第二十五話「脛どころか全身傷跡だらけな自分にお誂え向きの"稼げる仕事"といえば……」
大竜、遂に無職を脱却!
読者の皆様、毎度お世話になっております。
本作主人公の七都巳大竜に御座います。
さて、前回終盤より時は経ち翌日。
我々がまず向かったのは市役所に御座いました。
というのも……
「……よもや市役所で戸籍情報や身分証の偽造を請け負って下さるとは」
「『色々やる課』はワケありだからね……。
具体的に言うとあの四人、揃いも揃って脛に傷があるってのかな。
それぞれ結構ヤバい感じにワケありなんだよ……」
「ワケあり、に御座いますか……」
察するに、縁故採用だとか軽犯罪の前科持ち、はたまた前の職場を解雇された程度であろうかと、
自分としてはそう推測しておりましたが……
「うんうん。
七歩蛇と猫又の混血の風間くんは、元々やってた便利屋の仕事で図らずも西の独裁政権を崩壊させちゃった所為で未だに命狙われてて~」
「まさか、あの騒動の原因が彼……?」
西の独裁政権と聞いて浮かぶのは、嘗てエニカヴァー西部で圧倒的な影響力を誇っていた"アンドリミ社会主義共和国連邦"に御座います。
邪悪の権化と名高き独裁者レッソー書記長の暴政等で悪名高いこの国家は、後にとある騒動が切っ掛けとなり瞬く間に崩壊へ追い込まれたのですが……
その原因が一件無害そうな便利屋とは驚くべき事実に御座います。
「ファイアインキュバスの火崎くんは売れっ子の漫画家だったんだけど、なんでか副業で渡世に手ぇ出しちゃってやむを得ず公務員やってるって話だし」
「何故渡世に……」
聞けば当時最大手だった麻薬カルテルを壊滅に追いやったそうで……
もし仮にその情熱を漫画の執筆に向けていたなら、今や世界に名を轟かせる売れっ子作家になれていたかもしれないと思うと残念でなりません。
「皆瀬くんはファントム……要するに幽霊で生前は人間だったんだけど、
死因は他殺ってことしかわかってなくて、今の国際社会を揺るがしかねないヤバい未解決事件の被害者って説が有力だし」
「国際社会を揺るがしかねぬ未解決事件……どれ?」
神々のお陰もありエニカヴァーの世界史にはそれなりに詳しい自分ですが、国際社会を揺るがしかねぬ未解決事件というと実際枚挙に暇がないもので……
「樹木精の卯木くんなんて喫茶店経営しながら怪盗やってたけど、
逮捕されて減刑の為に公務員やらされてるからね」
「『自殺部隊』ですか……」
地球ではあくまでフィクションの存在に過ぎぬ怪盗ですが、エニカヴァーでは裏稼業として一定の地位を確立しつつあるそうで……
「んでしかもあの子たちって、前ヴェーノ市長のお気に入りだったんだけど、
その分必然的に今の市長とは折り合いが悪くてさ……
役所内での扱いはすこぶる悪くて薄給で無茶な仕事ばっかりさせられてるから、
生活費の為に課全体が違法な副業に手を染めてるんだよね。しかも市長の弱み握って黙らせてさ……」
「そもそも公務員の副業がまず禁止であるにも関わらず、何と無茶な真似を……」
「ほんとそれね。まあ、エニカヴァーって全体的にそういうとこあるから……」
「……そこは承知しておりますが、それで大丈夫なんですかねぇこの世界は」
(=甘=)<といって自分もエニカヴァーの持つ
"そういった側面"の世話になっている以上、
一概にそれらを悪く言えるような立場でもないわけで御座いますが……
「到着、っと」
「冒険者ギルド、丸……何と読むんですこれ?」
「『丸致場亜主』ね。一発で読めた奴は数えるほどしかいないし、読めなくても無理ないよ」
市役所に続いて辿り着きましたのは、地下街に建つ前衛的な建造物……
もとい冒険者ギルド『丸致場亜主』の総本山に御座いました。
目的としましてはズバリ、自分めの働き口の確保であり、
パル殿に曰く自分のような者が働くならば断然冒険者がお勧め、との事で御座いました。
詳しい理由を伺いますと……
「戸籍情報と身分証を偽造できたとは言っても、万一を考えるなら普通の就職はやめておいた方がいい。
どこにどんな奴がいるかわかんない以上どんな騒ぎが起こってもおかしくないし、そうなったら勤め先にも迷惑がかかるからね」
「冒険者ならばその辺りは考慮しなくてもよい、と……」
「まあね。冒険者ギルドって組織そのものが、基本的に社会の厄介事を引き受ける担当みたいなとこあるから。
冒険者って名前ではあるけど、実態はギルド傘下の汚れ仕事担当……だから実際、所属者は何かしら脛に傷持つワケあり揃い……」
『それこそ「色々やる課」の四人とて本来は冒険者が妥当な所を、前ヴェーノ市長が拾い上げて税金で飼い慣らしたものだ』
と、パル殿は補足して下さいました。
「けどだからこそ、実力さえあればどんな奴でも所属できるし、危険な仕事が多い分基本的に報酬も高い。
あたしも便利屋として依頼がない時はギルドで冒険者やって結構稼がせて貰ってるんだよね。
特に『丸致場亜主』は冒険者ギルドにしちゃ珍しく福利厚生とかもしっかりしてるし、
源元ギルド長は死んでも身内を見捨てないスタンスで人望あるしで何かと頼りになるから、身を寄せるならここがお勧めだよ」
「長く生きておられるパル殿がそこまで太鼓判を押すならば、間違いなく信用に値する組織と考えて良さそうで御座いますなァ……」
その後パル殿の案内でギルドへ足を踏み入れた自分めは、ギルド長の源元殿と面会……
無事ギルドへの登録を済ませ冒険者の肩書を授かったので御座います。
とは言え『何事も無く円滑に』かと言うとそうでもなかったわけで御座いますが、そのお話はまた次回……
次回、ギルド・丸致場亜主でのひと悶着とは!?