37、何かが変わった
無限に続くやり直しの人生に、うんざりしていた。
何をやったって、俺の望む運命になどならない。
悩みがあるなら言えよ、と、泣いていた俺へ慰めの言葉をかけるユリウスに、生返事をする。
廊下の奥を見ると、今まさにリリアが転ぶ瞬間だった。
レベッカは突き飛ばしていないし、リリアは勝手に転んだだけだ。
なのに悪い噂が流れて、レベッカは放課後の教室でひとりぼっちで座っている。
それを慰めて仲良くなったところで、リリアとユリウスの結婚や、レベッカとの別れは避けられない。
何度繰り返しても同じだ。
不毛な女子同士の争いに、もう割って入ることもせず、俺はぼんやりと立ちすくんでいた。
しかし、初めて見る光景が映った。
「リリア様、今履いてらっしゃる靴は、ヒールが高く細いので、転倒しやすくて危険です」
恋しい声が、優しくリリアに語りかけている。
「ポインテッドトゥパンプスになってます。
これならリリア様に似合いますし、きっともう転んだりはしないかと」
訝しげに正面の女子二人を見ると、赤い髪の少女が、新品の靴をリリアに差し出していた。
丁寧に、靴の構造や長所まで告げて。
「お詫びと言ってはなんですが、よかったら受け取ってもらえませんか?」
……こんなのは知らない。
初めて見たその情景に、俺は息を呑む。
同じ髪、同じ瞳、同じ声の令嬢。
人生をなん度もやり直したいと思う、夢に見るほど愛しい姿。
新品の靴をレベッカから受け取ったリリアは、足を引きずりながらユリウスと医務室へと向かった。
それを見送り、満足げに頷いたレベッカが振り返りーーこちらを向いた。
深紅の二つの瞳と、目が合う。
レベッカから行動を起こし、事態が変わるという信じられない出来事に、思わず声が漏れ出てしまった。
「レベッカ。君は……だれだ?」
何か運命が変わった。そう思った瞬間だった。
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