お皿の上で 2
「ねえ、これは一体どういうつもりなのかしら? あなたの意図がさっぱりわからないのだけど」
お嬢様はメイドに尋ねた。
「お嬢様が変わった料理を召しあがりたいと仰るので、連れてまいりました」
「いや、連れてまいりましたって言われても……。こんな小さな人間がいたってこと?」
「いえ、そこはまあ、元々はお嬢様よりも大きいくらいのサイズだったのですが、小さくなってもらったのです。お嬢様の為にうちの屋敷に来ないかと尋ねたら二つ返事でオッケーを頂けたので、少し小さくなってもらいました。こんな普通の子が、素敵なお嬢様の栄養になれるのですから、きっと彼女も喜んでいるかと」
メイドの丁寧な回答を聞いてお嬢様は呆れて頭を抱えた。状況を理解してしまったわたしは、クラリと眩暈を起こして、お皿の上で座り込んでしまった。
「えっと、あなた泣き止みなさい。大丈夫よ、わたしはあなたのことは食べたりしないから……」
お嬢様ができるだけ優しい口調でわたしに話しかけるが、まったく顔を上げることができなかった。俯いてお皿の方を向いたまま、シクシクと涙を流し続けていた。
わたしの手足を縛っている白い縄だと思っていたのものは調理用の肉を縛ったりするためのタコ糸だったようで、それに縛り付けられているため、涙を拭うこともできない。
涙や鼻水で汚れてしまった顔は恥ずかしくて2人に見られたくはなかった。特に体の全てから気品溢れるオーラが流れているお嬢様にみっともない姿を見せるのがとても恥ずかしかった。
「ねえ、怖がらなくても大丈夫よ。顔を上げてちょうだい」
お嬢様が優しい声を出してくれているけれど、顔を上げることはできず、俯いたままでいると、メイドが容赦なく鋭い声を出す。
「こら、お嬢様があなたに話しかけているのですから、きちんと顔を見て返事をしなさい! 無視するなんて失礼ですよ」
メイドがそう言って人差し指と親指で摘まみ上げて、お嬢様の瞳の前に差し出した。
「やめてぇ……。見ないでください……」
気品溢れるお嬢様と対比されるわたしの涙と鼻水でぐしょぐしょになった顔。鏡がないから実際にはわからないけれど、きっと酷い顔をしているに違いない。それをわたしの体くらい大きなお嬢様の大きな瞳が覗き込んでくる。
「恥ずかしがらなくても大丈夫よ、あなたのお顔とっても綺麗よ」
お嬢様がほとんど触れるだけくらいの弱い力でそっとわたしの顔を拭うと、オペラグローブに体液が染み込み、涙と鼻水が拭きとられた。
「……可哀想だから紐をほどいてあげなさい」
お嬢様がため息まじりにメイドに指示を出すとメイドが首を傾げた。
「縛り付けてからの方が食べやすくはありませんか……? あ、そういうことですか。一旦服を脱がしてからじゃないと食べられないからですね!」
「違うわよ! わたしは食べないって言ってるでしょ!」
勝手にメイドが話を進めていったので、お嬢様がムッとした強い口調で注意をした。
「食べないって、どうしてですか? わたしがせっかく可愛らしい子を連れ帰ってあげたというのに」
「見ればわかるでしょ。こんなに嫌がって泣いているのに食べられないわ」
「そうですか……」
メイドががっかりした口調で言うので諦めたのかと思い、お嬢様が安堵していた。メイドはとても怖いけれど、お嬢様はとても優しいみたいでホッとした。これなら、わたしは食べられずに済むかもしれないと思い、ほんの少しだけ希望が出てくる。
だが、次の瞬間、メイドがお嬢様の方に向けていたわたしを、手首を返して、今度はメイドの顔の方へと向ける。大きなメイドの瞳に間近で見つめられて、わたしは思わず叫び声を上げてしまう。心配そうに見つめていたお嬢様とは違い、威圧的な視線に怯えてしまう。