第四十六話「知らない顔ばかりだと思ったらまさか過ぎる相手が居た……お前生きていたのか」
果たして有留刃三兄弟を操ってまで大竜を捜していた勢力とは!?
貧民街"ソクコンシ"に建つ廃ビルの一室。
相対するは、どうやら自分への憎悪を募らせているらしい若い男たち。
「よく来たな、財王龍!」
「ここで会ったが一億年目、絶対逃がさねぇからな!」
「「「「「「覚悟しやがれぇ!!!」」」」」」
「……誰だ貴様ら」
読者の皆様、毎度大変お世話になっております。
前回より引き続き、冒険者の財王龍こと七都巳大竜がお送り致します
(あの兄弟を操っていた辺り一般人ではないのだろうが、といって連中の顔も名前も覚えていない以上、具体的な心当たりもない……)
前回ラスト以後、不良の有留刃三兄弟を問い詰めた自分めが知り得ましたのは、かの兄弟もまた案の定"さる集団"に指示されるまま動いていた"単なる使い走り"に過ぎなかった事実に御座いました。
兄弟曰くその集団の名は"怒羅厳棲麗屋亜"。
ごく最近になり唐突に発生、急激に規模を拡大しながら界隈を制圧しつつある新参の愚連隊に御座います。
新しい組織であるが故に殆ど謎だらけの怒羅厳棲麗屋亜ですが、ただ一つ明らかになっている特徴があるそうで……
その特徴こそ『構成員がビットランスの冒険者、財王龍を探し回っているらしい』点なのでした。
果たして連中が何故財王龍を探し回っているのかは依然不明のままです。
金のために仕事を受けた有留刃の三兄弟も『とにかくヤツを連れて来い』と言われただけで詳しい理由は聞かされて居ないのだとか。
……ともすれば、自分自ら怒羅厳棲麗屋亜の元へ出向き連中を問い質す他ないでしょう。
得体の知れない愚連隊、それも付き纏いの如く自分を探し回る連中など放置していれば何を仕出かすかわかったものではありません。
実際地球でVtuberをしていた頃の自分は"その手の連中"への対処が不十分であった為にとんでもない目に遭わされたわけですから……。
というわけで三兄弟に命じて怒羅厳棲麗屋亜との面会予約を取らせた自分は、
待ち合わせ場所である貧民街"ソクコンシ"の廃ビルへ向かい連中と対面、今に至るので御座いますが……いざ対面した際、思いがけない問題が勃発してしまいました。
「よく来たな、財王龍!」
「ここで会ったが一億年目、絶対逃がさねぇからな!」
「「「「「「覚悟しやがれぇ!!!」」」」」」
「……誰だ貴様ら」
自分が連中へ放った台詞から概ね察して頂けるかと思いますが、その場に居合わせた怒羅厳棲麗屋亜の面々……
大半は凡そ十代から二十代の男どもなのですが、連中の内に、見知った顔の者が見受けられないので御座います。
当然、その台詞を聞いた連中が黙っているわけもなく……
「なんだテメェ!? 俺らを忘れたってのか!?」
「ふざけるな! お前のせいで我々は地獄を見たんだぞ!」
「そうだそうだ! 僕らの幸福な日々を奪い去りやがって!」
「逃げるな卑怯者! 逃げるなァ!」
(……どういうことだ)
『一度あったことは忘れないものさ、思い出せないだけで』
嘗て宮崎吾郎が監督を務める以前、栄華を極めていた頃のスタジオジブリが手掛け世界的大ヒットを記録した伝説的長編アニメーション邦画『千と千尋の神隠し』にある数多い名言の一つです。
この名言と、そして連中の発言内容が事実であるならば、自分は間違いなく、怒羅厳棲麗屋亜の面々との間に何かしらの明確な接点がある筈なのですが……
「ああ……すまぬ。煽ったわけではないのだ。なんというか、自分は昔から抜けている所があってな。
どうにも貴様らに関する事柄が頭から抜け落ちてしまっておるらしい……
差し支えなければ、説明しては貰えないだろうか。その……自分の犯した、罪とやらについて」
相手はたかが愚連隊ですが、されど自分を血眼になって捜し回っていた辺り、虚偽の主張をしているとは到底考え難く……なればこそ、真実を確かめねばなりますまい。
「なんだぁてめぇ!? 本気で忘れちまったのかぁ!?」
「あんだけ派手にやっといてなんで忘れんだよオメー!?」
「ふざけるな! てめー頭ナンヨウハギかコラァ!?」
「逃げるな卑怯者! 逃げるなァ!」
その後、不本意乍ら下手に出て迄事情を説明し説得すること十五分弱……怒羅厳棲麗屋亜の面々をどうにか宥めることに成功しました。
そして連中の代表者として出て来たのは、首にギプスを付けた竜人と思しき剣士風の女……
(此奴、どこかで見た覚えがあるぞ……?)
角と翼、尾と鱗を生やした比較的人間に近い見た目の其奴は、確かに見覚えが御座いました。
「久しいな、財王龍。お主の素顔は初めて見るが……思った通りだ。
無駄に整いこそすれ、性根の腐り様が人相に出ておるわ。
眼を見れば判る……死刑しかない大罪人のそれだ」
「……無礼者がァ。開口一番他人様の面を見ては、性根が腐っているだの大罪人の眼だのと言いたい放題言いおって。
礼儀作法を学ぶ気すら無かったのか、どうにも救えんなァ。
腹を痛め懐と神経を擦り減らして迄貴様を産み育てた御両親には同情してもし切れぬわ」
勝ち誇ったように言い放つ女剣士に悪意二割増しで言い返してやれば、竜人特有の直情的な性根がそうさせるのでしょうか、忽ち奴の顔は怒りに染まって行きます。
「言わせておけば……!」
「そもそもそれ以前に、誰だ貴様ァ? まるで何処かで出会ったような口ぶりだが……?」
「お主ィ……よもや某を忘れたなどと言うまいな!?」
「言わんさ。ただ、どうにも思い出せんがなァ」
というのは当然奴を煽る為の出任せであり、実際はほぼ十割方思い出せておりました。
「……それを忘れたと言うのだろうがっ! 全く、記憶力さえ犠牲にしてまで女に勝ちたがるとはいよいよどうしようもない下等生物め! お主の親こそ同情してもしきれんわ!」
この徹底的に男を見下した言動……最早断言してよいでしょう。
此奴はかの愚連隊アクメージョスの幹部格……同組織首領の護衛を努めていた女怪人の剣士に他なりません。
よもやあの状態から生き長らえたとは些か驚愕ですが……
察するに共和国政府により保護された後、司法取引で組織の情報を売り渡すなり、弁護士の指示で一芝居打ち裁判員の同情を誘うなりして、実質無罪放免級の減刑を勝ち取ったのでしょう。
そうなりますと、自ずとこの場に集う者達の正体にも見当がついてくる訳で御座いますが……
「ならば記憶力が庭程度しかないお主に教えてやろう! 今この場にの集いし我ら怒羅厳棲麗屋亜はなぁ財王龍ッッ!
お主の案件遂行と称した数多の悪事により不幸な目に遭わされた、被害者たちの集まりなのだっ!」
次回、怒羅厳棲麗屋亜の面々が大竜から受けた被害とは!?