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第三十七話「一見無敵にも見える人造スライムを安全に仕留める方法は一つ……」

暴走スライムと対決……する前に、

大竜が元々こなしていたクエストとは!?

 読者の皆様、毎度お世話になっております。

 前回より引き続き財王龍ツァイ・ワンロンこと七都巳大竜がお送り致します。


(源元ギルド長からの連絡……一体何事だ?)


 場面は大国マルヴァレスが首都フジマット郊外の町"キエズ"。

 古くから酪農が盛んでベーコンとチーズが特産であるこの町に自分めが訪れておりましたのは、当然乍ら町の自治体様より依頼されました案件クエスト遂行の為に御座いました。


「お疲れ様です、ツァイです」

『おおー、財くん。お疲れさんや。今電話して大丈夫そうか?』

「ええ。概ね七割五分ほど終えた所です。幸いそこまで焦る程の状況でもありませぬ故……」


 そして肝心の案件クエストに関しましては……

 前回終盤にて自分めが発した台詞より概ねお察しの方も居られましょうが、

 町民を襲う変幻自在の怪物"グランドヴォイド"及びその成長体らの討伐といったような依頼内容に御座いました。


『おお、それは何よりや。

 然しグランドヴォイドの駆除で進行度合いが七割五分ちゅうたら、後は何の作業が残っとるんかいのぉ』

「はい、現状としましては確認されたグランドヴォイドの内、地中に潜んでいたドリリングラーヴァ二十三体、トレンチクラッシャー十七体、地上のアームドシュリーカ十三体、アサルトジェット十九体の駆除が完了しました」

『なにぃ!? トータルで七十二やとっ!? 依頼状ではニ十って書いてあったやん! 三倍超えとるやないか!

 ……グランドヴォイドってそない繁殖力高かったか?』


 補足させて頂きますと、グランドヴォイドとはエニカヴァーの赤道付近から北半球にかけて生息する獰猛な捕食性の怪物に御座います。

 成長段階によって変態し姿と名称が変わる特徴を持ち、

 地中を掘り進むワーム型の"ドリリングラーヴァ"及びその大型版"トレンチクラッシャー"

 四足歩行型で硬質の外皮を持つ"アームドシュリーカー"

 ジェット噴射による飛行能力を獲得した"アサルトジェット"

 ……以上四形態の何れもが自然界及び文明社会に対し等しく脅威となる為、しばしば冒険者ギルドに駆除の依頼が舞い込むので御座います。


「正直な所、自分も驚いております。

 如何に酪農が盛んで肥沃な土地とは言えここまで増えているとは……念のため周辺を調査し取りこぼしが居ないかを確認する予定です。

 また調査の結果、町周辺に設置された地中怪物忌避装置が老朽化しておりました。此度の異常発生と人間の生活圏への侵入はこれが原因かと思われます」

『なんやとぉ~!? さてはしーちゃん、ロクに装置のメンテもせんとほっぽっとったな……?

 然しその分やと家畜飼料とか他にも色々問題ありそうやなぁ……よしわかった。

 ほな業者への連絡はオレが代わったるわ。序でに生き残り駆除すんのも代理の冒険者手配しとく。

 その代わり、急で悪いんやがエビセン区の「日輪菊之丞国立科学研究所」へ向かってくれるか?

 研究室で飼うとった人造スライムが暴走してどえらいことなってんねん! 施設の職員どころか、討伐に駆け付けた冒険者がもう四人もやられとる!』

「……了解致しました。至急向かいます」

『おう、くれぐれも気ぃ付けてなぁ!』


 かくして自分は現場を後続に託し、国立科学研究所へ急いだので御座います。



「失礼致します。丸致場亜主の財王龍です」

「おおっ! 貴方が源元ギルド長の仰っていた新人殿ですか!」


 研究所内に脚を踏み入れた自分を出迎えて下さいましたのは、施設のトップであらせられる日輪菊之進(きくのしん)所長他、施設関係者の方数名に御座いました。


「お願いです! どうか、どうかあの子たちを助けてあげてください……!

