お皿の上で 1
しばらくしてから、真っ暗な空間で目を覚ましたわたしは大きな声を出した。
「こ、ここはどこですかー!! メイドさん、どこに行ってしまったんですかー??」
わたしの声は暗闇に虚しく反響するだけだった。とにかくここがどこか探ろうと思って立ち上がろうとしたけれど、まったく体が動かない。暗くてよくわからないけれど、多分手足を縄か何かで縛られている。
今何が起きているのか、具体的なことは何もわからないけれど、わたしの周りで何か異常なことが起きているのは確かだった。途端に怖くなってしまい、さらに大きな声を出す。
「た、助けてください!!! 誰かいませんか!!!」
わたしの声は今いる空間に反響し続けている。声の返ってくる高さから考えて、ドームみたいに天井の高い場所にいることがなんとなくわかった。
わたしの声に返答はなかったけど、代わりに真っ暗な空間の外から、上品な声が聞こえてくる。人を安心させてくれるような柔らかい声だけれど、その大きさが異常に大きかったことや、なぜか暗闇の外から聞こえてきいることが不思議だった。
「ねえ、なんだかこのクロッシュの中から小さな叫び声みたいなものが聞こえてきて怖いのだけれど……。あなたいったいどんな料理を作ったのかしら?」
「お嬢様、こちらは本日のメインディッシュでございます!」
上品な声に呼応して聞こえてきたのは、先ほど聞いたメイドの声にそっくりだった。楽しそうな声と同時に、わたしの閉じ込められていた真っ暗な空間の地面に近い部分が円形に、一斉に明るくなる。ドームの屋根が持ち上がっていくと、わたしは自分の手足が白い縄で縛られていることを確認することができた。
そして、すごい速さでドームが持ち上がっていき、わたしは今自分がいる場所を確認することもできた。もっとも、視覚情報として確認できても、それがどう言う状況なのか、理解することは難しいことには変わりないのだけれど。
だって、わたしのことを巨大な2人の女性が覗き込んでいるのだから。具体的な大きさはわからないけれど、お城よりも大きく見えたから、きっとわたしの50倍くらいの背丈があると思う。
一人は先ほどのメイド。わたしに合格を出したときのような嬉しそうな笑顔だったけれど、さっきの仲間を見る目から、捕食者が被食者を見る目つきに変わっていて怖い。もう一人はとても気品溢れる美しいお嬢様。純白のオペラグローブをした右手をそっと頬に当てて、困ったようにわたしを見下ろしている。
「ここはどこなの!? あなたたちは何者なの!?」
気を付けないと指先で潰されてしまいそうな大きさのわたしは必死に大声を上げていた。クロッシュが持ち上げられることで、光を浴びて周囲が見えても何が起きているのかはわからず、恐怖が増していく。
お嬢様も今の状況がよくわかっていないようで、困惑の表情を浮かべながらわたしを見下ろしている。とても優しい表情をしているのに、その大きさのせいでわたしは怯えてしまっていた。
「なんですか、あなたたちは……。わたしは巨人の国にでも連れていかれてしまったのですか……? わたし、食べられてしまうのですか……?」
完全に気が動転してしまっていて、手足が縛られてうまく動けないのに、必死にもがいていた。
お嬢様は明らかに食事中の風景。お皿の上のわたしを見つめる姿は、客観的に見ると、これから食べる料理を見つめているようにしか見えないだろう。可愛らくて気品溢れるお嬢様なのに、食事の準備万端の様子で小さなわたしを見つめてくる様子はとても恐ろしかった。ただ、幸いなことにお嬢様は一旦食事の手を止めてくれてはいるけれど。