プロローグ
少しの間気を失っていたわたしは、目が覚めたら真っ暗な空間にいた。
「ここはどこ……?」
何もない広々とした屋内で、ただ声だけが響いている。メイドと一緒に外にいたはずなのに、いつの間にかこんなところに来ていたのだろうか……。
確か、わたしは家の近くで売れそうな薬草を摘んでいるときに、不思議なメイドに声をかけられたのだ。毎日薬草を摘んで生計を立てているから、正直生活はあまり楽ではなかった。何らかの甘い話があれば、多少胡散臭くても乗っかってしまうくらいには。
「あの、そこのお嬢さん、ちょっとお話よろしいでしょうか?」
妖艶な微笑みを浮かべながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる女性とは、面識はなかった。
「なんでしょうか?」
一体何の用なのか、見当もつかなかった。
綺麗なメイド服を着ているから、きっと良家のメイドとして働いているのだろう。少し胸が高鳴った。こんな田舎で不自然なくらい煌びやかな格好をしている。
「いきなりで申し訳ないのですが、これからうちのお嬢様のために尽くしてもらえないかと思いまして」
「それってつまり……」
心臓の鼓動が早くなる。わたしが良家のメイドとして働けると言うことだろうか。そんなのオッケーしないわけがない。わたしの言葉を聞いて、メイドが微笑んで頷いてくれる。
「そんなのもちろん働きます! わたし、掃除洗濯料理、なんでもします!」
「素晴らしい心がけだわ! きっとお嬢様も喜んでくれますね」
うんうん、と頷いたメイドはわたしの方に近づいてきた。
「少しお体を触ってみてもよろしいですか?」
「何するんですか?」
わたしは呑気に尋ねた。
「いえ、ちょっとしたボディチェックのようなものでしょうか。少し他の人から見えないところに行きたいですね」
ボディチェックだから、服を脱いだりするのだろう。だから、見られないようにということだと思い、納得する。
「裸になるってことですよね? この辺は人がほとんど通らないから、多分大丈夫だと思いますよ」
「いえ、脱ぎませんよ。それに脱ぐんだとしたら、さすがに問答無用で建物の中にいきますよ」
メイドは上品に笑った。
「じゃあ、ボディチェックって何をするんですか?」
「ちょっとあなたの体に触れるだけですよ」
「なら、ここでやっちゃってください」
「ええ」と微笑んでから、メイドはそっとわたしの体を撫でていく。頬を触り、胸を触り、腕を触って、太ももを触る。時々わたしの肉を摘んだりもしているけれど、これが何のチェックなのかはよくわからなかった。女性同士とはいえ、しっかりと見つめられるから少し恥ずかしくなりながらも、わたしはジッとチェックが終わるのを待っていた。
「普段から運動をしてるのでしょうね。とっても肉つきが良いわ」
「に、肉つきってわたし太ってます?」
あんまり食事は食べないから太っているつもりはなかったけれど、王都にいる人たちから見たら太っているのだろうか。なんだか不安になってくる。だけど、そんなわたしの不安をかき消すみたいに、メイドの柔らかい笑い声が聞こえた。
「まさか。きちんと運動して適切な筋肉がついていると言うことですよ。わざわざ遠くまで足を運んだかいがありましたよ。きっとあなたなら、お嬢様も喜んでくださいます」
メイドの嬉しそうな言葉を聞いて、わたしも嬉しくなった。
「あの、合否は……」
「もちろん、合格に決まっていますよ。お嬢様のために頑張ってくださいね!」
「はい!」と元気な声を出した瞬間に、メイドの目つきが鋭くなった。口を開けたわたしの口内に、メイドが突然何かを入れた。そして、素早い手つきで水筒の蓋を開けて、わたしの口に水を強引に流し込んだのだ。
「い、今のは!?」
驚くわたしの頭をメイドがそっと撫でた。
「大丈夫ですよ。痛いのはほんの一瞬だけですから」
「痛いのってなんですか!?」
「お嬢様が好みでなければ、わたしが頂いてしまいたいくらい、美味しそうですもの。きっとお嬢様も満足してくれるでしょうね」
一人で呟くメイドの視界には、もうわたしはいないみたいだった。なぜか、どんどん大きくなっていくメイドに何をされたのか考える前に、わたしの意識はフッと途切れた。