第四十二話「愚連隊アクメージョス、その呆気ない末路とは……」
愚連隊アクメージョス壊滅案件、無事決着!
読者の皆様、毎度大変お世話になっております。
前回に引き続き、冒険者財王龍こと七都巳大竜が愚連隊"アクメージョス"本拠地よりお送りいたします。
「……今から貴様に問いを出そう。その問いに正解できたらば、貴様は見逃してやろうではないか」
生き残った一人の女怪人……異世界人にも拘らず何故か地球のドラマについて詳しく語れる其奴への"試し"とは、
この手のシチュエーションでは王道の"問い掛けに正解できたらば助けてやる"といったものに御座います。
「否、見逃すだけではなく、然るべき機関に掛け合い司法取引を行わせてやる……」
「へぁ? し……しほう、とりひき……って、なに?」
「組織に関する情報を政府機関に提供すれば刑を軽くしてやれる、ということだ。
或いはアクメージョスは共和国政府も脅威と見做しておったからして、提供した情報次第では刑務所の中での待遇を良くしてくれるやもしれんなァ」
「え? そ、それって、本当!? 本当なの!?」
「うむ。断言はできんが最善を尽くそう……但し、自分の出す問いに一発で正解できたならばの話だがな……」
読者の皆様方としましては『そんな真似をして、もしこいつが正解してしまったらどうするんだ』と不安がっておられる方も居られましょう。
然し何ら心配することなど御座いません。
まず第一、他の構成員を皆殺しにし組織そのものを壊滅させる予定に代わりはなく、拉致された民間英雄の皆様の救出に関しても別途救助隊を手配済み……
そして何より仮に此奴を生かしたとて、安易に組織を裏切り政府に売り払うような薄情者が後々脅威になるとは到底到底考え難く……
構成員しか知り得ぬ組織に関する情報の価値に比べれば、この程度の木っ端悪党が何を仕出かそうと必要経費として割り切れましょう。
「わ、わかった! やる! やるわ! 組織の情報で私が知ってることなら何でも教える!
だから早く出してよ、その問いをっ!」
命が懸かっているが故でしょう、必死に懇願する女怪人……
さて、ドラマに出ている役者迄把握している此奴は果たして、自分の問いに応えられるので御座いましょうか。
「よしよし、善かろう……では問おう。これより自分が、貴様を駆除す際に挙げようとしている役者の名は……?」
「へっっっ……!?」
瞬間、女の顔を覆っていたドミノマスクがずれ落ち、隠されていた間抜け面が明らかになりました。
反応からしてどうやら、問いの答えが全く分からないので御座いましょう。
「……どうした、答えられんのか?
自分が貴様を駆除す際に挙げようとしている、王様戦隊のレギュラー出演者の、十と五つ目の名前だぞ……?」
「ぁ……そ、そんなっっ……でも、レギュラーはっっ、十四人でっ……名前も、十四っっ……
どうあがいてもっ……じゅうよん、しか、ないっっ……!」
ヒントを与えてやるのも一興でしたが、元よりこのような危険かつ有害な組織の構成員に慈悲など無用…… よって、判断は一つに御座います。
「……それが貴様の答えか?
不正解だ」
「ひいいっ! い、いやっ! 待ってっ!
違う! 違うのっ! 考えてた! 考えてたのっ!
十五人目! そう十五人目が存在する!
王様戦隊のレギュラー出演者は十四人っていう認識そのものが間違いなのっ!
つまり、十五人め――」
「違ァう」
「がっっ!?」
余りにもみっともなく、しかも的外れな妄言を口走る女怪人……それを鬱陶しく感じた自分は、首を掴み奴を黙らせます。
「王様戦隊の、ヒーローと幹部怪人を演じるレギュラー出演者は十四人ッ。
そこは紛れもない真実だ……そしてその演者たちは、十と五つの名を持っている……!
