第五十話「愛しの彼女と文字通り"夢の中へ"旅立とう……」
例によってこの話だけで終わらそうと思ってたんですけど
なんか長引きそうなのでまた五話とか十話とか続くと思います。
読者の皆様、毎度お世話になっております。
前回より引き続き、冒険者の財王龍こと七都巳大竜がお送り致します。
「ダイちゃんさ~、明日って暇?」
「明日ですか。ええ、今の所案件は入っておりませんが」
「そっかそっか。じゃあスケジュール空けといて貰える? ちょっと頼みたいことがあってさ~」
「畏まりました」
場面はヴェーノ市内のマンション。
ある晩ふとパル殿からそう告げられた自分は、言われるままスケジュール確保に動きました所……
『そうかぁ~ほないっそ向こう一週間くらい休暇取ったらええわ。オレが口利いといたるさかい、ガッツリ休んどきぃ』
「……よろしいのですか?」
『かまへんかまへん。
パルちゃんのお誘いっちゅうたら何がどうなるかわかったもんやないし、時間に余裕持たしとくに越した事はないやろ。
そもそも財くんここ最近働き詰めやったやん? 休ませとかんとウチとしても諸方から色々つつかれて面倒やねん。
あとは他所のギルドから案件盗るなー言うて言い掛かり付けられたりとか、そういう問題もあるしやな……』
「そうでしたか……では、お言葉に甘えさせて頂きます」
源元ギルド長のお心遣いにより、予想外に膨大な量の休日を抱けたので御座います。
そして時は経ち、翌日……
「やー、まさか一週間も空けてくれるとは驚いたよ」
「自分も予想外に御座いましたよ。して、本日の用件とは?」
「あぁうん。実は便利屋の仕事で、マルヴァレスのEVICENって企業から開発中のマシンがあるからテスターになってくれないかって仕事が来たんだよねぇ」
EVICENといえば、いつぞやの買い出しでパル殿に買って頂いた高性能PCの製造元としても知られる大手電子機器メーカーに御座いました。
「成る程、そのテストに自分も協力せよと」
「そそ、そゆこと。なにぶんカップル向けのマシンだから一人じゃ起動できなくてさー。
元は別件の打ち合わせで行ったんだけど、依頼主さんにダイちゃんのこと話したらトントン拍子に話が進んじゃってね」
「ほう……して、そのマシンとは一体?」
「あぁ待って、今出すから」
そう言ってパル殿が取り出されましたのは、ワイヤレスヘッドフォンの組み込まれたメカニカルな枕風の装置二つと、鮮やかなピンク色の錠剤かラムネ菓子らしき物体でした。
「これが件のマシン……その名も明晰夢制御装置"レムナビゲーター"のカップル用モデル"クダギツネ"さ」
「ほう……!」
「レムナビゲーターってのは要するに、夢の内容を任意で設定してその中を自由自在に動き回れるって代物でね。
中でも特にこのクダギツネはカップルに夢の中でデートさせようって想定で開発中されてるらしいんだ」
「成る程、それは実に興味深い……!」
聞けば夢の内容を設定後、装置に仰向けで頭を乗せヘッドフォン部分を耳に当て眠りに就くことで"夢の中"での活動が可能になるとの事でした。
「けど寝た所で睡眠の質が低かったり、そもそもレム睡眠に入れなかったら意味がない。そこで、寝る前にはこの薬を飲むといいらしいんだ」
そう言ってパル殿が差し出して来ましたのは、例のピンク色をした錠剤でした。
彼女曰くこの錠剤の名は"ドドドリーム"。EVICEN社と業務提携を結ぶ老舗製薬会社"カクカン製薬"謹製のレム睡眠導入剤であり、クダギツネを始めとする明晰夢制御装置との併用を前提に開発されたのだそうです。
「あとは夢の内容なんか決めたりするのに装置そのものの本体設定とかがあって、
そのへん本当は結構ややこしいみたいなんだけど、今回は試験運用ってことで色々デフォルトで設定して貰ってるから大丈夫みたい」
「と、仰有いますと……」
「要するに夢の内容はある程度背景設定とか筋書きが決まってて、そこから当事者の思考・行動に対応して幾らか変化・分岐する仕様になってるんだ。
概ね短編集仕立てで大体三から七種類ぐらいの夢が見れるんだってさ」
「ほうほう、それはまた……僅かに不安もありますが、概ね楽しみに御座いますなァ」
といった感じで寝床に装置"クダギツネ"を設置した我々は、錠剤"ドドドリーム"を服用し直ぐ様眠りに就いたので御座います。
(=甘= )<zzzzzz......
「――――…………」
眠りに就くこと暫し。
徐々に明瞭になっていく意識のままに瞼を開き身を起こしてみれば、自分は見知らぬ寝室で目覚めておりました。
(……ふむ。どうやら"明晰夢の世界"とやらに入り込めたようだな)
クダギツネとドドドリームのお陰なのか、自分は直ぐ様"これは明晰夢だ"と自覚できました。
「……内装や調度品が明らかに上物だ。
つまりこの寝室を擁する建物はそれなりの豪邸で、自分は相応の地位に在るのか……?」
この世界での自分の"設定"を理解すべく思考を巡らせ乍ら寝床を出ます。
カーテン越しに暖かい日差しの差し込む窓辺……その向こうにもまた"自分の設定"へのヒントがある筈と考えた自分は、ゆっくりとカーテンを開きます。
「……なんということだ。これは一体、どうなっている……」
暖かな日差しの差し込む窓の向こうに広がっていたのは、公営の観光施設と見紛う程豪華かつ見事に整えられた広大な庭園に御座いました。
「資産価値はどう見積もっても億は下らんだろう……一体この世界の自分は何者なのだ……?」
次回、夢の世界での大竜の設定とは!?
そしてパルティータとは合流できるのか!?