第十七話「案内された新居は彼女の自宅、それも大国都心部の一等地……」
新年投稿第二弾。
例の空気読めないクソプレートくんが起こした地震は
わりと沈静化したのかどうなのかわかりませんが、
とりあえず被害に遭われた方々の無事を祈ろうと思います。
読者の皆様方、毎度お世話になっております。
自分、七都巳大竜と申します。
より詳細に、現在迄の状況を含め簡略化した自己紹介をさせて頂きますと……
「上がっていいよ~。
わりかし散らかってるけど、座るスペースくらいはあるハズだからさ」
「では、お邪魔致します……」
紆余曲折を経て恋仲となり、序でに組ませて頂く運びと相成った
フリーランスの魔女、パルティータ・ピローペイン殿のご自宅へ案内して頂いた
本作の主人公に御座います。
(=甘=)<さて、そんな彼女のご自宅というのがまた驚きでして……
「然し驚きましたな……。
稼いでおられるとは聞いておりましたが、
よもや先進国大都市の一等地に建つマンションにお住まいとは」
「まあねぇ~。
一時は山ん中とか森の奥なんかに家建てて住んでたんだけど、
利便性とか権利問題とか色々考慮すると
家賃高くてもこういうとこ住んでた方がなんだかんだ楽だからさ~」
パル殿の住まいはベイレイン帝国と隣接する民主主義の大国ビットランス……
その中でも有数の大都市として名高いヴェーノ市の一等地に建つ
高級マンションの一室に御座いました。
地上四階に位置するこの部屋は、
構造上窓の向こうから程よく外の都市を見渡せる特徴が御座います。
(夜更け乍らこんなにも明るい……まさに眠らぬ街、か)
深夜帯にも拘らず業者や民衆が眠らず動き続ける様子からは、
ヴェーノ市を擁するビットランス……
ひいては異世界エニカヴァーそのものが内包する底なしの活力を
視神経からなみなみと注ぎ込まれるが如き感覚をも覚えそうになりました。
「物とかその辺の適当に使っていいよ。
洗面台とトイレの位置はわかるよね?」
「畏まりました。
間取りに関しましても凡そ把握済みですので問題ないかと」
「わかんなかったら遠慮なく聞いてね~。
とりあえず管理会社にはあたしの方から上手く言っとくから、
手続きとかは心配しないでいいよぉ~」
「はい、有り難う御座います。
何とお礼を申し上げればよいやら……」
「気にすることないって、あたしも好きでやってるんだしさ……
夜が明けたら生活用品とか買いに行こうか」
「お世話になります……」
「大丈夫大丈夫、長々生きてる分こういうの慣れてるから。
……あとは、働き口ってことで冒険者ギルドに登録申請……
の前に住民票とか身分証の偽造と、
念の為に認識阻害系のマジックアイテムも手配しといた方がいいかな~。
とりあえずダイちゃんは特に悩まなくていいからね。
あ、でも住民票に使う用の偽名は考えといて欲しいかも。
まあ、概ねややこしいことはあたしに任せといてくれれば大丈夫だし、
少しずつ覚えてけばいいから」
パル殿の優しさを肌身で感じた自分は、
この上ない幸福と安心を感じておりました。
江夏とは比べ物にならぬ思い遣りの心に、感動さえ覚えた程です。
「はい。パル殿のお手を煩わせぬよう、誠心誠意尽力致します」
「いやまあほんと、無理のない範囲でいいからね~。
とりあえず今日はもう遅いし寝よっか……
って、そうだベッド一つしかないんだった。
しょうがない。
ダイちゃん、そこの突き当たり右に曲がったとこが寝室だからベッド使っていいよ。
あたしソファで寝るから」
「……僭越乍ら、居候風情が家主を差し置いて寝床を独占するなど言語道断では……?」
「そうは言うけど、若人を雑に扱ったら年長者の面子が立たないんだよ~」
若人と、年長者……
確かにその通りですが、どうにもしっくり来ないのは自分だけでしょうか。
「てかこのソファ、ダイちゃんが寝転がるには明らか狭めだしさ、
まして寝返り打とうもんなら確実に落っこちるじゃん」
「寝返りで落下の恐れがあるのはパル殿もでは御座いませんかァ。
ともあれパル殿もしっかりした床で寝て頂かなければ……
如何に不老不死とは言え、
年上の方を寝床から追い出すなどそれこそ若輩者の沽券に関わるやらかしに御座いますぞ」
「う~ん、頑なだなぁダイちゃんは……」
そうして頭を抱えたパル殿が出した結論は……
「よし、かくなる上は間を取って、一緒に寝よう!」
「……成程、同衾……その選択肢が御座いましたな。
正直な所、盲点に御座いました」
「嫌ってこたぁないでしょ~?」
「ええ、パル殿さえよろしければ是非とも」
斯くして我々はその晩、一つの床にて同衾し眠りに就いたので御座います。
といって、素直に就寝へ至ったかと言えばそうでもありませんでしたが……。
(=甘=)<因みにベッドはパル殿の寝相の悪さを考慮してか
元来大振りなものを用いていたようで、
自分との同衾も特に支障なく進行したので御座います。
「お早う御座います、パル殿」
「おはよ~ダイちゃん。昨日はよく寝れた?」
「パル殿のお陰もあり、快眠に御座いました……」
翌朝目覚めると、パル殿は既に目覚めて朝食の支度をしておられました。
「手伝いましょうか」
「いやぁ、もう大詰めだから座って待っててくれていいよ~」
とのことなので、一足先に食卓へ腰掛け待つこと暫し……
「お待たせ~」
「ほう、これはまた……
何とも色鮮やかにして豪華に御座いますなァ。
何よりこの漂う芳香が食欲を刺激する……」
運ばれて来ましたる料理は、
所謂地球でいうところの地中海食に属す料理たちに御座いました。
主にはパスタやピザ等のイタリアンが中心に御座いますが、
ギリシアのムサカ、スペインのパエリア、モロッコのバスティラなど
――より厳密には地球のそれらとよく似たエニカヴァー料理に御座いますが――
が木製のテーブルへ所狭しと並べられておりました。
「地球だとこういうのイタリアンとか言うんだっけ?
ま、見た感じは派手だけど大体は冷凍食品とかディスカウントストアの安い総菜、
あとは乾麺茹でてソースかけただけとかそんなんばっかりだから、
そんな大したことはしてないけどね」
「御謙遜を。
これだけの量を準備なさるとなれば、
それだけの作業でもかなりの大仕事に御座いましょう?
そもそも自分にしてみれば、食事を用意して頂けるというそれ自体からして
既に感謝してもしきれませぬ故」
「ダイちゃんさぁ、勇者パーティでどんな生活してたの……?」
「……別にそこまで酷い目には遭わされておりません。ええ、そこまでは」
何やら語弊のある言い方でしたな……。
(=甘=*)<お料理は何れも絶品に御座いました……。
次回、大竜の過去が明らかに……