第四十五話「全く誰だ。不良なんぞ使って自分なんぞをつけ狙うもの好きは……」
柄にもなく青春ドラマっぽいことを言う大竜。
ほんと言い分そのものはガバガバもいいとこなんですけど、
末木は元々バカでかつ追い詰められてるので雰囲気で納得しちゃってますね。
っていうかまあ、腹を括るしか選択肢がないわけですが
「末木……貴様さては寝惚けておるのか?
それとも酒が抜けとらんのか? いかんなあ。選挙権も持たぬ歳で飲酒など……
酒は百薬の長なれど、毒薬劇薬爆薬火薬も百薬の内ぞ?」
「な、なにを……」
読者の皆様、平素より大変お世話になっております。
前回より引き続き、冒険者の財王龍こと七都巳大竜がお送り致します。
「……流石にわからんか。ならば言い方を変えよう。
末木。貴様は空く迄も有留刃兄弟を恐れ、奴ら風情に平伏し、誇りもなくただ強者に付き従い使い潰されるだけの、半端者の傀儡として生き続ける気か?」
「そ、それは……」
「穢れ荒んだ環境で雑に扱われ、不当な差別や迫害を受け、不寛容な社会に受け入れられず、真っ当な生き方を見失って尚、
折れず朽ちぬ反骨の精神と"秩序"や"大義"への憎悪、悪としての誇りを支えとし、欲望と衝動の赴くまま何にも囚われず"身勝手に生きる"……
貴様ら不良とは、其の様な種ではないのか」
如何にもそれらしい講釈を垂れ流しましたが、概ね単なる即興であり発言内容は総じて適当に御座います。
「っっ……そんなもん、てめえの勝手な思い込みだろうがっ!
てめえの空想こっちに押し付けんじゃねぇっ! 俺らぁそんな高尚なモンじゃねぇんだよ!
世の中にはできることとできねーごとがあるんだっ!
そりゃてめえはなんでもやろうと思えばできる奴なんだろうさ! けど俺は違うんだ! てめえみてーに強くねぇんだよ!
所詮世間のはみ出し者、道を踏み外した社会のゴミに過ぎねぇんだっっ! 有留刃先輩みてーな強ぇ奴に逆らうなんて、できるわけねぇだろっ!」
末木の悲痛な叫び……それが単なる諦観でないのは火を見るよりも明らかでした。
「……末木。もし貴様が有留刃兄弟へ抵抗するならば、自分は喜んで手を貸そう。
だが逆に、自分を奴らに売り渡し、空く迄も奴らの側につくのならば……」
「な、なんだよっっ……?」
「有留刃とかいう粗大生ゴミども諸共、貴様ら全員一人残らず処分してやるからそう思え……!」
睨み付け乍ら圧をかけます。
並みの俗物ならば縮み上がり会話もままならぬかと思いますが……
「……ああ、わかったよ。やってやる。やってやろうじゃねぇかよ!」
奴はどうやら"並みの俗物"ではなかったようでした。
「すっ、末木クンっ! 正気かよぉ!?」
「有留刃先輩に逆らうなんて自殺行為じゃねーか!」
「そ、そうだよ! そいつの脅しにビビって頭バグっちまったのかあ!?」
「おっ、俺はイヤだからなっ!? 巻き添え食らうなんて御免だぜっ!」
ただ、他の連中は末木ほど"出来た不良"ではありませんでした。
そんな仲間たちの有り様を見た末木はというと……
「……安心しろ、オメーらは巻き込まねぇ。なあ財、それでいいだろ?」
「仕方無いな。戦術上、脇を固めるならば人員が多いに越したことはないが……
貴様の覚悟に免じて大目に見ようではないか」
或いはここで無理にでも声をかければある程度は付き従ったかもしれませんが、
末木ほどの覚悟も持ち合わせぬならば果たして役立つかは微妙な所ですので……
(=甘= )<「真の敵は無能な味方」とはよく言ったものです。
そして時は経ちその日の晩……町外れの廃屋にて。
「ぅっぐ、ぁが……」
「っだぁ、こいつ……」
「い、でえ……いでえっ……!」
"有留刃三兄弟"。
近隣界隈の不良ら曰く『断じて関わってはならぬ危険人物』であるらしい破落戸ども。
末木曰くその恐ろしさは『名を聞くだけで大抵の不良は震え上がり、警官も二の足を踏み、極道さえ一目置く程』だそうで……
ともすれば自分をも幾らか手古摺らせる程の武闘派なのではと、ある種の期待にも近い懸念を抱き乍ら相対したわけで御座いますが……
「口程にもないな、有留刃三兄弟。
如何に『関わりを持つべからず』と危険視されたとて、所詮は街の破落戸……格下を痛め付け調子付くだけの悪童に過ぎんか」
蓋を開けてみればこの通り。
"勝負が成り立つ程の相手"とは世辞にも言い難く……過去の例で言えば、精々愚連隊"アクメージョス"の女怪人と同程度か、連中を若干上回る程度でしょうか。
「す、すげえっ……! あの有留刃三兄弟を、一瞬でノしちまうなんてっっ……!」
「……」
同行させた末木は、何やら大層驚いている様子で……
あたかも世界有数の曲芸師が見せる奇跡の絶技を目の当たりにしたような反応ですが、そこまで大したことをした自覚など到底自分には御座いません。
「……末木、捕まっていた友はどうした?」
「ああ、明里か? 大丈夫だ。救急車呼んで病院に搬送して貰ったからよ」
「ならば貴様も後を追うべきだ。曲りなりにも友ならば、側に居てやれば励みにもなろう」
「それもそうだが、そいつらはどうするんだ?」
「さてな、知らんよ。……まあ、適当に情報を吐かせてから……
後の処遇は知り合いの筋に任せるつもりだがな。
少なくとも貴様らは今後、この連中に怯える必要など無くなろう。安心して暮らせ」
「……わかった。有り難うよ、こんな俺らを助けてくれて」
「礼には及ばん。ただ此奴らに興味が湧いたが為、首を突っ込んだだけのことよ……。
それより明里だ。奴の元へ向かってやれ。
……この連中に何をされたか知らんが、奴はかなりの重傷であった。
命に別状はないにせよ、凄まじい恐怖と絶望を味わったのは想像に難くない。
心の支えが多いに越したことはあるまい……」
「それもそうだな……じゃあ、有留刃のことは任せたぞっ」
足早に立ち去る末木を尻目に、自分は倒れ伏したまま動かぬ有留刃三兄弟に向き直ります。
「さて悪童ども、自分からの質問に答えて貰おうか。
拒否権はない。反抗したり出鱈目を言おうものなら、その時点で殺してやるからそう思え?」
次回、有留刃三兄弟に命令を出していた黒幕と接触!