第二十話「時に人には、天命に背いても果たさねばならぬ大義がある」
配信を切り忘れた所為で命を狙われる羽目になってしまった大竜。
果たして彼はどうなってしまうのか……?
親愛なる読者の皆様方、毎度お世話になっております。
前回より引き続き、七都巳大竜がお送り致します。
「とは言えそんな連中の手口など精々闇討ち程度と踏んだ自分は、人混みに紛れたり外出を控えたりと自衛を徹底しておりました。
なれど連中は予想外に有能……罠に掛かった自分めは、事故に見せかける形で殺されてしまったので御座います」
「なるほど、そこからこっちに転生してって感じ?」
「いえ、自分は転生ではなく転移によってエニカヴァーの大地へ降り立ちました。
目覚めた自分を出迎えて下さいましたのは、エニカヴァーの万物万象を司りし神々の集団"ヴァルスメイト神議会"の皆様方……。
効く所に拠りますれば自分めは瀕死であったので、咄嗟にエニカヴァーへ転移させ死の運命を回避させて下さったそうで……」
「ヴァルスメイトかぁ~。あたしも大昔に何度か会わせて頂いたことあるんだよね~」
それはまた意外な過去が……と思う反面、長く生きておられるパル殿であれば
そういった経験があっても何ら可笑しくはあるまい、とも思えてしまうので御座います。
「……でも確かに、あの神様たちならそういうことしそうだわね。妙に気前良くて優しい所あるし」
「直接お世話になった身の上としてもそれは感じずに居れませんでしたよ。
因みに態態瀕死の所を転移させ救って下さった理由をお聞きした所
『敢然と悪に立ち向かう勇敢さと仲間を助けようとする優しさを見て、
ここで終わらせるには惜しい人材だと議会の誰もが思わざるを得なかった』
からだそうで……」
「やっばりかー。ヴァルスメイトって言ったら異世界の不遇な善人とか、志半ばで死んじゃった正義の味方なんかを拾っては、
エニカヴァーでセカンドライフ送らすのが代名詞みたいなとこあるってよく聞くけど、ダイちゃんもそういうタイプだったんだねぇ」
「その辺りのお話もよく聞かせて頂きました。近頃は神々の間で自身が助けた異世界人について自慢し合うのがブームだそうで……。
ともあれ斯くしてエニカヴァーへと至った自分は、神議会の方々に良くして頂きまして、
各神々のご加護により、健康な肉体、高い身体能力と生命力、無制限に鍛えうる頭脳等数々な尊き贈り物を授かったので御座います」
それこそが所謂"チート能力"とでも言うのでしょうか。
努力から逃げ現実から逃げたがる俗人らが喉から手が出る程に欲し、それ故に脳死同然で異世界への転移・転生を夢見るのだとはよく聞きますが、
これらの絶対的な力を労せずして得られるならば或いは脳死で異世界行きを望む弱者が沸くのも納得せざるを得ません。
「そして神々は自分めにこう仰有いました……
『正義の地球人、七都巳大竜。君の働きは素晴らしいものだ。
君は地球では死者となるが、君の成したあらゆる物事は君の同志により受け継がれるだろう。
悪党たちは罰せられ、仲間たちは救われる。それは紛れもなく確定している。
君が望む展開と結末になるとは限らないが、少なくとも全ての問題は一定の解決を見るだろう。
だから安心していればいい。
これから君は地球人としてではなく、このエニカヴァーの民として新しい生涯を始めるといい。
相談や要望は可能な限り聞き入れよう。ヴァルスメイト神議会は、未来永劫君の味方であり続けよう』
とね……」
なんともはや、破格の好待遇に御座います。
「そこで自分は言いました。
『大いなるエニカヴァーの神々よ、我が望みはただ一つ。
母なる地球に生者として舞い戻り、戦いに決着をつけ、
配信者としての生涯を再開し、天寿を全うする事に他なりません』と」
「そこでそう言っちゃうとか、ダイちゃんてばぶっ飛んでんねぇ~♪
神様方にゃ悪いけど、あたし好みな最っ高の返しじゃんか♥
で、神様方はなんて?」
「仰有るには
『地球へ生者としての帰還は、不可能ではないが困難を極める。
君が死に社会から欠け落ちる運命は既に確定していた。
エニカヴァーの神である我々でさえ、命尽きる寸前に手元へ引き寄せ延命する他方法が無かったのだ。
ましてそれを人間たる君が個人の意志で捻じ曲げるとなれば、それは生半可なことではない』
と……。
それまで温厚で柔和で在らせられたダン・ジョウ神が睨み付けるような眼差しのまま静かな怒気を孕む声で厳しく仰有るのですから、