 暴走状態にある実験体が急成長を続けている所為で、警察や消防はおろか軍でさえ手出しができず……!」

「お任せ下さい、日輪所長。彼らはこの財王龍が必ずやお助け致します」


 国営施設の長ともあろうお方に、それも年甲斐もなく泣きじゃくりながら懇願された以上、全力を尽くさねばなりますまい。

 状況把握の為、早速実験体についてお話を伺います。


「聞く所に依りますと、件の実験体は元々、人体や器物の汚れを吸収・分解し清掃する……

 言うなれば生きたロボット掃除機のような存在として、塊滴粘体ウーズクラスターに遺伝子操作を施し生み出されたとか?」

「はい、その通りです。元々は衛生管理の徹底したケースの中で育てられておりましてな。

 それを此度初めてケースの外へ出して実験を試みようとしたのですが、

 外気に触れた途端暴走状態に陥り、瞬く間に肥大化しながら職員たちを襲い始めてしまいまして……」


 "襲い始めた"

 その言葉を耳にした自分めの脳裏に最悪の展開がよぎります。


「職員の方々を襲った、と仰いますと……よもや職員の皆様は……」

「ああいえ、ご安心下さい。

 拘束され全身くまなくまさぐられこそすれ、命に別状はなく目立った外傷も見受けられません。

 まあ、衣類など柔らかい素材の装飾品類は溶かされてしまったようですが……」

「恐らく知能が未発達なため周囲の人間を"清掃すべき汚れた対象"と見做し暴走してしまったのでしょう。

 衣類などを溶かされたのも恐らくは汚れとの区別がつかなかった為かと」

「成程。とすると安易な接近は控えた方がよさそうですなァ。実験体の特性に関してはどのような感じで?」

「はい。研究データによりますと、清掃を目的とする関係上概ね殆どの薬品・毒物と攻撃的性質を持つ魔術、二千度迄の高温、

 並びに零下マイナス二百五十度迄の低温、百A(アンペア)迄の電流に対し完全な耐性を持つ他、十G程の重力下や真空中であっても活動が可能であると……」

「なんと……」


 所長より告げられたのは、まさに衝撃の事実に御座いました。

 と言いますのも、事も在ろうに件の実験体は、既存の液状生命体を遥かに凌駕する防御力の持ち主だったので御座います。


 例として二千度は鉄鉱石を溶かす溶鉄鉱炉内の温度に等しく、

 マイナス二百五十度は絶対零度にこそ及ばないもののそれでもかなりの低温に御座います。


 百アンペアの電流と聞くと大したことはなさそうに聞こえますが、

 ヒト一人感電死させるのに五十ミリアンペア程度で事足りると聞けば、件の実験体の凄まじい耐久性をご理解頂けるでしょうか。


 重力十Gは単純計算にして自重が十倍に感じられるだけの強烈な重力であり、最早身動きが取れないどころの騒ぎではありません。


 真空中に関しては最早説明する迄もないでしょう。凡そこの世の殆どの生物が生身で耐えうる環境ではないのですから。



「驚異的な耐性に御座いますなァ。然し、解決不可能な案件とも思い難い」


 頭を捻ること暫し……自分めの脳裏にある策が浮かびました。


「……この中に、建物の構造に詳しい方は居られますか」

「おお、建物の構造でしたら私がっ!」


 名乗りを上げられたのは、研究所の設立当初から在籍しておられる施設管理担当の蒼井様に御座いました。

 曰く蒼井様はこの建物の構造であれば文字通り隅々まで把握されているとの事。

 であれば、要望は一つに御座います。


「事件現場の研究室へ繋がる空調設備の場所へ案内して頂けますか」

「はあ、空調設備ですかぁ?」

「ええ。より具体的には送風機のある吸気ダクトの起点、ですかね。本件を円滑に解決へ導くには、その場所が鍵を握っているもので……」

「なんとっ!? わ、わかりました! 直ちにご案内致します!」

「有難うございます」


 斯くして蒼井様の案内で、自分は空調設備のある部屋へ向かったので御座います。




「これが送風機で、此方が吸気ダクトの起点……か」


 空調室へ立ち入った自分めは、鈍く唸るような音を轟かせ乍ら駆動する送風機を丹念に調べていきます。


(一応、所長や蒼井様はじめ施設関係者の皆様は『実験体を止めて研究者たちを救えるなら何をしても構わない』と仰有られたが、とは言えなるべく損害は抑えたい……)


 暫く調査した所、吸気ダクトの継ぎ目に養生テープで塞がれた箇所を発見します。

 試しにテープを剥がしてみると、そこには案の定決して軽視できない規模の隙間が形成されておりました。


(……ダクトにできてしまった隙間を応急処置としてテープで塞いであるのか。

 あまり適切な対処とも言い難いが……此度の場合に於いては好都合よ)


 薄暗い空調室の中、腹に手を添えシンズドライバーを起動します。


[SIN'S DRIVER!!]

