第二十八話「確かに"守られている"が、そんな恐ろしいものだったとは……」
セクハラ(てか強制性交罪一歩手前)の変態二人を撃退した電撃の正体とは!?
読者の皆様方、毎度お世話になっております。
前回より引き続き、七都巳大竜がお送りいたします。
「これは一体……」
ギルド『丸致場亜主』総本山執務室。
電撃や爆撃を喰らったギャグ漫画のキャラが如く煤塗れで意識を失い倒れ伏すお二方……
どう見てもただ事ではありませんが、然し自分自身何かをしたというわけでは決して御座いません。
であれば何が起こったので御座いましょうか?
(我が感情の昂りに反応したシンズドライバーが力を暴発させたか?
……否、有り得ん話だ。お二人がこの有様であるならば、天女宮のあの小娘などは細切れになって死んでいただろうからな……)
源元ギルド長並びに幹部のお二方もこれには大層驚かれたようでした。
「いやぁぁぁ~なんともはや、おっそろしい光景ですねぇ~!」
恐怖に震え上がる大良殿……彼の態度からはそれまでの軽妙さは微塵も感じられません。
「なんだこれは……残り香からして、魔力破壊型の攻撃魔術……それも準特級だと?」
原因究明の為魔力を解析した時任殿の発言は、彼個人のみならず自分迄も驚かせるに十分でした。
「財くんなあ……幾らセクハラかまされてムカつくゆーてもそれは流石にアカンのちゃうかぁ~?
せめて殴る蹴る投げるとかならまだわからんでもないし、まあその辺は正当防衛の範囲内やけど……
これァ流石に過剰防衛で前科ついてもおかしないで?」
源元ギルド長はあくまでも冷静沈着……言葉や口ぶりこそ優しいものの、それでも謝罪せずにはいられません。
「申し訳ございません、ギルド長!」
すかさず自分は五体投地で首を垂れ、ギルド長に謝罪の言葉を述べます。
「よもやこのような事態に陥ってしまうなどとは全くの予想外でして、
ただ然し乍ら、お言葉ですが自分でも果たして何が起こったのやら理解が追い付かず……!」
ただ、可能な限りの供述は欠かしません。
何せ故意ではないのですから、その点だけはせめて理解して頂かなければ。
「そうですよ源元さん! うちのザイちゃんは紳士なんですよ?
幾ら腹が立ったからってこんなことしませんって!」
幸いなことに、パル殿も助け船を出して下さいました。
まさに渡りに船……或いは今の状況を考慮すれば、渡りに弩級戦艦と言っても過言ではありますまい。
「そもそもギルド長、如何にもザイちゃんが魔術でお二方を攻撃したみたいな言い方してますけど、
この子の戦闘形式は変身系マジックアイテム併用の準ソルジャー型アサシンであって魔術師とか呪術師なんかの特徴なんて持ってないんですよ!?」
「な、なんやて!? そらホンマか!?」
「ホンマですよ! 提出させて貰った履歴書にだって、魔術未習得って書いてあったじゃないですか!」
「……おお、せやったな。それに……今確認してみたんやが、魔術適性診断書での攻撃魔術適性も三級……
これで準特級、それも魔力破壊系なんぞ使えるわけないわ。
いやスマンの二人とも。突然の出来事にオレも気が動転しとったわ……」
パル殿の援護もあり、ギルド長は一先ず自分に非がないと認めて下さいましたが……
「然し、ほんならこりゃどないなっとんねん。
ンガっちゃんの魔力検知は百発百中、外すなんて有り得へんのにから……」
「ええそうですよギルド長。ボクの魔力探知は絶対だ……。
そもそもこの変態二人を気絶させる威力なんて、そんなの準特級に決まってる。
だが彼はそもそも魔術が使えない……一体どういうことだ……」
一同誰もが頭を抱え、その場は沈黙に包まれました。
と、その時……
