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15、夕焼けの図書室で

一度自分の部屋に寄り、完成したクロード用の服を持ち、レベッカは学園の図書室へと向かった。


広い学園の最上階、廊下の奥にひっそりとある図書室の扉を開くと、古い本の香りがした。



(クロード公爵はどこかしら……?)



辺りを見回しながら、足音を忍ばせて歩くレベッカ。


すると奥のスペースで広い机にノートを広げ、ペンを走らせているクロードの姿が見えた。


陽が傾き、オレンジ色の夕陽が差し込む窓際で、彼の特徴的な銀髪も夕陽色に染まっている。


机に何冊かの本を重ね、熱心に書き物をしている彼は、まつ毛が長いため、ノートに影が落ちている。


ずっと見ていたいと思うような、美しい青年の姿に、レベッカは密かに息をひそめる。


しかし、ギシ、と床板が鳴り、ノートに視線を落としていたクロードが顔を上げた。



「レベッカか、どうしたんだ」



彼は、本棚の狭間に赤い髪の悪役令嬢を見つけると、そっとペンを置いた。



「ご機嫌ようクロード様。お勉強のお邪魔をしたかしら?」


「いや、一区切りついたところだ」



軽く伸びをして、クロードは凝ったのか肩を揉んでいる。


そうして隙のない仕草で隣の椅子を引くと、



「こちらへ」


とレベッカを促した。


そっと近づき、緊張しながらクロードの隣の席に座る。


広い図書室は静かで、見渡しても他に誰も居ない。二人きりの空間。



「俺がここにいるのがよくわかったな」


「先ほどユリウス王子にお聞きしたのですわ」


「ああ……」



なるほど、とクロードは本を閉じ、納得したようだった。


授業が終わった後、他の生徒は各々遊びに行ったり部屋で談笑をしているというのに、図書室で勉強の続きなど、熱心なものである。



「お勉強されているなんて、真面目なんですわね」


「みんな、舞踏会のことで頭がいっぱいだろうが、終わった後には学期末の試験があることを忘れている」



ふう、と息をつきクロードが告げる。


そうだった、ゲーム内でも試験があり、しっかり勉強のスキルを上げておかないと赤点を取り強制的に補習。


せっかく好感度が上がった男性キャラとデートすることができなくなるという、世知辛い現実仕様になっていた。



「その様子だと、忘れていたようだな?」


「え、ええ……あはは……まあ、最悪一夜漬けでどうにかしますわ…!」



焦った心を見透かされ、レベッカがしどろもどろで返答をすると、クロードは苦笑していた。


その笑った横顔を見て、先日のリリアの言葉を思い出す。


あの冷徹公爵の笑顔を見れるなんて、普通じゃない、と。


「脈アリ」に違いない、と。



(いやいや、クロード様がクールだから誤解されやすいだけで、私が特別なわけではないわ…)



思い上がってはいけない、と自分を律し、レベッカは手に持っていた洋服を渡した。



「これ、この前約束した服を作りました。クロード様に合うパーソナルカラーです」



レベッカが差し出した服を、クロードは目を丸くして受け取る。


綺麗に畳まれたそれを広げると、濃紺のシルク生地のタキシードである。


胸元のポケットには真紅のチーフが入っており、並んだ金ボタンが上品だ。



「本当に、君が作ったのか…?」


「はい! クロード様のためのオートクチュールでございます!」



白い肌と銀髪に似合う、ダークネイビーの生地で仕立てたのだ。


自信満々にいうレベッカに、クロードがタキシードを撫でながら目を細める。



「そうか、俺はブルベ冬だからな」



覚えていたのだろうその単語を言い、クロードはおかしそうにくつくつと喉の奥で笑っている。



「では、試着を……」


袖を通そうとするクロードを止める。



「いや、ぜひ当日のお楽しみにしたいので、ぜひお部屋で着てくださいまし!」



サイズもきちんと測ったので大丈夫だろう。


似合うか確かに今すぐ見たい気持ちもあるが、煌びやかな舞踏会当日に、彼のタキシード姿を初めて見たい気持ちがあった。


レベッカの言葉に、そうか、と頷くクロード。



「……ふふ、女性から贈り物をされるなんて、初めてだ」



西陽が差し、彼の少し照れた微笑みをオレンジ色に染める。



「騒がしく、いろんな人の私情が渦巻いた舞踏会は苦手で、憂鬱だったんだが。

君のおかげで少し楽しみになったよ」



冷酷公爵の優しい言葉に、レベッカは力強く頷く。



「そのタキシードを着れば、きっとクロード様が舞踏会で一番注目されますよ!」


「……そうかな」



レベッカの言葉に、小さく首を傾げるクロード。



「君のドレスも楽しみにしているよ」


「はい!」



西陽が差し込む図書室で、二人きり。


まっすぐな瞳に見つめられ、レベッカは自分の鼓動が早くなっていくのを感じた。


ただ一つ、大切な問い。



『クロード様は、誰と踊るんですか?』



その言葉だけは聞けずに、レベッカは唇を少し引き締めた。

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