第二十九話「冒険者としての初仕事は"家出娘の鎮圧"だった」
「家出娘の鎮圧って何やねん。説得とかとちゃうんかい。
てか大竜めっちゃクリーチャーやし初仕事が家出娘捕まえるとか依頼主センス無さ過ぎやろ」
『そう言うなや。モンハンの初クエストかて大抵採取やんか。
如何に戦闘能力高くても冒険者としては新人なんやしそいう初歩的な依頼からこなしてくもんやねん』
「せやろか……。
けど読者もなんやかんや言うて大竜のシンズドライバー使うた派手なバトル期待してんちゃうか?」
『それは言うたらアカン。
ワシもその辺期待してたけど「デッドリヴェンジ!」かて連載開始当初は縦軸偏重しまくりで本格的なバトル突入は対守衛隊戦までお預けになる予定やったんやから』
「お前それ縦軸の意味合うてるか……?
まあ、今までも『なんでこれあんねんこんなんやるんならバトル見せてくれや』みたいな回多かったし、
そういう所も含めて蠱毒成長中なんやろなって思うてやり過ごすしかないか……」
『せやせや。所詮読者にできるのは待つことだけや。
何ならお前要望があるんやったら感想書いたらええやん』
「感想かあ……書いてみようかな……」
「ガァゥグガアァァァ……! ヴォギアアアアアアアアッ!」
「いいぞ、実に素晴らしい咆哮だエリザベート……!」
読者の皆様、毎度お世話になっております。
「さあ来るがいい、世間知らずのじゃじゃ馬娘……
お前が出たがっていた檻の外側、その恐ろしさを教えてやろうではないか……!」
自分、七都巳大竜と申します。
そろそろ姓名の読みくらいは覚えて頂けましたでしょうか……。
「フローレンスとブーティカは捕らえた。どちらもお前の計画に乗ったのを後悔していたらしい」
「ガアアッ!?」
より詳細に、現在の状況を踏まえて自己紹介させて頂くならば……
「メイヴやシェヘラザードもだ。
最初は調子付いていたようだが軽く痛めつけただけで小犬のように怯え散らかしてなあ……
あれはいっそ滑稽であったわ」
「グゴガアアアッ!」
「それと、キヨヒメの奴はもうこの世に居ないぞ?
アシュリー所長直々のご命令につき、自分が始末したのでなぁ……
ま、どの道あの凶暴性では遠からず殺処分されていたのだろうが」
「ゴギアアアアアアッ!」
念願敵い斡旋して頂いた初案件にて、研究施設を脱走し暴虐の限りを尽くす全長九メートル、推定体重一トンの"じゃじゃ馬娘"エリザベートと相対する、
ギルド『丸致場亜主』所属の新米冒険者に御座います。
「どうしたね、御令嬢。
そんなにも鋭利な牙をたくさん持っている癖に、ただ怒りに任せて吼えるだけか?
それほどに頑強な体つきをしている癖に、一歩も動かず大物ぶって突っ立っているだけか?
外界に夢を見て、野心を抱き、圧倒的支配を実現する力をその身に秘めながら、
特に何もせず、こんなちっぽけな自分の軽口を、ただ聞き流しては唸るだけか?
お前は所詮その程度の、己を持たず傀儡の如く操られるだけの、籠の小鳥に過ぎぬと申すかァ~!?」
「ヴオゴガアアアアアア! ヴァアッガアアアアア!」
自分めの挑発がようやっと届きましたか、ここ一番の咆哮を轟かせ迫り来る巨竜エリザベート……
外見としましては、赤紫の羽毛に白黒の鱗を持ち、濃い紫の角が異様に発達した肉食恐竜カルノタウルスといった所でして、
種としての名は吸血獣脚類……要は吸血鬼化した肉食恐竜に御座います。
「良し善し! 其の突進、実に好いぞ! 風貌構えに違わぬ激しく力強い動作き!
まさに恐ろしき竜の典型よ! その力、一度直に味おうてみるとしようかい!」
大口を開け、咆哮し、突進するエリザベート……
自分は敢えて迫り来る彼女と尚も向かい合い、長さ一メートルほどの青い金属棍棒を手に待ち構えます。
「……丸致場亜主幹部バーゲスト・美代子殿プロデュースの冒険者用棍棒"タカカズ・ディック・マグナム-110105"……」
意外に思われるかも知れませぬが、自分めは幼少より図体がでかく力自慢で通っておりました。
それは成長期を過ぎても変わらず、成人後などはしばしば格闘家と間違われた程で御座います。
「『価格以上の神性能』なる触れ込みの真偽、確かめさせて頂くとしよう!」
会社員時代はもとより配信者時代も何かと重宝した我が筋力は、エニカヴァーへ転移し神々による強化を受けたことでより拍車がかかり……
自慢する程でも御座いませんが、自身より一回り大きなオークやリザードマン程度ならば余裕で投げ飛ばせる程度の格闘能力は持ち合わせております。
「ヴガアアアアアアア!」
「ぬうおッラァっ!」
「ガグゥヴァアアッ!?」
「づお、っとお!?」
馬鹿正直にも棍棒の間合いへ突っ込んできたエリザベート、
その下顎へ渾身のフルスイングを叩き込めば、奴めは盛大に仰け反り目を回したようでした。
然しその衝撃は余りにも凄まじく、反動から自分も思わず姿勢を崩しかける程……
そして肝心の棍棒はと言いますと……
「なぁんだこれはぁ!? 全くどうして、どうしようもなく情けないっ!」
ものの見事に潰れてひしゃげ、使い物になどならなくなっていたので御座います。
「これが『価格以上の神性能』!?
