第二十三話「紛れもない優良物件たる彼女がすぐフラれてしまう理由とは……」
まさしく
「モテるし恋愛経験豊富だけど
その分恋人との関係が長続きしない」
の典型だったパルティータ。
彼女の学生時代を知るジュライン教諭の口から語られたのは、
とんでもない逸話の数々で……
親愛なる読者の皆様方、毎度お世話になっております。
前回より引き続き、七都巳大竜がお送りいたします。
「落ち着いて聞いてね?
この子が……パルちゃんが彼氏とすぐ別れちゃう理由はね、その尋常じゃない性欲のせいなのよ」
パル殿の恩師ジュライン教諭から聞かされた衝撃の事実……それは、間違いなく史上最高の優良物件である筈の彼女が
その尋常でない性欲の故に付き合った男性の悉くに逃げられてしまった過去を持つという、俄かには信じ難いものでした。
「性、欲……?」
「そう。或いは肉欲というか愛欲というか……とにかくこの子って、いっそえげつないくらい性欲旺盛なのよ」
「いやぁっははは~それほどでも~ありますかねぇ~♥」
「だから褒めてないってば……!
で、この子って一度好きになった相手には一途で献身的だけど、強すぎる愛が空回りして尋常じゃない回数の交合を求めちゃうのね?
回数を控えようもんならその分激しさが増すし、ともかく相手の男からしたらそれがひたすらに負担になっちゃうのよ」
ジュライン教諭はこのように仰りますが、然しこれまで何度かパル殿と身を重ねて来た自分としましては、彼女の発言はどうにも信じ難く思えてなりませんでした。
確かに行為中のパル殿は元妻に比べ貪欲かつ旺盛ではあるのですが、さりとて自分にとってはほんの個人差程度にしか感じられないので御座います。
ですが、それはどうやら自分の私的感想・個人的見解に過ぎないようで……
「その顔……さては疑ってるわね? 言っておくけど本当にとんでもないわよ。
人間とかエルフ族なんかは勿論、より体力があるハズの人狼や人馬、小鬼、大鬼、悪魔、精霊、
蜥蜴人、鮫魚人、竜人、虫人、神性血統、邪神末裔……
挙句は豚獣人や雄夢魔なんかの"性欲や性衝動に脊髄が生えて動き回ってるような種族"の男子でさえ、
この子のブラックホールっぷりに圧倒され逃げざるを得なかったそうよ」
「ぶ、ブラックホール……」
その他、凄まじい逸話を数多くお持ちのようで……
ならば自分と身を重ねる際は手加減をしてくれていたのかと思いましたが、
どうやらそんなことはまるでないようで……
尚、性欲に関しては当人に曰く……
「いやあ~♥
なんか愛したいしエッチしたいって気持ちに収まりがつかないというかですね~♥
『絶対満足させてみせる』とか『今夜は寝かさない』とか言って期待した割にみんなすぐヘバっちゃってぇ~♥」
「そりゃあんたね、毎晩五回や十回や十五回も射精強要されたら幾らオークやインキュバスでも一週間と経たずにバテるわよ!」
「でも先生、大丈夫だって言ったのあの子たちですよ?」
「あの年頃の男子ってのはそういう時つい見栄張っちゃうもんなの!
……七都巳くん大丈夫? この子に無理させられてるんじゃない?」
「いえ、決してそのようなことは。確か初めてお会いした日に求められまして、
ホイホイと誘いに乗らせて頂いたのですが……そう言えばあの時は合計何回射精したやら……」
必死に思い出そうとしますが、脳裏に浮かぶのはパル殿のあられもないお姿やお胸様の揉み心地などといった記憶ばかり……
「八回、ということはなかろうし……十四回……いや二十だったか?
……失礼、具体的な射精回数等は把握しておりませんが、実に甘美にして情熱的かつ濃厚な、
極上のひと時を過ごさせて頂いた事実だけは確かに記憶しておりまして……」
「はぁぁ~ん♥ ダイちゃんありがとぉ~♥
あたしってば無理させちゃってたかもって実は内心めっちゃ悩んでたんだけど、なんともなさそうでほんと良かった~♥
一方的にガツガツ求めちゃうのは良くないって頭では理解してたんだけど、
ダイちゃんがカッコ良くてエッチで可愛くてとにかく滅茶苦茶に好き過ぎるからつい求めちゃってさぁ……
ダメな時は遠慮なく言ってね?
あたしも努力するから……ほんともう、なんとかするから……だから捨てないで、ダイちゃん……」
パル殿は白髪を棚引かせ、赤い瞳を涙で潤ませながら上目遣いで懇願して来られました。
冗談や芝居の類いでないのは態度からして一目瞭然……ともすれば受け止めるのが彼氏たる自分の務めでしょう。
「何を仰有います、パル殿の方こそ自分めの我儘を散々受け止めて下さったではありませんか……
礼を述べ、また見捨てず居て欲しいと懇願すべきは此方に御座いましょう……!」
「ダイちゃん……!」
傍目から見ればギャグにしか見えないでしょうが、然しこれでも当事者にしてみれば真剣そのもので御座います。
「あー、うん、わかったわかった……見た感じ問題なさそうね……
――(さては七都巳くんも実は人間じゃない何かだったりするのかしら……
例えば悪の組織の怪人とか、宇宙怪獣とか……
なんて、流石に荒唐無稽が過ぎるわね)――
……それで何の話だっけ?
ああそうそう、東方の交合魔族に伝わる秘術の件だったわね」
「そういえばそんな話もしてましたっけね」
「危うく失念するところでしたな」
「七都巳くんは兎も角パルちゃんの発言は若干頂けないけど、ともかくなんか話が盛大に脱線しちゃってたわ、失敬失敬……。
それでまあその"重ね契りの術"なんだけどね、まあ原理とかは結構複雑でややこいんだけど、発動手順そのものは結構シンプルなのよ。
てワケで唐突なんだけどね……パルちゃん」
「はい、先生」
「七都巳くん」
「何で御座いましょう、教諭」
「とりあえず、奥の部屋好きに使っていいからサ……あなたたち二人、これからセックスなさいよ」
紫色に怪しく光る水晶玉を手にした教授の口から発せられたるは、実に予想外の言葉……
「この"夢魔水晶"が映し出す指示の通りに、ネ」
「……えっ?」
「……はぁ?」
身構えていた我々としましては、ただ唖然とする他無かったので御座います。
次回、重ね契りの術を終えた二人の何気ないひと時。