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49.君の望みを

レベッカは言葉の意味がわからず、口を開けたまま呆然としてしまった。


数秒の沈黙が流れる。



「わ、私が、ですか?」



慌てて返事をすると、クロードはゆっくりと首を縦に振る。



「ああ。君はいつも、どこか影があった。

 笑っていても、優雅に歩いていても、拭えない陰りが」



目を細めると、長いまつ毛の影が彼の白い頬に落ちる。



「…前に一度俺に話してくれた。『私は一人娘だから、家を継ぐために好きでもない人と結婚して、仕事もしなければいけないのだ』と」



繰り返すループの中で、レベッカが話してくれた心のうちを思い出すように、そっと囁く。



「俺の望みは、君が暗い人生を送らずに、毎日笑顔で過ごすことだ。

 追放令もでず、家のために皇太子と結婚しなくてもいいように」



クロードは、真っ直ぐにレベッカを見つめる。


彼は、自分の感情ではなく、あくまでもレベッカが幸せに生きることが望みなのだという。


悪い噂を流されて1人で教室に座っていたり、追放令を出され泣いているレベッカを、もう2度と見たくないのだ、と。



「質問を返してすまないが、君の望みや、夢はなんだ?」



腕を組み、クロードはレベッカの気持ちを聞いてきた。



「私の夢、は……」



幼い頃から、ずっと願っていた夢。


前世ではその夢を追いかけて専門学校に入り、勉強し、就職し、忙しく仕事をしていた。


いつかその夢を叶えることを目指して。



「自分の服屋を出して、みんなに似合う服装を売ることです。

 素敵な服や靴やメイクをして、キラキラ輝く人たちが見たいんです」



実現できないまま、前世では日々の仕事に追われ、過労で倒れてしまったから。



中学生の時、母の日に作って贈った服を、母はとても喜んでくれた。


初デートに行く友達にメイクをしてあげたら、相手から告白されたと報告してくれた。


背が低いのが悩みだというリリアにパンプスをプレゼントとしたら、恋敵なのに仲良くなった。



ずっと夢見ていて、しかし叶えることができずに諦めた夢を、この転生した乙女ゲームの世界では、できていることが嬉しかった。


ドレスやタキシードを作り、みんなに着てもらい、楽しく過ごしてほしい。


奥底にしまい込んでいた気持ちが、後から後から湧き上がる。



頬を高揚させながら、自分の望みを言ったレベッカを見て、クロードは手を打った。



「決まりだな」


「えっ、決まり、って……」



焦るレベッカに、唇を上げ、紅茶の香りの漂うカフェの窓際の席でクロードは宣言する。



「君の店を出そう。俺も手伝うよ」



優雅なお茶の時間に、公爵はいとも簡単に人生の分岐点になるようなことを言う。



「一緒に君の夢を叶えさせてくれ」



その隣には必ず自分がいると、一言添えて。

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