第四十八話「『それって別の形態で良くない?』は禁句である」
弩羅厳棲麗屋亜をぶっ潰すのに使うのは、あの力!
「「「「「「「「「「財王龍! 俺たちは貴様を絶対に許さない!」」」」」」」」」」
「そう言われてもな。結局は貴様らの自業自得であろうに」
読者の皆様、毎度大変お世話になっております。
前回より引き続き、冒険者の財王龍こと七都巳大竜がお送り致します。
舞台は相も変わらず貧民街ソクコンシに建つ廃ビルの一室。
自分の周囲を取り囲むは愚連隊"怒羅厳棲麗屋亜"の面々……
『財王龍被害者の会』を自称する連中の実態は、然しその実身から出た錆で自滅した責任を此方へ転嫁してくるだけの、箸にも棒にも掛からぬただの逆恨み集団なので御座いました。
「うるせぇーっ! そんなワケあるかぁ!」
「そうだ! それもこれも全部お前のせいだ!」
「言い逃れしてんじゃねぇ!」
「責任取れー!」
「謝罪しろー!」
「俺たちのママを返せー!」
「ばぶばぶさせろー!」
数の利に気が大きくなり調子付いたか、"自称・被害者ら"もとい"逆恨みを拗らせた廃棄物"どもは口々に騒ぎ立てますが……
最早『だからどうした』と返す気すら起きませんでした。
(……案件外での殺人は可能な限り控えた方がよい、とは平素よりパル殿や源元ギルド長からも言いつけられておるし……ここは極力穏便に済ませた方がよいのだろうな)
とは言え、この廃棄物群と交渉する気など毛頭御座いません。
何せこの連中は実質"生命体の如く振る舞う廃棄物"……対話を試みること自体、賢明な選択とは言い難いでしょうから。
(とは言え音を出し動き回る以上、放置しておけば害を為すのは必然……
自ら逃げずに首を突っ込んだ手前自分にも幾らか責任はある故、どうにか殺さずにして再起不能へ追い込まねば……)
[SIN'S DRIVER!!]
咄嗟に思考を巡らせ、ドライバーを起動します。
「いざ、顕現……」
[KEN-GEN!! INCARNATE LAZY DRAGON!!]
『我が罪悪、我が惰性、我が極冷……即ち罪竜、凍て付く怠惰……』
白い光を伴う白煙に包まれ乍ら変身致しましたのは、
太古の大樹懶に蝸牛の形質を混ぜ不死鳥の如き大ぶりな翼を生やした、重厚にして鈍重なる風貌の白い異形……
怠惰の罪を宿す形態"凍て付く怠惰"に御座います。
「ウワアアアアアア!?」
「なんじゃあこりゃあーっ!?」
「しょ、召喚術かっ!?」
「いや違う! 変身だ! この野郎、化け物に変身しやがったんだ!」
「そうか、これが噂に聞く悪名高いあの……!」
「化け物に変身するとは聞いてたが、まさかマジだったってのかよっ……!?」
「しかもなんだアレ、あんな姿見たことないぞ!?」
「おっ、落ち着け怯むな! 化け物に変身したからなんだ、こういう事態も想定して近場の不良どもに集めさせた武器があるじゃないか!」
「おっと、そうだったぜ! どうやら交渉の余地はないようだし、いっそここで殺しちまおうぜ!」
「そうだな! よく見りゃあの化け物そこまで強くなさそうだし、この際やっちまうか!」
「冒険者の財王龍を殺したってなりゃ泊もつきそうだしなァ!」
(……愚かな。斯様な連中も殺さず仕留めねばならんとは、なんともはや面倒ではないか……!)
調子付いた廃棄物どもは変身した自分を弱いと勝手に決めつけ、一斉に武器を構え四方八方より雨霰の如く銃弾を浴びせて来ました。
照準は出鱈目、武器も殆どは安物の玩具を改造した紛い物とは言え、数が数なだけに常人ならば一溜りも無かったでしょう。
(効かぬわ……其の様な、胡麻散弾や豆鉄砲、団栗小銃なんぞっ……!)
無論、今の自分にしてみればその程度の攻撃、然したる脅威となり得ぬのは言う迄もありません。
「クソッ! どういうことだ!?」
「弾がっっ! 通らねぇっっっっ!?」
何を隠そうこの凍て付く怠惰、シンズドライバーによる形態七種の内でも特に防御性能が高い形態なので御座います。
同じく防御性能の高い形態としては底無しの貪食がありますが、
あちらが堅牢な外骨格で敵の攻撃を寄せ付けないのに対し、此方は柔軟な皮膚や分厚い毛皮で衝撃を緩和、体表を滴る粘液で斬撃をも受け流す……
言うなれば"柔よく剛を制す"ようにして敵の攻撃を打ち消してしまえるので御座います。
(もし仮に傷を負うような事態に陥ったとして、回復力も比較的高くなっておる故然して問題ではない!)
「うおおおおおおお! 諦めんなあああああっ!」
「俺たちの怒りをぶつけるんだああああああ!」
「正義は必ず勝ああああああああつ!」
然し当然その事実を知らぬ怒羅厳棲麗屋亜の廃棄物どもは尚も銃を乱射し続け……結果、程なく全ての弾薬を使い果たしてしまいました。
「なっ!? しまった! 弾切れだ!」
「ヤバイヤバイヤバイ!」
「予備の弾は!?」
「あぁん!? ねぇよそんなもん!」
「じゃあどうすんだよ!」
「接近戦しかねーだろ! 袋叩きだ!」
「よっしゃ行くぞぉぉぉぉ!」
「「「「「「「うおおおおおおおおおああああ!!!!」」」」」」」
それでも自分への敵意に囚われた連中は、あくまで自分を抹殺せんと武器を手に向かって来ます。
『……愚かな』
無論、その隙を突かない理由などありません。
身を起こした自分は、迫り来る廃棄物ども目掛けて固有能力を発動します。
『貴様らはまだ"生かしておいて"やる……ただ、これ以上面倒を起こすような真似は許さんッッ……』
白く燃え盛る不死鳥の如き大ぶりな翼を広げ、
ぐわん、と大きく羽搏かせれば、迸る冷気は波紋の如く拡散され……
「ぐあっ!?」
「なっ、なんだ……!?」
「からだ、が……うご、か……」
「さ、さむ……い……」
「……いし、きが……」
「……ね、むう……」
「……ぅ、ぁぁ……」
"それ"に触れた連中は、忽ち霜に塗れて動かなくなり、昏睡状態のまま倒れ込みます。
『……案ずるな。殺してはおらん。ただ少し、眠らせただけのこと……』
これぞ凍り付く怠惰の持つ冷気操作の力を応用した、ある種の冷凍睡眠による疑似的な麻酔攻撃に御座います。
(さて、これにて一先ず一件落着か……)
少なくとも愚連隊"怒羅厳棲麗屋亜"はほぼ壊滅状態……
あとは諸方に連絡し身柄を引き渡せば万事解決であろうと考えた自分は、安堵の余り高を括っておりましたが……
「……ふん。所詮男などこの程度か」
実の所、全ての問題が解決したわけでもなかったので御座います……。
次回、忘れられてたあいつが牙を剥く!