第四十九話「聞けばホビージャパンが世界に誇る名シリーズ『クイーンズブレイド』では部位破壊ができるらしいが、大体こんな感じであろうか」
さて、残るは一人……!
読者の皆様、毎度お世話になっております。
前回より引き続き冒険者の財王龍こと七都巳大竜がお送り致します。
「……ふん。所詮男などこの程度か」
(なんだ、まだ居たのか。てっきり逃げたと思っていたが……面倒な)
舞台は相も変わらず貧民街ソクコンシに建つ廃ビルの一室。
自分への逆恨みを拗らせた"自称・被害者"の廃棄物から成る愚連隊"怒羅厳棲麗屋亜"の面々を即席の冷凍睡眠にて殺さず黙らせ、さあこれにて一件落着と安堵した所……
愚連隊"アクメージョス"の生き残り、首領の護衛であった竜人がその場に堂々と姿を現したので御座います。
(……戦う他、あるまいなァ)
[GOOD JOB.THAT'S A FEAT]
精神汚染の進行を防ぐべく変身を解除しながら、自分は思案します。
(姿を隠していたのはあの廃棄物どもを嗾け、反撃を受けず確実に自分を始末しようとした為か。
……徹頭徹尾男を見下している癖に結局男に依存しきっているとはいよいよ滑稽だが、
とは言えあれでも恐らくそこそこの手練れ……断じて油断はできまいな)
ドイツの諺に曰く『傲慢は転落の前に来る』との事で、なればこそ如何なる相手であろうと慢心せず、細心の注意を払った上で相手取るに越したことはありません。
「……なんだお主? おもむろに変身を解除しおって……さては某が女であるが故、手心を加えようというのだなァ?」
対する女剣士の口から出たのはどうにも的外れな発言でした。
「いつもそうだ……お主ら男はっ、根本的に女の足元にも及ばぬ下賤で下等な存在の癖にっ!
所詮我ら女が社会を支え回して生み出した利益を貪らねば生きられぬ塵虫の癖にっ!
そうして社会を支配した気になって、強者ぶって女を見下し、傲慢に振る舞いおる!
その情けこそ、社会の主役として本来あるべき姿に戻らんとする某ら女への妨げであると、弱者扱いを善しとせぬ某ら強き女への冒涜であると何故気付かんのだぁ!?」
勝手に癇癪を起こし荒れ狂う女剣士……
竜人は元来武闘派として知られる反面気性の激しさに於いても悪名高い種族ですが、それにしてもここまで荒れ狂うのは異常と言う他ありません。
「そして俗世の大多数を占める腑抜けた女ども、奴らも同罪だ! 何故男なんぞに付き従い生きる現状を甘んじて受け入れている!?
何故女としての誇りを捨てこの腐り切った社会に抗おうとせん!?
男女平等などという正気を欠いた社会の癌たる思想に身を任せ、本来あるべき女によって支配される社会を実現すべきとの野心を捨ててまで繋ぐ命に、何の価値があるというのだぁ!?」
所謂これが転換症状という奴でしょうか、極端な思想をぶちまけながら喚き散らす女剣士の姿は見るに堪えず……
「救えんな」
結果出たのは、至極シンプルな一言。
この程度の、名前を知る値打ちすら見出せない木っ端風情には、凝った言葉をかける手間すら勿体無う御座います。
「……!!?? お主、今何と言ったぁ……!?
『貴様は救いようがない程に愚かで哀れでどうしようもない屑だ。
やはり女に自主性や野心など不要、女とはあくまで男に付き従う傀儡であり社会の歯車程度が相応しい』と、
そう聞こえたぞぉ!?」
「……言っとらんわ。
愚かだ哀れだ、女の社会的地位云々だ、それら全て、貴様が勝手に言ったに過ぎん」
「黙れェッ!」
刀を抜き払った女剣士は、乱雑に鞘を投げ捨て切っ先を此方へ向けて来ます。
どうやら本格的に話が通じない相手のようで……。
「……そうだ。それでいい。
女が男に全てで優ると証明したいなら、自分一人でも殺して武力で証明すれば済む話であろう……」
「黙れ、この殺人鬼が……! お主なんぞ最早ヒトではない……!
殺してやる……!
