エピローグ
お嬢様が取って来てくれたクスリを飲んで暫くすると、わたしの背丈はあっという間に大きくなっていく。あれだけ大きな、船みたいな大きさのスコーンは1口でも食べられてしまいそうな手の平サイズになっていたし、なにより、あれほど大きかったお嬢様とフィーナが今ではわたしの肩の当たりと、胸のあたりまでしか背丈のない可愛らしい姿になっていた。
下を見ると、フィーナの足は本当に小さくて、わたしを簡単に踏み潰せるような巨大な足に怯えていたことが嘘みたいに思えた。
「本当に申し訳なかったわね。メイドとフィーナがご迷惑をおかけしたわ」
「ごめんですわ……」
あれほど大きくて危ない存在だったフィーナも、元のサイズに戻ってみるとまだ幼い少女であった。そんなフィーナが申し訳なさそうに謝っているのだから、わたしはこれ以上責めることはできなかった。
「いえ、とりあえず無事でしたし、そんなに謝らなくても大丈夫ですよ」
わたしがフィーナに頭を上げるように促す。
「あれだけ怖い目に遭わせて、お詫びがこれで済むのかはわからないけど……」
お嬢様が、上目遣いで、中にクッキーが山盛りに入ったバスケットを渡してくれた。
「うちで作った特製のクッキーよ。最高級の材料を使った美味しい料理だから、あなたの村の人たちでわけてくれたらいいわ」
「あの、最高級の材料って、変なもの入れてないですよね……?」
つい数時間前に自身が巨大なクロッシュの中に入れられていたことが脳裏をよぎった。
「大丈夫よ。あのメイドは調理担当ではないわ。当たり前だけど、あくまでも普通の材料しか使ってないわよ。」
それを聞いて、わたしは「よかった……」と安堵のため息をもらした。
「あの……、今日は本当にごめんですの……。でも、フィーナのこと嫌いになっていなかったら、また今度フィーナと遊んでほしいですの……」
少し申し訳なさそうに言ってくるから、屈みながら視線を合わせて、フィーナの頭を撫でた。
「嫌いになんてなってないですよ。また今度、フィーナさんと遊びにこのお屋敷に来ますね!」
「やった、ですわ!」
フィーナが無邪気にピョンピョンと飛び跳ねていた。
「今度は今の大きさで来てちょうだいね」
お嬢様が真面目な顔をして言うから、わたしは苦笑した。
「もう指先サイズは懲り懲りですから……」
そんなわたしを見て、フィーナが笑顔を見せる。
「今度はフィーナがお人形さんサイズになりますわ」
「やめておいた方がいいと思いますよ……」
「でも、フィーナが小さくなったらわたしの机に置いて、勉強をサボっていないか見張ることができるわね」
お嬢様がクスクスと笑うと、フィーナが慌てて、「ち、小さくならないですわ!」と大きな声を出していた。
帰りは、お嬢様たちの家が所有する馬車に乗せてもらえたので、随分と楽に帰ることができた。怖い思いはしたけれど、可愛らしいお友達ができたし、全部が全部悪い思い出ではなかったのかも。まあ、上品なメイドさんに声をかけられても、迂闊に着いて行くのはやめておいた方がいいかもしれない、とは思ったけど……。