今からその事実を教えてやろう……」
「がっ! うっ! ぐがあっ!」
……といって自分も記憶と知識が曖昧な為、実際はもっと多くの名があるのかもしれませんが……
「よく覚えておけ……農耕国女帝再婚相手ァッ!」
「ジッラン、ヴァアアッ!?」
……態々開設する程の話でもないでしょうが、天野浩成氏は婿入りされた為本名は雛形であり、芸名として旧姓を名乗っているので御座います。
「……そもそも生き残りたければ最初の段階で投降しておけ、間抜けが……」
その後、隣接する調教房でも同じように女怪人どもを全滅させた自分は、
女怪人の生き残りが居ないか虱潰しに探し回り乍ら、組織の首領及び幹部格の集う会議室へ向かったので御座います。
( ◎甘◎ )<道中で詰めた女怪人曰く『首領と幹部は何かにつけて会議室でパーティを開きがちで今日もパーティが開催されている』そうで……
(;◎甘◎)<……仮にも組織が危機的状況なのに遊んでいるのは上層部としてどうなのでしょうね……
(……やれやれ、長かったな)
基地に備わるエレベーター……その最上階こそ、幹部らの集う会議室への入り口に御座います。
(土地代に当てる金はない癖に、エレベーター内部に至る迄無駄に飾り立ておって……どうにも理解できんな。奴らは)
程なく辿り着く最上階……開く扉の先には、短い通路が一本。
(……本当に最上階全域が会議室になっているのか)
ゆっくりと、細心の注意を払い乍ら通路を進みます。
如何に連中が頭の悪い愚連隊とは言え、それでも単純な経済力や技術力に関しては軽視できませぬ故……
(……何の罠も、仕掛けもない。内部に攻め込まれることを想定しておらんのか、この組織は)
俗人の"処女を尊び童貞を蔑む"風潮への肯定的意見として
"敵兵の侵攻を許さぬ盤石な砦を治める主君は有能だが、 砦に攻め入った経験のない臆病で脆弱な兵士は無能である"
などといった言説が御座いますが……
『我が砦に敵兵の侵攻など到底有り得ぬ』と慢心しきっているような主君は、果たして戦闘経験のない未熟な兵士を遥かに凌ぐ無能に他ならず……
(どれ、一つ丁寧にやってみるか……)
軽く蹴破れそうな木製の扉を、然し自分は敢えてゆっくりノックします。
「はいはい。今参りますよ~」
扉の向こうから、恐らく小間使いと思しき女の声がします。
駆け寄って来た女の手で程なく扉は開かれ……
「はい、どちら様で――」
「どうも、謝らない所長です。
……っとぉ、違うかァ~」
「なぁっ!? なんだっ、テメー!」
出迎えてきた華人風の女は、かなり大ぶりなヌンチャクを手に身構えておりました。
恐らく護衛も兼ねているのでしょうが……
「初対面の来客に何だその態度はッ」
「ぐぇあーっ!?」
「少々借りるぞ……」
「ぐげぁっ!?」
軽く殴り飛ばし、踏み付けてトドメを刺しつつヌンチャクを拝借します。
「……いいヌンチャクだ。実写映画版『スマグラー』を思い出す……」
そのままゆっくりと立ち入れば……アクメージョスの幹部連中が六人ほど、こちらを睨み付けておりました。
(……どいつもこいつも下品な恰好をしおって。あの一番奥に居るのが首領で、その側のは護衛か……)
その他、四人の幹部格らは何れも今迄見てきた女怪人どもの"上位個体"を思わせる出で立ちに御座いました。
「――――」
「……!」
「……」
「「……ッ」」
『「……」』
暫しの沈黙。所謂拮抗状態と言うのでしょうか……
「……んだァてめー。いきなりなぐりこんで来やがって。
今ぁ男性構成員なんざボシューしてねーんだよっ」
沈黙を破ったのは、毛皮で最低限局部を隠しただけのトラ猫めいた女怪人。
太い腕や割れた腹筋、荒々しい言動などから武闘派と見て間違いありますまい。
「……」
対する自分は黙したまま、空いた左手で挑発的に手招き……中華の功夫映画などで主に見かける"かかってこい"の合図。
果たしてトラ猫怪人の反応はというと……
「ジョートウだっゴラァ! オレサマのツメで引きさいてやらァっ!」
「……ッ!」
狙い通り挑発に乗って来たもので、自分も即座に振りかぶり……
「スーパーグレート・クローカッタァァ――」
「――――ぬんっ!」
「っがあああああああ! うがあああああ!? てがああああ!?」
突き出された鉤爪付きの篭手を、奴の腕ごと粉砕……
「あああああっ! いでえ! いでえよお――」
