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34、逃れられない

園庭のベンチに座り、ぼんやりと空を見上げた。


白い小鳥が二匹、隣の大木に止まり、小さくさえずっている。


――ああ、この場面は4度目だけど、鳥がいるのには初めて気がついたな。


多大なるストレスで疲弊し、神経をすり減らした俺は、そんなどうでもいいことを考えた。



「クロード、随分疲れているな。

 勉強ばっかりして、ろくに寝てないんじゃないか」



ユリウスは心配して声をかけるが、生返事しかできない。


ぼんやりしていたら、また校舎の奥の廊下で、レベッカとリリアの喧嘩が始まってしまう。



もう何度も見たくない。



「おい、部屋に戻るぞクロード」



虚ろな表情の俺を促し、ユリウスが校舎の方へ歩き出したのを見つめる。


女子の喧嘩を、俺たちが気が付かなければいいんじゃないか。



「……ユリウス、校舎のからじゃなくて、校門を出て外から寮に戻ろう」



立ち上がり、前を歩く背中に提案する。



「ん? なんでだい」


「こんな天気の良い日だ、もう少し陽の下を歩きたいと思って」



俺の言葉に、いい提案だとユリウスは笑う。



「確かにクロードの言うとおりだ、散歩するか」



よかった。提案はたいしたことではないが、これで変えられる。


何も見たくない。何も気が付かない。


発言力の高いユリウスが何も気が付かなければ、誰と恋に落ちることもなく、レベッカも追放されることもないだ

ろう。


勉強会の感想を言いながら、俺はこのまま無事に部屋に戻れる心の中で祈っていた。



しかし。



「ぐすっ……ううっ……」



小さく聞こえた、聞き覚えのある女子の泣き声に、背筋が凍った。



リリアだ。



振り向かなくてもわかる。


なぜ彼女が園庭にいるのか考えるよりも先に、隣のユリウスが泣き声に気がつき振り返らないように画策した。



「ユリウス、そういえば今日は寮の掃除当番だったろう、急いで戻ろう」



園庭を足早で去るように声をかけると、ユリウスも頷き早歩きになった。


しかし、



「痛ぁい……!ぐすっ…」



泣き声はさらに大きくなり、ユリウスはその声に振り返ってしまった。


園庭の真ん中、足首を押さえたリリアがうずくまっていたのだ。



「リリアじゃないか、どうしたんだ?」



俺の必死の演技も虚しく、リリアの姿に気がついたユリウスはすぐに彼女に駆け寄った。



「ユリウスくん……」



大きな瞳を涙で潤ませて、上目遣いで見上げるリリア。


足を痛めているということは、どうやらレベッカと言い争いをし、自分でよろけて転んだ後、園庭を通って女子寮に戻ろうとしていたらしい。



「怪我しているのか? 一体どうしたんだ?」



ユリウスの問いに、



「れ、レベッカ様が……!」



それだけ言って、リリアは唇をつぐみ、ますます激しく泣き濡れるのだった。



狡いやり方だ。それではレベッカが仕掛けたと誰でも誤解をする。



性悪女め。



「そうか。じゃあ、医務室に連れてくから、俺の肩につかまって」



どうやら全てを察したらしい、察しの悪いユリウスは、華奢なリリアに手を差し出し、体を支えた。


近くで密着し、照れたようにはにかむリリア。



「部屋に先に帰ってくれクロード。……って、なんて表情してるんだ」



一連の二人の行動を見て、きっと俺は酷い顔をしていたのだろう。


失望と、嫌悪と、疲労と、諦めと。


繰り返される茶番に、周囲の人間全員嫌いになりそうだ。

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