我が安住の地を奪ったお主など……! 我が心の友らを、我が魂の主を殺したお主など……!
あの時お主がそうしたように、徹底的に蹂躙して殺してやる……!
壊して殺して、塵虫も集らぬ塵に変えてやるぁァァッ!」
震えながら吼える女剣士……
双眸は血走り、全身の筋肉は隆起し、ガチガチと歯が打ち鳴らされる度に火花が散り、
火炎ブレスの予兆なのか口元からは黒煙が上り……今にも爆発寸前といった所で御座いましょう。
そんな奴めに対し、自分は言葉をかけてやります。
「何だか知らんが怒るなよ。血圧が上がると身体に毒だぞ」
「――――◆▲●×※@)Д≪$###!!!!」
その言葉を聞いた途端、女剣士の怒りは盛大に爆発……
文字に起こすのも億劫になるような金切声を上げ、手にした刀を振り回しながら我武者羅に突撃してきます。
「芸がないな……今迄見たどんな男より哀れで無様だ」
「ヴウアアアラアアアアアアアアアアアア!」
零した戯言が運悪く耳に入ったか……
真偽は不明ですが兎も角怒り狂った様子の奴めは、尚も自分への敵意や殺意を隠しもせず向かって来ます。
その様子は宛ら平成特撮の単なる噛ませに終わる怪獣や怪人のようで、愚連隊の首領に仕える美しき護衛剣士の面影など微塵も残されてはおりません。
「ラアアアゴラアアアアアアア!」
「らァッ!」
「ゴエッ!?」
振り下ろされる刀を躱しつつ奴の腹を殴りつければ、肋骨の二、三本ほどを粉砕しながら盛大に吹き飛びます。
これで正気に戻って逃げ出してくれれば御の字でしたが……
「グッ! ウウアアアッ! ガアアアアアア!」
「しつこいなぁ……鬱陶しいぞッ!」
「グブエェーッ!?」
尚も向かって来るものですから、思い切って顔面に膝蹴りを叩き込んでやります。
鼻っ柱はひしゃげ、歯も幾らか折れたようですが、それでも奴は諦めません。
「……面構えが内面に近付いて来たようだな。いいだろう。そのまま再起不能にしてくれようぞ!」
「ヅアアアダアアアアアア!」
その後程なく奴は刀を投げ捨て、徒手空拳でのどつき合いに突入します。
「ガアアア! グアアアア! グガアアア! クソガアアアア!」
「どれも、当たらんわッ! 内臓破裂しておけェ!」
「グエアゲエエエエッ!?」
名も知らぬ愚連隊くずれの竜人……本来ならそこまで苦戦する相手でも無かったのでしょうが
何分"殺してはならぬ"との条件が足を引りでもしたのでしょう、結果的に一時間近くもの間戦い続けるハメになり……
「ケぉらイッ!」
「グヒイーッ!?」
「てぁらああっ!」
「ガギャアアッッ!?」
「はあっ……ふはあっ……! どうだ、阿婆擦れが……!
角をへし折り、尻尾も叩き斬ってやったぞ……! 頭と腰回りがっ、スッキリしたんじゃないのかぁ!?」
互いに一歩も譲らぬ激闘の末、奴の両角を叩き折り尾の三分の一程を切断することに成功。
「アガ、ギイイッ……ぐ、ううっ……! バカな……男風情が……男風情がああっ!
覚えておれ、財王龍! この借りは何時か必ず返してやるからなっ!」
「なっ、待てっっ!」
流石に危機を悟ったらしい奴めは結局、折れた角や斬られた尾、更には投げ捨てた刀さえも放り出してその場から逃げ出してしまいました。
「命惜しさに刀を投げだす剣士がどこにいる……よくそれで男を見下せたものだなァ。
江夏才蔵でもそこまで無様ではなかったぞ」
ともあれ、撃退に成功したのは紛れもない事実に御座います。
「もう遅くなってしまったし、帰るとするか。……こいつは一応、貰って行くとしよう」
その場に残された竜人剣士の角と尾、そして刀を回収した自分は、足早に廃ビルを後にしたので御座います。
次回……まだ何も決まってないけど何かしらやります!
っていうか、明日の夕方ごろには更新できるように頑張ります!