「ふむ、これはもしや……」
沈黙を破ったのは、何か気取られたらしい大良殿でした。
「お、どないしたマサやん。なんか心当たりあんのけ?」
「ええ~ありますともっ。……新人くんっ」
「はい、何で御座いましょう……」
「つかぬことお伺いしますが君ィ、さては重ね契りの術を施されているのではありませんかな?」
「……はい。仰る通り、自分はパルティータ殿に重ね契りの術を施して頂いておりますが……」
「厳密には、あたしとザイちゃんで相互に施し合ってる感じですね~。
あれって一応魔術適性ゼロでも例外的に問題なく施術・維持ができるって話だったんで、じゃあ念のためお互いにってコトで」
天瑞獣の住処を巡る旅は何が起こっても不思議ではありませぬ。
なればこそ、悠久の時を生きた百戦錬磨のパル殿であっても抜かりなく自衛策を講じておくのは当然に御座いました。
「ナ、ル、ホ。ドぉ~♪
それは実に素晴らしいご判断、流石"海千山千不老不死なる天才魔女"の名は伊達ではありませんねぇパルさんっ。
全く以て最高ォォォォォォォッ! な英断だと思いますよ私ィ~」
その後、大良殿から詳しく聞かせて頂いた所に依りますと『重ね契りの術』とは『愛し合う二人を様々な形で守る術』であり、
それ故"愛し合う二人の行く手を阻む外敵"と見做した相手を様々な魔術で迎撃、死なない程度の再起不能状態に追い込む機能が搭載されているのだそうで……。
加えて術式が施術対象の体組織や魂魄へ馴染むのには平均二週間から三ヶ月程かかるらしく、
その期間はまるで術式が"新しい現場に緊張し焦る余り力加減を誤る新人労働者"の如く暴走してしまうような事態も珍しくはないとの事で御座いました。
暴走とは言っても原則として"再起不能にする"程度の威力しか持ち合わせておりませんが、然し少なからず死亡事故も報告されているとかで……。
「ま、そんな外道なんて死んで当然といえばそれまでですがねぇっ♪」
「概ね同意ですけど大良さんが言うと冗談に聞こえないですね~」
「そらそうや。寧ろ再起不能で済ます辺り『重ね契りの術』って結構平和的な術式なんちゃうかー?」
(平和的、とは……?)
ともあれ、大良殿のお陰で自分の嫌疑が晴れたのは事実に御座いました。
然し乍らそうは言いましても、曲がりなりにもギルド幹部の半数が再起不能に陥ったのは紛れもない事実……
なので御座いますが、果たして源元ギルド長の反応はというと
「もうええで、財くん。そない奴らほっとき。
通過儀礼や何やっちゅうのも全部出鱈目や、信じたアカンで?」
曲がりなりにも要職の部下二名が重体にも拘らず、あたかも大した出来事でないかのようにあっさりと流してしまわれたので御座います。
「それは勿論ですが……よろしいのですか」
「かまへんかまへん。そいつら昔っから実力は申し分ない癖して色々自制できんでから色々問題起こしとってなァ」
「財くんみたいに避けたり断ったりができなくて、人間関係に亀裂が入ったり、心に傷を負った子たちを何人も見てきた……」
「我々としても止めねばと思っていたのですが、
お二人共感情的になりやすく下手に刺激しては何を仕出かすかわかりませんもので、
中々対処ができなかったんですよねぇ……」
「言うても間違いなく有能で役には立つし、オレと同じ少数派上がりやし、
ウチ自体暴力団みたいなもんやしで、今迄は情けかけて多少の狼藉は大目に見とったが……
ええ機会や、この際徹底的に処罰したるわ」
斯くしてお二方にはギルド長直々にかなり厳し目の処分が下され、本件は一先ず一件落着したので御座います。
ただ、厄介事はこの後も暫く続いてしまうので御座いますが……
次回、大竜が初のクエストに挑む!