「ゥァッ!」
「ぐへぅっ!?」
悶絶する奴めの側頭部を、ヌンチャクで薙ぎ払い……念のため確認しますが、恐らく即死でしょう。
『貴様っ、よくもっ!』
続けて動いたのは、その隣に座っていたメイド姿の機械女人らしき機械女人。
どうやら腕を変形させた何かしらの武器で攻撃するつもりのようですが……
『我がレーザーの餌食とな――』
(遅いッ)
『グブウッ!?』
踏み込みで間合いを詰め、振り上げたヌンチャクで奴の顎を
――道中を阻む胸部パーツ諸共に――薙ぎ払い、破壊。
――《ズガガッ
ギッ ガガッ
――ピィィィィィィィ――
再起不能……機能……停、止……》――
その衝撃に奴の首は胴体を離れ、複雑な内部機関を曝け出し乍ら只の鉄屑となり果てました。
「ひっ! ひいいっ!」
向かいに座っていた巫女装束姿の女怪人は恐怖心から逃げようとしますが……
「ッラァアアッ!」
「げぶぅっ!?」
大胆に振り回されたヌンチャクから逃れることは叶わず、雑に側頭部を砕かれ即死……
「なっ……? ああっ……! あ――」
「ヅゥアッ!」
「ぐぶおぼぉっ!?」
ともすればその隣……困惑するばかりで逃げも反撃もしなかった魔女風の女怪人などは、何もできぬままヌンチャクが眉間に直撃……ほぼ即死に御座いましょう。
「……ッッ!」
「……」
さてそうなりますればあとは二人……組織の首領と、その護衛
――風貌からして種族は竜人、獲物は白鞘の打刀――を残すばかりに御座います。
恐れおののき腰が抜けたらしい首領はまともに動けず、そんな奴を守るが如く護衛が立ち塞がり……暫しの睨み合い……
(……この剣士は別格であろうな。一撃で終わらせねばどうなるかわからん……)
最悪、変身してしまえば此奴らの駆除は完了しますが……下の階に民間英雄や救助隊の皆様が居られた場合を考慮するならばヌンチャクで始末したい所。
「……」
「……」
「あっ! ああっっ! ウワアアアアアアアッ!」
尚も続く拮抗状態……三葉虫不死祖に怯える橘朔也の如き首領の悲鳴もろくに耳に入らぬほどに、極限の睨み合いは暫し続き……
「はァァァァッ!」
「ぬゥぁらッ!」
振り下ろされた打刀。まさに神速たるその斬撃は然し直線的。
よってヌンチャクの持ち手側先端部にて受け止めれば、刀身は真っ二つに折れ、明後日の方角へ飛んで行った切っ先は倒れ伏す魔女風女怪人の胸を貫通。
「ぶげっ!?」
辛うじて息のあった魔女風女怪人はその一撃で即死。そして……
「はっ!?」
折れる寸前の刀身によりヌンチャクの棒と鎖を繋ぐ部品は切断され、二つに分離したヌンチャク、その"持ち手でなかった側"は運動エネルギーの儘に直進し……
「――ゴぼッ!?」
護衛剣士の口腔内へ突き刺さり、奴の喉を塞ぎ頸椎を破壊……
「ッッッ! ぐっ!? ぐううっ……!」
即死でないにせよ、再起不能にまで陥れたので御座います。
「あっ! あああっっ! なぁっ、なんでっ! そんな、バカなっ! バカで下等な、男なんかにぃっ!」
「……この期に及んでまだその思想に縋りつくか。つくづく救えんな……貴様が何故そのような思想に辿り着いたのか、自分は知り得ぬが――」
「ふっざ、けんなあああああっ!」
「うおっ!? ――ぬうんっ!」
それまで泣き喚くばかりであった首領が声を張り上げ……好からぬものを気取った自分は後方へ飛び退き距離を取りました。
そして、次の瞬間……
「こんなハズじゃ、なかったのにいいいい! もうイヤああああああああっ!」
「何ぃっ……!?」
いっそ滑稽な程の叫び声と共に手榴弾を取り出した首領は、此方へ投げつけるでもなくその安全ピンを引き抜き……即ち、自爆の形で自らの生涯に幕を下ろしたので御座います。
「追い詰められ自ら命を絶つか……所詮愚連隊の親玉風情が格好付けた真似をしおって……」
その行為を潔いなどと称賛する気は毛頭ありませんでした。
どちらかと言えば『負うべき責任から逃げた』ような印象に御座います。
「……ともあれアクメージョス壊滅は紛れもない事実。
拉致された民間英雄諸氏の救助も完了した頃であろうし、一先ず案件達成と考えて良かろうなァ」
救助隊に確認を取り囚われていた要救助者全員の無事を確認した自分めは、そのままアクメージョスの総本山を後にしたので御座います。
次回、その後も様々な案件をこなす大竜だったが……?