど……
ないもの強請りしたってしゃーないじゃんね)
それがどれほどの愚策かなんて想像するまでもないけど、少しの時間だって惜しいから……あたしは決意のまま行動を起こす。
「さあ、始めようかね……"屑星狩り"ってヤツをさぁッ!」
◆◆◆
「だから言ってんだろッ! このままじゃお前はもうお終ェなんだよッ!
だがこの"願い星"がありゃお前の願いは叶うんだ!」
「いやでも、そんなこといきなり言われても……」
「まあまあ、落ち着きましょうよ蒼井クンっ。申し訳ございませんわねお姉様?
この子、悪い子ではないのですけれど頭に血が上りやすくって~」
「は、はあ……」
場面は変わってアシカリイの繁華街。
路地裏でアカガエル型両生類人のお姉さんに詰め寄るのは、"センテニアル・スターズ"実働部隊"夜空の虹"所属の男女二人組。
種族はそれぞれ男がヤマアラシ型の齧歯類獣人で、女の方は概ね毒キノコ(多分ドクツルタケか何か)型の真菌人だった。
「でもお姉様ぁ? このままじゃ貴女の頑張り全部水の泡ですわよ?
ワタクシ思いますに、お姉様は歌声もお芝居も完璧ですわ! もし世が世なら素晴らしい大女優になれていたことでしょう!」
「そ、そうですか……? だったらその……」
言動からして蒼井とかいうヤマアラシ男は"否定者"、相方の毒キノコ女は"肯定者"の所属なんだろう。
半ば力任せかつ強引な連携で、見た感じ大人しそうなアカガエルのお姉さんを追い詰めている。
このまま放置すれば、彼女が無理矢理"願い星"の乱用者になってしまうのは必然だろう。
(勿論、そんな真似絶対にさせないけどね……)
「けれど今は貴女にとっては最悪の時代っ。それは残念ながらこの子が言った通りなのですわ」
「そうだぜ姉ちゃんっ! 俺ァあんたの為を想って――」
こういう相手は容赦なく徹底的にやるのが最適解……ってワケで、あたしは魔術を発動する。
「……"刺群釘"」
「――ぐぎゃああああああっ!?」
「ひいいっ!?」
「ぎゃあああああああっ! あっ、あっ、蒼井いいいいいいっ!?」
瞬間、ヤマアラシこと蒼井の身体に無数の釘が突き刺さる。
全身至る所から出血しながら苦しみ悶える蒼井……アカガエルのお姉さんは元より、毒キノコ女も思わず取り乱す。
「蒼井くんっ! 蒼井くんっっ! しっかりなさいよぉ!」
「ぐううあああっがあああああああっ! づああああああああっ!」
「待って、今っ、救急車をっ――ちょっとそこの貴女っ!」
「へっ!? わ、たし、ですかっ!?」
「そう貴女っ! 貴女も手伝いなさいなっ! ヒトが血ぃ流して倒れてるんですのよ!?」
「そ、そんな事言われてもっ、今その男性ッッ――
「ああ、いいよ別に。お姉さんはとっとと逃げな? こんな奴らなんか手伝う迄もないさぁ~」
「へっっ!?」
喚き散らす蒼井。キレ散らかす毒キノコ女。理不尽な八つ当たりを受けるアカガエルのお姉さん。
見るからに混沌としたその現場に、あたしは敢えて空気を読まず割って入る。
「ひっ! あっ、ああっ、ありがとう、ございますっ!」
「うん、夜道は危ないから気を付けてね~。くれぐれもこんな奴らの誘いに乗っちゃいけないよ☆」
てな感じでお姉さんを無事逃がした所で、あたしは"夜空の虹"メンバーの二人に向き直る。
「ちょっとアナタぁ!? 何してくれやがってやがりますのぉ!? 折角あちらのお姉様を救済して差し上げられる千載一遇の好機だったのn――
「――口噤」
「ッムグゥゥッ!?」
「――縛」
怒りの余り掴みかかって来た毒キノコ女の口を魔術で塞ぎ、序でに四肢の自由も奪っておく。
あとヤマアラシの蒼井にも最低限会話が成り立つレベルの治癒と鎮痛を施しておいて……これであたし考案の愚策"屑星狩り作戦"は準備完了だ。
その概要ってのはまあ、正直な話"作戦"と呼ぶのも烏滸がましいレベルの代物なんだけどね。
「さてさて、坊ちゃん嬢ちゃん? これからちょ~っとオバちゃんの愚行に付き合って貰えるね?
ルールは簡単、今からオバちゃんが出すクイズに答えてくだけ……」
要するに、街中で見つけた"夜空の虹"はじめ"センテニアル・スターズ"の関係者を手当たり次第襲撃しては、組織に関する情報を無理矢理吐かせてく……
本当にバカが考えそうな、程度の低い愚策だよ。
もっと冷静に動いた方が良かったんじゃないかとか、自分でも思うくらいだからね。
けど……
「成績次第じゃ景品があるかもしれないから頑張ってね~?
ただし、もし悪さをするようなら……そん時は死んで貰うから、そこんとこ含め宜しくね★」
そうでもしなきゃ気が収まらないくらい、あたしは奴らを憎んでたんだ。
次回、麻薬製造工場へ突撃!