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39、園庭での君

温かい日差しに照らされ、ゆっくりと園庭を歩いていく。

すると、レベッカは会話をやめ、じっと俺の姿を見つめ考え事をしているようだった。



「どうしたんだ、急に黙って」



何か変なことをしてしまったか、それとももっと気の利いた会話をしなくちゃいけないか、と内心焦っていると、



「いえ、気を悪くされないで欲しいんですけれど、クロード様はブルベ冬なんですよ」


「……は?」



聞いたことのない不思議な単語を言われ、思わず声が出てしまった。


話を聞くと、どうやら今着ているパステルカラーの服は俺には似合っていない、もっと似合う服がある、ということらしい。


そんなこと考えたこともなかった。

頭の中は、どうすれば運命を変えられるかでずっと埋め尽くされていたから。


彼女は、人それぞれにある肌の色や目の色、髪質や肌質によって似合う色があると熱弁している。



「鼻筋も通っており、目力も強く男らしいクールな印象を受ける顔立ちも、ブルベ冬の特徴です」



褒められているようで、悪い気はしない。


確かに従者に用意されたものばかり着ていて、身だしなみについてそこまで深く考えていなかった。


情けない、と思うと同時に、レベッカがそんなにもおしゃれに敏感だとは知らなかった。何度繰り返しても、彼女の知らないことを知ることができるのは新鮮だ。



「クロード様にはもっと似合う服があるはずです。もしよければ私が作ります!お体、採寸させてください」



そう言いレベッカは俺に近づくと、肩に沿って手を置いた。



「お、おい近いぞ……他の者に見られたら…」



動揺して呟くも、腰や足にも手を置き、何やらぶつぶつと唱えながら俺の体を採寸している。

服なんてそんな簡単に作れるのかと尋ねると、趣味だし、素敵な庭園を案内してくださったお礼だと笑う。

彼女が俺を見つめて笑っている、なんて幸せなんだろう。



「つくづく…君は今までとは別人のようだ。楽しみにしているよ」


「はい!」



どうか今回は、ループを回避したいと、俺に向ける可憐な笑顔を見て誓った。




それからというもの、犬猿の仲だったレベッカとリリアが仲良くしている様子がクラスでも見られた。


転んだリリアに、ヒールの低い靴をプレゼントして以来、レベッカはリリアに懐かれたようだ。


リリアが舞踏会に着ていくドレスをレベッカが仕立てているらしい。


彼女たちが仲良く会話しているところなんて、初めて見た。


昼食の時間にユリウスと話していると、どうやら救護室に連れて行ってからリリアと親しくしていて、好意を持っている様子だった。


良い傾向だ。これで、リリアが俺に惚れることも、ユリウスとレベッカが結ばれることも回避できそうだ。



「なあ、リリアって俺のことどう思っているかなぁ」



という恋に恋したユリウスの呑気な問いに、



「ユリウスのことを好きに決まっているだろう。側から見てもわかる。早く舞踏会のパートナーに誘うといい」


「あ、ああ……即答だな、クロード」



危機迫る調子で肯定する。



「応援しているよ」



リリアとユリウスがうまくいってもらわないと困る。


流されやすい恋多き皇太子には、このくらい後押ししなければ駄目だろう。


ユリウスは照れながら、どう誘おうか考えているようだった。




今回は無事、レベッカの悪い噂は流れなかったため、彼女はクラスで孤立することはなかった。


だが、それゆえに俺と放課後の教室で話す機会もなかった。


クラスではリリアと楽しそう会話をしていたし、授業が終われば、リリアのドレスを作らねばと足早に寮の部屋へと戻ってしまう。


未練たらしい俺は、赤い髪が揺れる彼女の後ろ姿を見送るしかないのだ。


もっと彼女と話したい。声が聞きたい、笑顔が見たい。


欲望は止まることを知らずに膨らんでいく。



舞踏会の日付は、直前に迫っていた。

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