第二十二話「恩師曰く、彼女は『恋多き乙女』だそうで……」
劇中どころか告知画像でも述べてる
「恋愛経験の多い奴は関係を継続させる能力がない」は
裏を返せば
「だからこそ関係を継続させる方法を模索すべく
積極的に新しい恋へ向かっていく意欲がある」とも解釈できる(単純に相手を消耗品扱いしている可能性も無くはないが……)。
単に「お前自身がモテないから僻んでるんだ」としか思えない奴は実際図星だろうし
何なら自分はその程度の奴に過ぎないと自己紹介しているようなもんである。
親愛なる読者の皆様方、毎度お世話になっております。
前回に引き続き七都巳大竜がお送りいたします。
さて前回終盤、パル殿に案内されるまま辿り着きましたのは
一見何の変哲もない寂れた空き地に御座いましたが……
「パル殿、ここは一体……?」
「目的地だよ。先方は立場が立場だからね、
セキュリティは過剰なほどガチガチに固めてるんだ。
……ええと、確か今日は五の倍数で上旬だから……あれか。
――"四人の英雄。
騎士三人、不死一体。
六つ足三匹、八つ足一匹。
進みて強き者三名、留まりて強き者一名。
舌回らざる者三人、舌回りし者一人。
変わらざる者三名、変わりし者一名。
偽らざる者三人、偽りし者一体。
振るう物二本、射貫く物一張、撃ち抜く物一挺。
留まる者三名、旅立つ者一名。
鉄流るる者三人、鉄流れざる者一体。
纏う物三人、化ける者一体。
語り継がれし者三人、舞い戻りし者一人。
常世に留まる者三人、異界に降り立つ者一人。
孤軍奮闘せし者三人、愛する者と歩む者一人。
英雄の絆は不壊にして不滅。
誉れ高きその名は、末永く語り継がれん"」
パル殿がそのように唱えますと、狭い空き地全域が眩しく発光……
光が晴れると同時、我々は見知らぬ屋内……
高級感に溢れ乍らもどこか庶民的な酒場らしき空間へと転移していたので御座います。
「いらっしゃい、パルちゃん。そっちの彼が件の子だね? 待ってたよ……」
我々を出迎えたのは、やはり酒場の女主人と思しき身なりをした鳥人と思しき妙齢のご婦人に御座いました。
「ダイちゃん、紹介するよ。こちら今日お世話になるジュライン"先生"……
元フィルミアーナ国立魔術学院の教職員で、
今じゃ認識阻害、催淫、蘇生なんかの
"法的に扱いが面倒な魔術"の発動を請け負ってくれる腕利きの"特殊魔術代行業者"……
未だに政府に顔が利く大物で、魔術師界隈じゃ知らない奴はいないぐらいの超有名人だよ」
「ほう、見るからに只者ならざる風格をお持ちな印象でしたがよもやそこまでとは……」
「ちょっとパルちゃん、あんまり盛ったような紹介はやめてくんないかしら?
プレッシャーがエグいんだけど。
あともう教員じゃないんだから先生ってのもできればやめてほしいわね?」
「いやあ、でも界隈で有名なのは事実じゃないですか。
それに先生はたとえ教員じゃなくても私にとっては天に仰ぎ見るべき偉大な先生ですからぁ~」
「だとしても言い方ってもんがあるでしょうよ……
まあいいいわ。それで……七都巳大竜くん、だったわね? 話はパルちゃんから大体聞いてるわ。
初めまして、私はインゲル・ジュライン。学生時代はこの子のクラスの担任だったの」
「お初にお目に掛かります、ジュライン教諭。
パル殿の恩師の方に面倒を見て頂けるとあれば心強う御座います」
挨拶もそここに、パル殿はジュライン教諭へ本題を切り出しますが……
「それで先生、本題なんですけど」
「ああ、七都巳くんに準特級の認識阻害施す件ね。
それなんだけど、ちょっと予定変更させて貰ってもいいかしら」
「予定変更? 何かあったんですか?」
「いやぁ~具体的に何か起こったってワケじゃないんだけど、
聞くところによるとどうもここ最近各国政府とか国際魔術機関の挙動がおかしいみたいでね。
『近々魔術絡みで何かしら派手に動く腹積もりなんじゃないか』って得意先の有識者から聞いたのよ。
勿論現段階じゃ具体的にどう動くかは定かじゃないんだけど、
専ら魔術絡みの法改正じゃないかって見解が主流なのよね~」
予想外の展開でした。
よもや政界がそんなことになっていようとは……
「えっ、そんなまさか……だって前の時に出た攻撃系魔術習得規制法だって
結局施行どころか可決にすら至らなかったじゃないですか」
「私もそう思うんだけど、奴らってほら面子とか気にするタイプじゃない?
だからリベンジ狙ってる説が有力視されててね……
そういう事情もあるから、今の時期に私が彼に認識阻害を施すのは正直な話、拙いんじゃないかって思うのよ」
「それは……確かに迂闊な行動は控えた方がよさそうですけど、
だからってダイちゃんに準特級認識阻害なしは流石に困りますよ。
もし江夏のシンパや神聖王国の息がかかった諜報員が彼を血眼になって探してたらどうするんですか。
っていうか魂絆証全制覇しようとしてるんですよ?