こんなものが『手にした男が皆「ウホッ、いい鈍器っ」と言わずにいられない逸品』だと!?
購入者を馬鹿にするのも大概にしておけよ、あの筋肉ハゲ達磨っ!
こんなガラクタのために二十万ココスキも取りおってからに、絶対許さんぞっ!」
二十万ココスキは日本円換算で凡そ三十七万円程になります。
その額で買った打撃武器が一発の攻撃にすら耐え切れず使い物にならなくなってしまうようで、
どうして価格以上などと言えるでしょうか。
「ええい、致し方無し! やはりシンズドライバーに頼るのが最適解であろうよなぁ!」
「グウアッ! ガアアアアアッ!」
「罪業背負う七竜に乞う! その悪しき力振るう権能を、今一度我に貸与されたし!
顕現要請、邪悪魔神器シンズドライバー!」
[SIN'S DRIVER!!]
「いざ、顕現!」
[KEN-GEN!! INCARNATE IRASCIBLE DRAGON!!]
『我が罪悪! 我が赫怒! 我が獄炎!
即ち罪竜、バーニング・ラース!』
咄嗟にドライバーを起動、変身したのは憤怒の罪を宿す赤き肉食獣風の異形……
名称は燃え盛る憤怒とでもしておきましょうか。
体格としてはエリザベートを二周り近く上回り、身体能力はもとより攻撃手段の豊富さに於いても上に御座います故恐らくそう負けはしないでしょう。
『グウウガアアアアアア!
今日はどうにも機嫌が悪い……
我が憂さ晴らしに付き合って貰うぞ、小娘ぇ!』
「……」
『……』
「オイコラ、こらァどないなっとんねん」
『知らんわ。けど良かったやんか、大竜バトルしてんで』
「そらバトルしとるけどよ……あれを家出娘って言い張るとかどういう神経してんねんあいつ」
『蠱毒成長中の頭がおかしいんは今に始まった事やないやろ。
それにしてもなんで名前がエリザベートなんかがようわからんけど……』
「それはアレちゃうか、FGOとかその辺の。FGOのエリちゃんはドラゴンで吸血鬼やん」
『……せやな。確かに言われてみたらFGOのエリちゃんはドラゴンの血混じっとるもんな。
それなら納得……できるかァ! ほなドラゴン系のモンスター娘とか、
そうでなくても普通にメル・ゼナっぽい雌ドラゴンとかにしたらええやんけ!?
なんでカルノタウロスやねん!? わけわからんわ!』
「落ち着けや。それこそあれの頭がおかしいが故や。
ウルトラQのガラモンがあのビジュアルでロボなんは
作ったチルソニア遊星人のセンスが地球人とかけ離れとるから、みたいなもんやって」
『いやそれと一緒にすんのはどうやねん。
てかチルソニア遊星人て……せめてセミ人間言うたらんか?』
「なんでやねん。逆やろがい。
地球人目線の俗称のセミ人間と正式な種族名のチルソニア遊星人やったらチルソニア遊星人言うたった方がまだ失礼やないやろがい」
『それもそうか……いやそれにしてもエリザベートって名前にするならドラゴン系のモンスター娘にして、台詞もなんか普通の女の子っぽくしたれよって思うけどなあ』
「まあそこは同感やな。カルノタウロスは角の生えたデカい恐竜やが、
エリちゃんのイメージは似合わへんわ。別の鯖ならまだしも」
『まあそれは確かに……。
カルノタウロスならせめてアステリオスくんとかフェルグスオジキとかもっと似合いそうなん幾らでもおるしな』
「何言うてんねん。アステリオスはトリケラトプスやしフェルグスオジキはブラキオサウルスやろ。
カルノタウロス言うたらもっと似合う鯖がおるやんけ。本編でも出て来た奴で!」
『……いやおらんやろ。
精々辛うじてフローレンス婦長くらいやけどそれも厳しいぐらいのレベルやん』
「アホか。フローレンス婦長は恐竜やのうてなんかサーベルタイガーとかその辺や!
カルノタウロスが似合う鯖言うたらあの子がおるやんけ!
清姫が!」
『……なんかわかってまうけど同意したないなぁ!?』
オチない