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第十八話「今こそ明かそう、我が過去を」

明かされる大竜の過去。

どうやら彼は元から個人勢のVtuberではなかったようで……

 読者の皆様、毎度お世話になっております。

 前回より引き続き、朝方の食卓から七都巳大竜がお送り致します。


《だからね、そもそも防犯ブザーっていうのは

 身の危険を周囲に報せて助けを呼ぶ為の、身を守る為の道具じゃないですか。

 それをですよ、他人を脅していう事を聞かせる為の道具にする、しかも遊びみたいな軽い気持ちでやってしまうっていう、その発想というか思考回路ってんですかね。

 それがもう有り得ないというか》

《もうこれは親御さんとか教育現場の責任にするのもなんか違うような気がするけどね、

 なんだろう、近頃の子供たちは何故自分が不自由なく生活できていて、

 何故危険な時には守って貰えるのか、その本質を理解してないんじゃないかね?

 子供たちに限らず、社会的な弱者や少数派と言われる人たち全般に言えることだけどね》


 テレビのバラエティ番組では、

 悪質な行為に走る悪童らについてコメンテーター諸氏が意見を交わしておりました。


「なーんだろうねぇ~、最近の子供は刺激に飢えてて並大抵の娯楽じゃ満足しないって言われて久しいけど、そこまでやるもんかねぇ」

「労せずして莫大な利益を得ようと横着をした結果に御座いますなァ。

 地球では『エビで鯛を釣る』などと言いますが、連中のやり口は最早釣りですらなく、

 漁師を脅し鮪を奪うが如き愚行。愈々《いよいよ》以て救えん愚物に御座いますわ」

「ねー。子供だから想像力がないとはいえ、だからこそ大人がそういうとこしっかり導いてあげなきゃいけないハズなんだけどね~、

 近頃は自由意思とか多様性とかほめて伸ばすとかその辺はき違えたパチモンの人道主義者が子供を必要以上に甘やかすからどうにもなんないわ。

 こんなん授業で『ほら吹き娘』とか流しとけばいいんだって」


 『ほら吹き娘』……

 エニカヴァーの歴史や文化に関しては幾らか事前知識を持ち合わせておりましたもので、

 そのタイトルを聞いた自分はすぐに内容が頭に浮かびました。


「……様々な嘘で巧みに村人を騙していた小娘が周囲からの信用を失い、

 遂には誰にも助けられず悪党に攫われ、異国で奴隷となり破滅する……といった内容の昔話でしたかな」

「そうそれ。結末とか脚色されがちなヤツね。

 なんか実話説まであるらしいよ?

 あとは有名な『教科書筏』とか、昔話っていうよりは古いドラマだけど『久遠薬くおんやく』『無敵の鎧』『真実告げる九官鳥』、

 あとは『フリマアプリに見抜かれる』とかそのへんのさ、

 恐怖心に訴えかけてくるようなコンテンツで無理矢理にでも教え込まないとダメなんじゃない、多感な時期にさぁ?」

「自分めも全く同意見に御座います」

「共感してくれて嬉しいよ」


 『教科書筏』は邪悪な小僧がぬかるんだ道を渡るべく学校で用いる教科書を筏……というよりは橋か飛び石の如く用いようと踏み付けたばかりに神罰が下り、

 溺死の後冥界へ囚われ終わりなき生き地獄を味わうといった内容の昔話に御座います。

 ……その後悔い改めた小僧は鳥に転生し、贖罪の果てに彼の魂は救われて物語は終わるのですが、とは言え小僧の邪悪さや冥界の描写などから昔話の中でも屈指のホラー作品と名高く、

 特に過去テレビ放送された人形劇はしばしばトラウマものの問題作として話題に上がります。


 『久遠薬』『無敵の鎧』『真実を告げる九官鳥』は

 一話完結式の短編集めいたテレビドラマ『幻想商会』に名を連ねる作品群であり、

 何れも謎の組織"幻想商会"の販売するマジックアイテムを購入した客たちの生涯を描いております。

  無限の容量を誇りあらゆる終焉を消し去る薬液を手にした悪漢が、自らの終焉を消し去り不老不死になり、その後薬を悪用し金儲けを企む『久遠薬』

  野心を持て余す兵士が労せず手柄を立てようと幻想商会の商品を用い成り上がっていく『無敵の鎧』

  他力本願で金に目の眩んだ女が九官鳥の告げる予言に翻弄される『真実を告げる九官鳥』

 ……揃いも揃って救いのない結末乍ら評価の高い名作ばかり。


 『フリマアプリに見抜かれる』は『幻想商会』の精神的リメイク作品であり、

 怪しげな商品を販売するフリマアプリでにのめり込んだ学生三人組の末路を描くもので、

 作品の完成度が高いばかりか、特撮テレビドラマ出身である若手新人俳優たちの出世作としても知られております。


(作)皿(者)<メタ的なこと言うと大体地球の作品のパロディなんだけどな。

 たとえ真実でもそういうことを作中で堂々と言うなよ……>(-甘-;)


「ところで話は変わるけど……昔話といえば、まだ聞けてなかったよね?

