第十九話「暫し待たれよ。今タイトルを回収する」
やっとタイトルを回収できる……!
読者の皆様方、毎度お世話になっております。
前回より引き続き、七都巳大竜がお送りします。
「その名はボコ・カーマイン……
当時中堅であったアンリミット・インクに所属していた売れっ子の"コボルト系バーチャルストリーマー"であり、後には自分の指標となられる御方に御座いました」
思えばあそこが、運命の転換点だったのでしょう。
「指標ってことは、まさか……」
「はい。療養中に彼女のファンとなった自分は、彼女が身を置くVtuber業界への興味関心が高まり、
気付けば配信者になる為の勉学や訓練に励んでおりました」
元々電子機器に疎かったもので、勉学や訓練は過酷を極めました。
なれどカーマイン殿、ひいては配信業界への強い憧れと熱意を糧に尽力を惜しみませんでした。
「程なく療養を終え社会復帰を果たした自分は、尚も自力で準備を続けましてな。
自腹で環境を整えつつ、喋りを練習し、動画編集を学び、外注でモデルを拵え、
そして遂に、念願かなって個人活動のVtuber『人造ドラゴン ハイド・ロジラム』としてデビューを果たしたので御座います」
"ハイド・ロジラム"は肩書きの通り人為的に生み出されたドラゴン型の生命体であり、様々なジャンルの動画投稿を軸に時折ライブ配信を行うのが主な活動内容でした。
「凄いじゃん、そういうのって中々できるもんじゃないよ」
「恐縮に御座います。労働と並行しての活動は過酷に御座いましたが、
それでも投稿した動画や配信を楽しんで下さるリスナーの皆様を想えば何ら苦ではありませんでした。
それと、当時は後に第二次Vtuberバブルと呼ばれるようになる時期であり、同業種への注目が高まり隆盛を極めていた時期に御座いましてな。
故にVtuberに関わる企業も乱立傾向にあり、各社は人員の確保と新たなるタレントの擁立へ躍起になっておりました。
だからでしょうか、当時あくまで趣味程度に小規模な活動をするに留まっておりました自分めも企業様よりスカウトを受け、更なる高みを目指すべく契約……
その企業様こそ何を隠そう、憧れのカーマイン殿も所属しておられる老舗大手のアンリミット・インクであったのですよ」
一体何の偶然かと思いましたし、当初は信じられませんでしたが、ともあれ自分にとっては千載一遇の好機に他なりませんでした。
「なるほど、指標だった憧れの先輩と同じ会社で働けるようになったわけだ」
「如何にも其の通りに御座います。アンリミット・インクでの生活は有意義にして充実しておりました。
カーマイン先輩やその他親しくしていたタレント・社員の退社、初代社長の退任など悲しい出来事もありましたが、
それらも含め全てがあの頃を象徴せし輝かしい想い出と認識しております」
当時こそはまさに、順風満帆の絶好調に御座いましたが……
「然し経営者の代替わり以後、アンリミット・インクは利益や面子に囚われる余り堕落し、
タレントや社員を苦しめる悪徳企業へと落魄れてしまいましてな……」
「それって……ダイちゃんも被害受けたんじゃないの?」
「まるで無傷であったとは言えませんが、当時の自分は社内でも五指に入る稼ぎ頭に御座いましたので比較的安全圏に留まれておりましたな……」
ただそれでも、アンリミットに在籍し続けようものなら何れ如何なる切っ掛けからどうなろうとも可笑しくは御座いません。
故に自分めは、事務所を去るべく行動を起こしました。
「逃げ道と自衛策を確保し、専門の弁護士先生にも協力を仰ぎ、事務所を相手取り徹底的に戦い抜きました。
結果、弁護士先生他様々な方のお力添えもあり自分は無事退所……苦楽を共にし同じ釜の飯を食った同僚たちや社員の皆様を救うには至らなかったものの、忌まわしき経営陣との絶縁を成し遂げたので御座います」
「その後はどうしたの? 配信活動やめたとか?」