自分めの発言は相当馬鹿げたものだったのでしょう。
然し自分は、如何なる形にせよ生を許された以上、地球での生活を捨てようなどとは到底思えませんでな」
アンリミットの悪鬼どもと決着をつけていないのに、同僚たちや社員の皆様が未だ苦しんでいるのに、
自分の動画や配信、あらゆるコンテンツを好きだと言ってくれた視聴者たちが、まだ自分を見捨てずに居てくれているのに、
自分一人、何不自由無く恵まれた異世界に逃げるなど、到底許される訳がないのだと、心底そう思っておりました。
「決死の思いで神々を説得した自分は、確定した死の運命を捻じ曲げ地球へ帰還する術を教えて頂きました。曰く必要となるのは『オメガの儀』……」
「オメガの儀?」
「ええ。神々曰く、嘗て自分と同じ境遇の……地球で確定した死の運命を回避すべくエニカヴァーに召喚されながら、
地球へ残して来てしまった家族の為、死の運命を捻じ曲げ地球へ帰還すると誓い、見事それを成し遂げた伝説の女傑"箱根鶺鴒"……
彼女が開発し、発動に成功した奇跡の大魔術であるとか」
「それを発動すれば、ダイちゃんは地球に戻れるわけだ」
「如何にも、其の通りに御座います。ただ『オメガの儀』、発動するまでが至難の業であるそうで……
神々に曰く『オメガの儀』発動の為には、エニカヴァーでも特に希少で上質な“十種の魔力”が必要とのこと……」
「希少で上質な十種の魔力、ねぇ……まさか、天瑞獣の魔力が必要とか言わないよね?」
「……よくご存知で。如何にも『オメガの儀』には天瑞獣の魔力……それも各個体より譲渡されし魂絆証の魔力が必要となるので御座いますよ」
「うっわあ、マジか……」
パル殿が憔悴しきったような表情になるのも無理からぬ話に御座いましょう。
何せ自分の求める"天瑞獣"とは、エニカヴァー各地の秘境魔境に住まう強大な十種の強大にして神聖なる生命体……
そして魂絆証とは十種の天瑞獣其々が『心より認めた特別な存在』にのみ譲渡しうる極上の魔力を有す究極の秘宝……
集めるどころか、持ち主である天瑞獣の住処へ辿り着く段階からして尋常でなく困難なのは言うまでもありません。
「然し自分めは何としてもオメガの儀を発動せねばならぬ……
決意を聞かれた神々は、長く過酷な旅と壮絶な戦いをも乗り越えられるよう、更なる加護と大いなる力を授けて下さいました」
「その大いなる力ってのが、シンズドライバーってわけだ」
「其の通りに御座います。邪悪魔神器シンズドライバー……
装着者の肉体と同化し、その者に罪深く悍ましい怪物への変身能力を授ける脅威の装備品……
魂絆証を集める旅には、其れ程の力が必要なので御座います。
到底単独での達成は困難……よって自分めは、過酷な旅に同行しうる協力者を探しました。
結果として当時結成されたばかりの魔王討伐隊……
勇者江夏率いる一団への加入を決意したので御座います。
魔王討伐の旅はエニカヴァーの各地を巡らねばならず、即ち一団の構成員として同行していれば、その過程で天瑞獣との遭遇は叶うであろう、と」
「賢明な判断だと思うよ。一人で天瑞獣の住処を目指そうなんて無謀通り越して自殺行為だからね……」
「と言って、その一団を追放処分になったとあっては賢明な判断も何もありませんが……」
「それは言わないお約束。てか、だからこそあたしに協力を求めてるワケでしょ?
十種の魂絆証を集めて、オメガの儀で地球に帰る為に、さ……」
「それは勿論、其の通りに御座いますが……宜しいので?」
計画に対しあくまで乗り気なパル殿の態度に、
自分は内心驚いておりました。
何せ長々話しながら、拒否されたらばどうしようか、パル殿の関係と地球への帰還どちらを取るべきか……
と悩んでいたものですから、てっきり『流石に手は貸せない』と断られるか、
さもなくば『神々の提案通り地球のことは地球に任せて自分とエニカヴァーで暮らさないか?』と提案されるものとばかり思っておりましたが……
「うん、いいよ。協力する。寧ろその旅、連れてってよ。
だってさあ、最高に素敵な彼氏と往く、とんでもなくヤバい世界秘境巡りの旅でしょ?
そんな極上の婚前旅行……行かないなんて選択肢、そもそもあるわけないじゃんね♥」
眼前の我が恋人は、あたかも遠足を心待ちにする稚児が如く嬉々として、
興奮気味にそう口走るので御座いました。
次回、衝撃の(?)ホムセンデートが始まる!