行く先々何がいるんだかわかんないじゃないですか」
何やら雲行きが怪しくなってまいりました。
「ねぇダイちゃん? なんか先生こんなこと言ってるけど、旅の延期とかできる? できないよね?」
「ええ、果たして認識阻害魔術の安全な発動が可能になる迄どれほどの月日が過ぎるか不明瞭な上、
年月の経過による社会情勢や環境の変化が旅に如何なる影響を及ぼすかも予測不可能であるならば、
余裕をもって迅速に取り掛からねばと認識しております故……」
「勿論私だってその辺の事情は察してるわ。
っていうかあなた達なんか早とちりしてるみたいだけど、
別に誰も七都巳くんの認識阻害を諦めろなんて一言も言ってないからね?」
てっきりジュライン教諭との交渉は難航するものかと思われましたが、どうやらそうでもないようで……
「ただ、今の不安定な情勢下で私が認識阻害魔術を使うのは
もしかすると法的に危ないかもしれないからなるべく控えたいってだけ。
それから当然その代案になる術も見付けてあるの。
あなた達にはそっちを使って貰おうと思って」
「あっ、なるほど~。予定変更ってそういう……」
「であれば良う御座いました……
して教諭、件の代案たる術とは?」
「示し合わせたようなタイミングでマガタマの方から情報が入ってきたんだけど、
この間支社に入って来た子が東方の交合魔族に伝わる秘術を扱えるらしくって」
ジュライン教諭に曰くその名は"重ね契りの術"。
少ない消耗により強力な効果を発揮し、
特級認識阻害魔術相当の自己隠蔽効果に加え
その他様々な恩恵を受けられるのだそうです。
「ただその代わりに対象が結構ピンポイントに限定されるし、
手順もめんどくさくて実質サキュバスとかその辺専用みたいな感じになってるんだけど……
ま、パルちゃんはもう実質サキュバスみたいなものだから
大丈夫っちゃ大丈夫かもしれんないわね」
教諭の発言はあくまで冗談程度のものでしたが、
それでもパル殿は気に障られたのか若干顔を顰めておられます。
「それ、どういう意味ですか。てかあたし、アンデッドですけど」
「……美しく健康的で文武両道かつ才色兼備である、といった意味合いの褒め言葉では」
ムスッとした顔も愛らしくて魅力的だなあなどと思いつつ、
自分は半ば無理矢理フォローを入れます。
然し果たして教諭に曰くは……
「それも勿論あるけど……最大の理由はまぁ、普通に性欲の強さよね。
七都巳くんも実感してるんじゃない?
その子学生の頃からおマセなスケベで悪名高かったから……」
「いやぁ~それほどでもないですけど~」
先程迄の不満そうな顔はどこへやら、
パル殿は満面の笑みを浮かべながら照れ笑いを浮かべております。
……やはり美しいご婦人、特に愛しの恋人には笑顔が一番ですなァ。
「バカ、貶されてんのに照れてんじゃないの。
……まあこの子って見ての通り元が不自然なくらい美人だし、
性格格も男子ウケいいからモテてたし、その上女子からも好かれてたわ。
何なら気になる子がいれば積極的にアタックしてくような子だったんだけど……」
「けど、何でしょう」
「付き合った男から悉くフラれちゃうのよ、パルちゃん」
「そんなまさか、彼女ほどの素晴らしいご婦人が何故……」
「ちょっと先生、その話やめましょうよ~」
俄かには信じ難い話でした。
パル殿程に美しく、かつ行為慣れした素晴らしいご婦人が
然し恋愛経験や結婚歴がまるで皆無であるなど、
耳を疑わずには居られません。
「やめてあげない。だって七都巳くんは貴女の彼氏なんでしょ?
結婚を前提に付き合ってるんでしょ?
だったら当然この事だって知る権利はあるじゃないのよ。
……いい七都巳くん、心して聞いてね?
この子は確かに美人で優秀で性格も良くて、よくモテたし恋愛経験も豊富な恋多き乙女よ」
成る程、やはりどうやら恋愛経験は豊富な方のようです。
でなければ男の扱いがここまで上手い訳はありますまい。
「けどよくモテて恋愛経験が豊富っていうのは、
裏を返せば関係を継続させる能力がないってことでもあるの」
それは確かに……諸説ありましょうが、概ね事実で御座いましょうなァ。
「浮気しまくるとか浪費癖が酷いとか、働かないとか暴力や暴言が酷いとか、理由は数多くあるわ。
そしてそれはこの子の場合も例外じゃない。
ただ勘違いしないで欲しいんだけど、この子は浮気なんてしないし無駄遣いもしない。
働いて自立したいって思いは人一倍強くて、
会社員だった頃は社長からも一目置かれるエリートだったし、
まして愛している筈の相手に暴力を振るったり暴言を吐いたりなんてこと絶対に有り得ない」
「まあそういうプレイは案外好きですけどね~」
「折角褒めてあげてんだからボケ挟むんじゃないのっ。
……ともかく、この子って本当にいい子なのよ」
「であれば、何故……?」
ジュライン教諭の口から出たのは、驚くべき言葉でした。
「……本当に落ち着いて聞いてね?
この子が……パルちゃんが彼氏とすぐ別れちゃう理由はね、
その尋常じゃない性欲のせいなのよ」
次回、パルティータの色魔ぶりが明らかに!