「いえ、自分には蓄えが御座いましたし、配信活動そのものは軌道に乗り、専業であっても会社員時代より遥かに稼げる程に安定しておりましてな。
あくまで個人運営の形ですが、配信業業は継続しておりましたよ」
企業の後ろ盾が無くなったのは深手でしたが……一方見方を変えれば枷が取れたも同義に御座いますからして、
より一層精力的に、自分と周囲の双方が満足できる方向性での活動を続けられたので御座います。
「ただそうは言っても、諸事情から事務所に残らざるを得なかった同僚たちや社員の皆様が気掛かりでもあり、自分めはどうにか彼等を救えぬかと画策しておりましてな」
「優しいねえ、ダイちゃんは。あたしが君ぐらいの歳ん時とか本当に自分のことで手一杯だったもん。
けど逆に言えば、それだけ同僚のみんなや社員さん達がいい人だったってのもあるんだろうね」
「まさに仰る通りで……何でしたら経営陣も単に邪悪なだけではなく、配信者としての自分めを高く買ってくれてはおりましたのでな。
恐らく邪悪でこそあれ、経営者としては少なくとも全くの無能ではなかったのでしょう」
熟考の末、自分は興信所への依頼を決断しましたが、とは言え興信所の方々も多忙につきアンリミットの方面へ専念する訳には行かぬのが現実……
「なればこそ自ら動く他なしと決意した自分めは、嘗ての同僚たちや社員の皆様と密かに連絡を取り合い、
アンリミットが手を染めた悪事の証拠集めを続ける等、秘密裏に同社との決戦の準備を進めていたので御座います」
「うっわ、如何にも危なそうだけど大丈夫だったの?」
「上層部は経営者としてこそ有能なれど、悪党としては二流でしてな。
連中のセキュリティは平成中期程度、令和の情報化社会にあってはザルも同然につき、計画は順調に進みつつありました。
然しある時、自分はうっかり配信を切り忘れてしまい……
結果としてアンリミットの悪事の証拠は予定より早く、此方の準備が不十分な段階で流出してしまったので御座います」
これが俗に言う"猿の尻笑い"でしょうなァ……。
「結果、民衆は怒り狂い、政府の指示を受けたメディアは隠れ蓑にすべくアンリミットを糾弾……
同社は流出情報は事実無根と釈明するも到底信じられず、火に油を注ぐ結果を招く始末。
かくして予定外とは言え、アンリミットの悪事を世に公表できたならば結果オーライと、自分自身状況を楽観視しておりました」
「まぁ~そこは普通楽観視しちゃうよねぇ。あたしが当時のダイちゃんだったら、証拠掴んだ時点でメディアに流しちゃうもん」
「……今思えばあの時の自分は余りにも間抜けに御座いました。
思い返してみるに当時といえば、メディアミックス企画がヒットした上、さる大手企業様のご厚意によりハイド・ロジラムはさる人気ネットゲームへの出演を果たしておりましてな……成功続きで浮足立っておったのでしょう」
当然と言うべきか、危機は去っておりませんでした。
「当時上層部はかなり追い詰められておりましてな……
いよいよ本物の悪党に零落れでもしたのでしょう、事もあろうに傾く経営を放置してまで報復を企て、
騒動を引き起こす切っ掛けとなった自分めを始末せんと刺客を送り込んできたのですよ」
「しっ、刺客ぅ!? 地球の日本でぇ!?」
「はい。無論本職の殺し屋などではなく、あくまで会社が金で雇い入れたそこいらの破落戸に御座いましょうがね……」
「それでも脅威なんだよなあ……」
それはその通りで御座います。
「とは言えそんな連中の手口など精々闇討ち程度と踏んだ自分は、人混みに紛れたり外出を控えたりと自衛を徹底しておりました。
なれど連中は予想外に有能……罠に掛かった自分めは、事故に見せかける形で殺されてしまったので御座います」
よもや配信の切り忘れが死を招くなどと、誰に予想できるでしょうか。
次回、大竜はエニカヴァーで何を目指すのか!?