第四十四話「寄り道で不良の喧嘩に首を突っ込むことになりました」
順風満帆にクエストをこなしていく大竜だったが……
読者の皆様、毎度お世話になっております。
前回に引き続き、冒険者の財王龍こと七都巳大竜がお送り致します。
時刻はさる日の昼下がり。
舞台は大都市ヴェーノの繁華街エトラビスにて……
「死ぬ気で来いッッ! 最初の一人は、必ず殺す……!」
――――「「「「「「「っっ……!」」」」」」」――――
集団で襲い来る破落戸見習どもを睨み付け、ナイフと拳銃を手に啖呵を切ります……。
「……どうした? 掛かって来んのか?
それだけの頭数を揃えた癖に、たかが新米の冒険者一人に臆するか……?」
何故このような状況に陥ったのか……事の起こりはなんともはや、実に唐突に御座いました。
(◎甘◎;)<というか此奴らの襲ってきた理由からしてまた……
「いやはや助かりましたよ財殿ぉ~! 貴殿こそはまさしく我が街を救って下さった英雄でありますっ!」
「いえ、自分は冒険者として案件を遂行した迄ですので……」
来る天瑞獣の住処を巡る旅に向けて、自分めはその後も様々な案件を受領・遂行し続けておりました。
盗賊団や愚連隊の駆除から猛獣や怪物の討伐から要人警護や高級食材たる生物の採取・捕獲など、その依頼内容は多岐に渡ります。
当然苦戦を強いられたことも多々ありましたが、とは言え報酬は相応の額が支払われ、各地での経験も積めるのですから何れの案件にも不満はなく……
或いは自分めは、順風満帆と言えたのかもしれません。
そうして案件をこなし続けていたある日の昼下がり。
ギルド『丸致場亜主』総本山にて次なる仕事の打ち合わせを終え、パル殿の待つマンションへ戻ろうとしていた時でした。
「オラァ、財王龍!」
唐突に名を呼ばれ、止せばいいのに反射的に振り向けば……
そこには武装したガラの悪そうな破落戸どもの大群が。
数は凡そ数十から百余り、歳の頃は概ね十代中盤程度の小童ども……。
下品に着崩し雑に飾り立てた学生服からして、所謂不良の類でしょう。
「……なんだ貴様ら」
思わず口から出た問い掛け。然し……
「死ねやァッ!」
先頭に立つ小僧――種族は恐らく犬獣人――からまともな返答は来ず、ただ凶器を振り上げ威嚇するばかり。
ならば此方も相応の対応をせねばなりますまい。
即ち……
「死ぬ気で来いッッ! 最初の一人は、必ず殺す……!」
本話冒頭のこの台詞に御座います。
――――「「「「「「「っっ……!」」」」」」」――――
気迫に気圧されたか、或いは我が台詞の意図を悟ったか、ともあれ不良の小童どもは襲撃を躊躇い黙り込みます。
「……どうした? 掛かって来んのか?
それだけの頭数を揃えた癖に、たかが新米の冒険者一人に臆するか……?」
試しに挑発してみますが、効果はなく……恐らく自分の言葉通り臆したのでしょうが、
然しそれでいて尚、誰一人逃げる素振りを見せないのは不自然に御座います。
「っ……! くっっ……!」
特に先頭を張る犬獣人の小僧……
その眼は追い詰められ後が無くなり"已む無く動いている"者に特有のそれであり、何かしらの事情を抱えているであろう事実は想像に難くありません。
そして……
「……聞いてくれ、財 王龍ッ!」
「なんだ、小僧」
腹の底から絞り出された渾身の叫び……拾ってやるのが年長者の努めに御座いましょう。
「俺ぁヴェーノ西高の末木ってモンだ!
実は今、ダチの明里が地元のヤベェ先輩たちに拉致られちまって、明日までに百万用意しなきゃ殺されちまうんだ!」
「……自分は冒険者であって、金貸しではない。金の無心ならば他を当たれ」
「ちげぇっ! 話はまだ終わってねぇっ!」
「……」
「……当然、俺らみてーなガキに百万なんて金作れっこねぇ! だから俺は先輩に他の案で妥協して貰えねーかと頼み込んだ……!
そうしたら財、あんたの身柄を要求してきたんだ!
先輩がなんであんたを欲しがってるのかは知らねーが、とにかく俺らには選択肢がねぇ!
だから頼む! この通りだ! 人助けと思って俺らと一緒に来て欲しいっ!
でなきゃ明里は殺されちまうし、何れは俺らも……!」
つまらぬ誇りを捨て五体投地してまでの懇願……ただその文言たるやまさに支離滅裂。
『総て貴様の都合であろう、斯様な頼みなど誰が聞き入れるものか』と一蹴するのが普通の対応でしょう。
「……呆れた奴だな」
然し自分めは、敢えてその願いを拾い上げてやることにしました。
「末木、顔を上げい。
如何に仲間の為とは言え、不良たるものが軽々しく五体投地などするもんではなかろう」
「……っ!」
「本来ならば一蹴してやる所だが……面白い。貴様の頼みとやら、聞き入れてやらんこともない」
「……い、いいのかっ!? 俺ぁあんたに、死んでくれって言ってるようなもんなんだぞっ!?」
面を上げた末木の表情たるや、まさに"半信半疑"と顔面全域へ書いてあるかのようでした。
「勘違いしてくれるな。
あくまで主目的は件の先輩連中とやらの顔を拝み、其奴らに生き地獄を味わわせてやることだ。
どうやら本件、単なる不良同士の諍いに留まらぬ何かが裏に在るようだからな……」
自分がそう口にした途端、末木の背後で黙り込んでいた小童どもが急にざわめき始めます。
「なっ、なんだって……!?」
「い、生き地獄を見せる……!?」
「有留刃三兄弟に逆らうってか!?」
「やべぇよ……あいつやべぇって……!」
「正気じゃねーだろ……」
「無理だ……幾ら何でもそんな……」
「どうした? 何を其処迄恐れる……? 如何に凶悪とは言え飽く迄も不良であろうに」
「……財さんよぉ、あんたは奴らを知らないからそう言えるんだぜ。
有留刃三兄弟つったら、この界隈で絶対に関わっちゃなんねーやべぇ奴らさ……兄弟揃ってとんでもねーが、特に三男の三毛造がイッチャンヤベェ。
少しでも機嫌を損ねたら最後、骨の髄までズタズタにされちまうんだっっ……!」
有留刃などという名は正直聞いたこともありませんでしたが、末木ら不良どもの様子を見るにかなりの危険人物にして異常者なのは想像に難くありません。
(危険人物の不良……野蛮人か残虐者、さもなくば狂人、異常者、社会不適合者や異常性癖といった所か)
とは言え、このエニカヴァーで数多の恐るべき相手と渡り合ってきた自分にしてみれば(実際に遭遇するまで断言はしかねるものの)"たかが不良"に過ぎないわけで御座いまして……
「……それで、なんだ?」
「え……?」
返答も自ずと決まって来るのです。
次回、大竜が末木にかける言葉とは!?