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第百話「引導を 渡すつもりが 救ってた(五・七・五)」

女子大生、呉空初の末路とは……

 場面は前回から引き続き、東方は陽元の大都市"螢都"に建つ螢都総合科学大学の敷地内。

 道を違えた挙句化け物と化したアホ女子大生に、我が愛しのダイちゃんが引導を渡しちゃうよ~。


「罪業背負う七竜に乞う……その悪しき力振るう権能を、今一度我に貸与されたし。

 顕現要請、邪悪魔神器シンズドライバー……!」

[SIN'S DRIVER!!]


 ダイちゃんの呼び掛けに応じて腹に巻き付くシンズドライバー。ルシャンテ共和国の海水浴場以来、実に十四話ぶりの登場だ。


(さて、ダイちゃんはどれを選ぶかな……)


 邪悪魔神器シンズドライバー。

 天瑞獣探しを決意したダイちゃんにヴァルスメイト神議会の神々が授けたこのベルトは、装着した者を七大罪の各悪徳に対応した怪物に変身させる機能がある。

 その姿や能力は装着した者の影響を受ける傾向にあって、ダイちゃんの場合だと、地球の先人たちが七大罪と紐付けた魔物や動物の特徴と、これまた大罪に紐付けられた何かしらの特殊能力を持つ合成獣キメラになるんだ。


「いざ、顕現……」

[KEN-GEN!! INCARNATE LAZY DRAGON!!]

『我が罪悪。我が惰性。我が極冷。即ち罪竜、フリージング・スロウス』


 ダイちゃんが変身したのは、

 オオナマケモノをベースに不死鳥とカタツムリを掛け合わせたような……っていう紹介文がもう意味不明だけど、実際そう紹介せざるを得ない不気味な白い怪物。

 その名も"凍り付く怠惰フリージング・スロウス"。

 ここまで本編を読み進めてくれてる読者みんななら多分知ってると思うけど、殆ど何でも凍らせる程の強力無比な冷気を操る能力に加えて、ダイちゃんが変身する中ではトップクラスの防御能力を誇る形態だ。


「ガアアアアア! ナンヤゴラアアアア!?

 ヤメロボケエエエ! ハナセッチュウトルヤロガアアアアア!」

『……何処迄も面倒な奴だ。騒がしいんだよ、その口は閉じておけ……!』

「ガッ!? グガッ!? ナン、ヤア!? ナンデコンナ、クソサムイネンッ――」


 一瞬で氷漬けになった大鬼はそのまま動かなくなり……


「ヤ、ッメロッ! タス、ケェッ! タ、スケテ、スバ――」


 程なくして粉々に砕け散り、死んだ。


「……我乍ら呆気ない幕引きでしたなァ」

「ま、死ぬ時なんてわりとそんなもんだよ。……然し法的に問題ないとは言えあの妹ちゃんには悪いことしちゃったかもね」

「あの様な姉であっても、しっかり家族の一員として慕っておられましたからなァ……。

 家族からも大切にされておったようですし、堕落さえせねばよい姉・よい娘であったのでしょう。

 然しなればこそ、ここで引導を渡してやるのが慈悲なれば……」


 戦いに勝ち、脅威を退けたにも拘わらず、あたし達の心はどうにも晴れなかった。もしかすると、二人揃って今更乍らあのアホ女子大生に同情してしまっていたのかもしれない。


(血も涙もないような悪党が敵に同情なんて、らしくないなあ)


 あんな奴、この先生きててもロクなことにならないだろうし、せめてここで死なせてやるのが正しいんだろうけど、逆に言えば贖罪から逃げる手助けをしたみたいで今一釈然としないっていうか……

 態々休日削ってまで説得しに来るぐらい心配してくれる家族がいる事実は、喉の奥の絶妙な位置に引っ掛かった焼き魚の小骨みたいにあたしの心を苛んでいた。


「……まあいいや。とにかく大神先生の研究室に向かおう」

「ですなァ。といって、此度の事態を受けて既に避難しておられるやも知れませんが」


 とまあ、何だかしんみりした空気になってたんだけど、暫くしてあたし達は砕け散って溶けつつある氷片の中に何かを見付ける。


「……ん? あれって、まさか……」

「よもや、そんな事があろう筈は……!」


 まさかと思って近寄ってみると……何とそこにはあのアホ女子大生が気絶した状態で倒れていた。

 かなり衰弱しきってるけど脈も呼吸もある。

 つまり……


「まさか、生きてる!?」

「信じられん、どういう原理だこれは……」


 正直現実とは思えなかったけど、ともかくこいつが生きてるんなら話は違ってくる。

 あたし達は急いで警察へ通報、アホ女子大生の身柄を確保して貰った。


「――つまり、此方のお嬢さんが突然怪物なって暴れ始めたと?」

「そうなりますなァ。何かしらの魔術か変異系の呪術のようで……」

「何でしたら一部始終動画に残してありますけど」


 警察相手に事情聴取……

 世の中には不倫女を庇って『男ならそのぐらい許してやれ』とかアホ過ぎる説教垂れた無能警官もいるって聞いてたから、最悪あたし達が犯人にされるんじゃないかとビクついてたけど……


「うーむ、この人らが嘘ついとるようには思えへんなァ」

「鑑識から結果が出ました。調査結果によると――」

「――なるほど、つまり二人の証言に間違いはなさそうやなァ」


 対応してくれた警察官はみんないい人で、こっちの主張と事の顛末を撮ってた動画を確かな証拠として認めてくれた。


「このお二人は何も悪うありまへん! 全部うちのお姉ちゃんが悪いんです!」


 更にあの時、姉を思う余り逃げるに逃げられず、物陰から事の顛末を見ていた妹ちゃんの証言が決め手になって、

 あたし達の行為は正当防衛とされ、奇跡的に何の罪にも問われなかったんだ。


 しかもそれどころか、直後に妹ちゃんの話を聞いたご家族の方々が『是非ともお礼をしたい』と言い出したんだけど、

 こちらのご実家こと"呉空くれそら家"は地元でも有数の大地主で、家系図には名だたる経営者や官僚、

 医者に教職員、学者から政治家迄もが名を連ねる所謂ロイヤルファミリーなんだそう。

 更に驚くべきことに、

 何の偶然かこの日あたし達が話を聞く予定だった太神将臣先生は呉空家の分家筋出身だそうで、あたし達が先生と会う約束をしていると知った呉空家側は彼とも会わせて頂けるよう話を進めて下さったんだ。


「まさかここまで上手く話が進むとはねぇ……」

「全く驚かされるばかりに御座いますなァ……」


 てなワケで呉空家のお言葉に甘えさせて頂いたあたし達は、早速大神先生の待つ呉空家の本邸へ向かったのさ。

次回、遂に大神正臣と接触!

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