「……顕現ッ」

[KEN-GEN!! INCARNATE VULGAR DRAGON!!]

『……我が罪悪。我が劣情。我が劇毒。

 即ち罪竜、有毒なる色欲(ヴェネメス・ラスト)……』


 無数に宙を舞う"薬剤"の渦に包まれ乍ら変身しましたのは、色欲の罪を宿す、サソリの特徴を持つ山羊悪魔バフォメット風の異形……

 名付けて"有毒なる色欲(ヴェネメス・ラスト)"に御座います。


『ンンンッ♥ 成る程っ♪ 以前迄と比べ腰からサソリの前足が生えているとはっ♪

 正直この場では無用の長物だが♪ ある程度変身後の姿を変えられるとの発見は、実に素晴らしいものだっっ♪』


 伴う精神汚染は性欲の増大と絶え間なき性的興奮……長々と変身し続ければ危ういのは他の形態と同様に御座います。

 然し乍ら、重ね契りの術の効果もあり自分が想いを寄せるはパル殿ただ一人である以上、

 『愛しい彼女の肢体が恋しくてたまらなくなる』

 『行き場のない劣情により情緒や挙動が不安定になり発狂する』といった事態に陥りこそすれ、

少なくとも力加減を誤り余計な被害を出してしまうリスクはあまりなく、その意味では比較的扱いやすい形態なのかもしれません。


『とは言え「安定性と爆発力は反比例する」が故、イマイチ決め手に欠ける形態でもあるがァ……♥

 此度の状況下に於いてはァ~、まさにこの上なく最・適・解ッッ♥

 ンンゥ~~ンッッ♥』


 股座より背にかけて伸びるサソリの尾……

 その先端に備わる毒針を突き立てるは当然吸気ダクトの継ぎ目に形成された隙間。


『蒼井様のお言葉が確かならッ♪ このダクトの先が件の研究室ッッ♥

 さァァあっはァァ~実験体ィィィ~~♪ 暴走おあそびは終わりィィィ~~♪

 逝去ネンネの時間だァァァァッははハァァアァアアアッ♥

 ッヴェエエエエエエエエエエエエッ♥』


 お目汚し失礼致します……。

 自分めは山羊の鳴き声を汚く濁らせたような声を上げながら、尾の先端より霧状の毒液を放ちます。

 送風機からの風に乗りダクトを通るその毒液こそは、有毒なる色欲(ヴェネメス・ラスト)の固有能力により我が体内で調合・生成された、件の実験体にのみ有効に作用する致死性の猛毒に御座います。


『ゥゥぅぅあっはァァァアアああッ♪

 実験体ッ♥ 名も無き人造液状生命体(スライム)よぉ♥ どうか自分を怨んでくれるな♪

 貴様が暴走するしか無かったようにっ♪ 自分も貴様を毒殺する他無かったのだからなぁぁぁぁぁぁっ♥』


 狂ったように毒液を放ち続けること暫し。

 そろそろ毒が効いて来た頃か? と思っておりますと……




――【ギュィイイイイイイイイゲエエエエエエッ!】――




 施設内にひと際大きな甲高い、如何なる動物のそれともつかぬ金切声が響き渡りました。


(……死んだかっ♥)

[GOOD JOB.THAT'S A FEAT.]


 金切声を耳にした自分は、本能的に実験体の死を察知……。

 これ以上の変身継続は危険なのもあり、一旦変身を解除致しました。

 そして……


「もしもし、ツァイです。……はい。はい。了解致しました。

 怪我人などは……ああ、それは何より。ええ。いえ、お役に立てたようで何よりです。

 いえ。こちらこそ申し訳御座いません、折角の実験体を始末してしまい……」


 後に来た連絡により実際、実験体の始末が達成されたとの一報を受けたので御座います。

次回、大竜が更に大規模な敵に挑む!

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