 ダイちゃんの過去、とかさ。良かったら、聞かせてくれないかな?」


 暫く話し込んでいた所、パル殿にそう切り出されました。


「……そう言われれば、自分自身失念しておりました。

 ええ、構いませんとも……ではお話しさせて頂きましょう、

 この七都巳大竜は如何にして今に至るのか、その経緯と全容を……」



 (=甘=)<やれやれ長かった……漸くタイトルを回収できる……



「……今からもう十年近く前になりますかな。

 当時地元を離れ会社員として働いてた自分めは、互いに愛し合っていた妻との凄絶な別れを経験したのです……」


 妻は自分にとって初恋の相手であり、我が童貞を捧げた相手でもあり……

 だからこそ、妻との別れは我が生涯にあって五指に入る程の悲劇に御座いました。


 (T甘T)<パル殿との恋を"生涯二度目"と称したのも、つまりはそういった意味合いで御座います……


「大切にしていた妻を喪った悲しみは凄まじく"心に穴が空いたが如く"とでも言いましょうか……

 心臓が抜け落ちたような、頭蓋内に空洞ができたような、

 そしてその隙間を、忌まわしく不愉快な何かで満たされるような感覚が何日、何週と続きました。

 当時の自分は心底絶望に打ちひしがれ、精神を病みかけたものです」


 それほど迄に、妻の存在は自分にとって大きかったのでしょう。


「然し乍ら、家族や友人知人、職場の上司といった周囲の人物を精神的支柱とし、自分めはどうにか立ち直り、以前と変わりない日々を過ごし乍ら労働に励んでおりました」

「うおわ、いきなりハード……因みに嫁さんとの別れってのは、具体的にどういうのだったか聞いても……?」


 当然、説明そこに関しても説明せねばなりますまい。

 思い返すだけでも辛い話ですが……


「妻との別れは、二度ありましてな。……離別からの、死別に御座いました」


 そう。即ち自分は、この世の誰よりも愛していた筈の妻を二度も喪ったので御座います。


「一度目の別れは……このような言い方をすると、

 故人を貶めるようですが……元妻による、致命的な裏切りに御座いました。

 彼女は、何処ぞで知り合った共犯者の男と結託し、秘密裏に罪を重ねておりましてな……」


 その罪が何かは、お察し下さいませ……。


「法的・倫理的及び社会通念上の有責者は元妻であり、元妻とその共犯者からは慰謝料を支払われこそしたものの、或いは己自身にも何かしらの原因は在ったのだろうと、今でもそう思えて為りませぬ……」

「……おっけー、それ以上は言わないで……大体察したよ……」

「嘗ての愛こそ冷めきったものの、それでも彼女が嘗て大切な我が妻であった事実に変わりはなく、

 故に自分めは、元妻がせめて分相応の幸福に至りうるよう密かに祈っておりました」


 あの時、元妻は間違いなく己の罪を悔いていると感じました。

 高額な慰謝料を自力で支払い、未練がましく復縁を迫るどころか、姿も現さなかったのです。

 そも離別前は良き妻として献身を惜しまない人格者でしたし、悔い改める気持ちがあるならば、ある程度救われるべきだったでしょう。


「今思えば彼女は不運であり、不幸だったのでしょう。

 なればこそ自分は、せめてその罪が赦され、彼女にも幾らかの救いがあるべきと考えておりました。

 然し現実は余りにも非情……我が祈りが届くことはなく、元妻は離別より僅か半月後、嘗ての共犯者に命を奪われたので御座います……」

「……」


 逮捕された共犯者の供述は余りにも身勝手であり、自分は当然共犯者を憎みましたが、

 それ以上に何より元妻の余りにも報われぬ最期がひたすらに悲しかった……。


「周囲は妻の死を自業自得の末路と言いました。

 然し自分は納得できなかった……何もそこまでされるほど、彼女は罪深くなどなかった筈ではないかと……。

 その後、絶望と悲しみを押し殺し乍ら職務を続けておりましたが、心労から体調を崩し入院してしまいましてな」


 思えばあの入院こそ、自分にとっては運命的な出会いに繋がる転機であったのでしょう。


「療養中、何気なくネットを彷徨っていた所、とある配信者ストリーマーの動画を見付けたのです。

 その名はボコ・カーマイン……当時中堅であったアンリミット・インクに所属していた売れっ子の"コボルト系バーチャルストリーマー"であり、後には自分の指標となられる御方に御座いました」

次回、遂にタイトル回収!

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